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豊かさのニューノーマル

人口減に高齢化…「負の7冠」秋田。世界の視点で見ると実は

自殺率に婚姻率と、秋田は全国最悪のデータが7つもある「負の7冠」で知られる。「人口減」「高齢化」という世界が直面する悩みをいわば先取りしているが、それだけに、実はこれから「エキサイティングな時代を迎える」のだという。国際教養大学(秋田)の熊谷嘉隆教授に、くわしく聞いた。(GLOBE記者 西村宏治)

落ち着いた雰囲気の国際教養大キャンパス=西村宏治撮影


秋田市にある国際教養大は2004年に開学、ユニークな教育方針の公立大学法人だ。1クラスあたり平均20人を切る少人数教育を徹底し、授業はすべて英語。教員の5割強は外国人だ。留学生が全体の2割を占めるほか、学生には卒業までに1年間の海外留学が義務づけられている。


グローバルな色彩の強い国際教養大が2005年、「地域環境研究センター」(現・アジア地域研究連携機構)を立ち上げた。学生の地元の学校への派遣や、地域の将来を考える学術研究も進めてきた。


熊谷教授はこの組織で10年以上、トップを務めてきた。アメリカでの研究生活が長く、海外の研究者との交流も深い。そんな熊谷教授が言うには、「秋田は悲観的な話題が多いですが、見方を変えれば、ワクワクするような時代が来ます」。どういうことだろう。


――秋田は今年4月には人口が100万人を切り、人口減・高齢化が大問題になっています。

人口減はかなり前から予想されていたことです。人口転換の理論によれば、人口動態は多産多死の状況に始まって、まず死亡率が医療や衛生環境の改善で下がり、それから出生率が下がっていくと説明されます。


日本では明治以降に死亡率が下がり、合計特殊出生率も1970年代には2.0を下回って、少産少死時代に入ります。人口が減るというのは、はっきりしていたんです。

熊谷嘉隆教授=西村宏治撮影

私が秋田の研究に取り組み始めたのは、こちらに来た2004年からですが、当時すでに、秋田県の人口減は予想されていました。すでに10年ほど前に、秋田県の人口は2020年までに100万人を切り、2040年には75万人程度になっていくという予想もあったのです。


人口予測は将来統計の中でも非常に精度の高いもので、外れることはあまりありません。しかし、危機感はなかなか共有されず、どうやって人口を増やそうかという発想になっていました。秋田では人口100万人を切って、ようやく現実が広く認識され始めたと感じています。


――なぜ、そんなに後手に回ったのでしょうか。

地域で調査を続けていると、人口減への危機感が共有されにくいことがわかります。自治会レベルで、事情がまったく違うからです。その地域にどんな年齢構成の世帯があり、どんな生業で暮らしているかなどによって、必要な対応はまったく違います。


暮らしが維持できている間は、思ったほど危機意識が生まれません。年齢構成をなんとかしようという集落は限られています。一方で、極端に高齢世帯が多くなってしまった集落では、「しょうがない」という雰囲気です。


しかし、このままでは今の社会制度は維持できないでしょう。いま秋田が経験していることは、遅かれ早かれ日本のほとんどの地域がたどる道ですし、さらに言えば、世界のほとんどの地域がたどる道です。そういう意味では、秋田は世界のトップランナーと言えるかもしれません。


――世界的に見てもですか。

人口減と高齢化は日本がトップランナーで、おそらく欧州がそれに続くでしょう。いま成長しているアジアも、いずれはこの道をたどると思います。台湾やマレーシア、タイといった地域の研究者たちと議論すると、彼らは自分たちも将来直面する問題として、日本の高齢化に非常に注目しています。研究者間では交流も始まっています。


――人口を増やそうという発想にはならないのでしょうか。

その危機感が非常に強く、大胆な政策をとったのがフランスです。出生率が大きく改善しました。しかし日本でいまから子どもを増やす政策をとっても、効果が出るには時間がかかります。そのことも含めて10年先、20年先を考えるべきなんです。


世界で例外と言えるのはアメリカでしょう。世界中からいろんな人を集めて、その知恵を生かして国を支えている。私もアメリカで研究していましたが、もともとが移民の国ですから、移民に対する懐が深い。トランプ大統領が就任して移民への対応が注目されていますが、大半のアメリカ人は、移民のおかげで国が成り立っていることをよくわかっていると思います。自分たちも2~3代前は移民ですから。


