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豊かさのニューノーマル

そうは言っても人が減る地方。盛り上がれるの? 秋田で聞いてきました

「移住が盛り上がっている」。前回前々回の「豊かさのニューノーマル」でそうは書いてきたものの、秋田は人口減に高齢化と、日本が直面する課題のいわば「トップランナー」。暗いニュースばかり聞かされてきた秋田の人たちは、地元にどう向き合っているのか。盛り上げようと発信を続ける秋田市在住の漫画家・イラストレーター、こばやしたけしさん(45)に聞いてみた。(GLOBE記者 西村宏治)



――ご出身もお住まいも秋田市ですが、就職は関東だったそうですね。

1990年から茨城県で会社員をし、93年にUターンしました。家業が人手不足だから戻ってこい、と。鋳造品の木型制作の職人になったんです。


――そのときは、帰るのが嫌だといったことは?

私の場合は、あまりなかったですね。


――帰ってみて、秋田がいいところだと改めて感じたわけですか。

確かに