でも世界のほかの国々、特に日本がアメリカのような道をとれるかというと、私は難しいと思っています。

秋田県の人口は右肩下がり。高齢化も急速に進んでいる

――人口減に高齢化。具体的には何が問題になってくるのでしょうか。

まずは生産年齢人口の減少による経済の縮小と、税収減でしょう。この先数十年は、高齢者の比率が高い状況が続きます。社会保障なども含めて抜本的な考え方の変更を迫られると思っています。


年金制度が典型ですが、いまの日本は人口が増えて経済が成長していく前提で成り立っています。これを見直さなくてはいけません。10年先、20年先を見据えた議論を早く始めないといけないんです。


そこでまず大きな議論としては、どういう国をめざすのか。世界の中でどういう立ち位置の国をめざすのか。経済が縮小していくことについてはある程度受け入れ、文化、芸術、研究などで世界のイニシアチブをとっていくことを考えるなど、大きな国のデザインを考える必要があります。


時代が変わる中で、いろんな物事の「再定義」を迫られることになるのです。


――とはいえ、経済がもたなければ社会が回っていかないのではないでしょうか。

もちろん大きな成長は望めないかもしれません。しかし私は、人口減と高齢化を前提にしてビジネスも「再定義」していけば、社会を支える税収を確保するぐらいの経済は、維持できるとみています。


たとえば、すでに秋田の高齢者の入所施設には、積極的なリハビリに取り組んでいるところがあります。肉体的・精神的な衰えを止めるだけでなく、社会参加できるところまで持っていこうという目標を掲げていて、実際に成果も上がっています。これは介護ビジネスの再定義です。こうしたノウハウが社会的に積み重なれば、社会保障費を抑えることもできます。


このノウハウを積み上げれば、20~30年後には、アジア諸国に技術移転できる可能性も広がってきます。世界がこの先、同じ状況になることを考えれば、大きなビジネスチャンスです。


ものづくりについても、人口減が前提となれば、より多くの労働者を使った大量生産は難しいわけですから、いかに先端事業や生産性の高い事業にシフトするかの再定義を迫られるでしょう。そのための体制づくりをどうするのか、考えなければなりません。


高齢者とイノベーションをどうつなぐか、高齢者の知恵や経験則をどう生かしていくかという取り組みも、ますます求められてくるものと思います。

熊谷嘉隆教授=西村宏治撮影

――ものの見方を変えれば、まだまだチャンスはあるということですね。

そう思います。どうも悲観的な見方が多いのですが、これからは時代の文脈が大きく変わり、それに社会が適応していくためいろんなことが再定義されていくと私は考えていて、とてもエキサイティングなことだと思っています。新たな可能性が広がってくるのです。


暮らしの再定義も迫られるでしょう。たとえば日本では「過疎」とか「過密」とかが注目されます。しかし私はこれから、「適疎」という暮らし方があってもいいのではないかと思っています。かつてはインフラの問題もあってバラバラに住むのは不便だったかもしれませんが、いまは技術的に十分可能です。


車で1時間かけて買い物に行くというと、日本では「不便」とか「大変」だと思われるかもしれません。しかし私はかつてアメリカで暮らしていましたが、1時間ぐらいは、慣れればなんともないです。そういう再定義もあり得ます。そうすると、暮らし方への考えは大きく変わるはずです。


豊かさについても、再定義があるんじゃないしょうか。私が秋田に赴任して驚いたのは、ホームセンターのガーデニングのコーナーが非常に充実していて、週末に訪ねると、とても繁盛しているのです。一般には地方は貧しいと思われているかもしれませんが、ガーデニングができるというのは、それなりの土地や時間、収入があり、さらに心の余裕もあるということです。これはとても豊かなことだと思いますよ。


――大学もまた、その豊かさづくりにかかわっていくわけですね。

私たちは教育研究機関ですから、国内外を問わず、いろんな方とフラットにおつきあいができます。地元の方や起業家、経営者のみなさん、国内外の研究者、いろんな人たちが将来について考えていく「土俵」を提供していこうと思っています。先ほども申し上げましたが、アジアの研究者の関心は非常に高いです。


時代に応じた考え方の再定義は、これで終わりということにはなりません。時代の文脈はどんどん変わっていきますから、それに対する最適解は常に変わっていくはずです。それに対応できるのが「レジリアント」(強い)社会です。秋田から、そうしたしなやかな足腰を持つ社会をつくっていくことに、貢献できればと思っています。



くまがい・よしたか

1993年、米モンタナ大卒、2001年に米オレゴン州立大で博士号。専門は森林社会学。2004年に国際教養大に赴任し、07年に教授。2005年から、同大学で地域研究と地元との連携などを手がける地域環境研究センター(現・アジア地域研究連携機構)のトップを務めている。

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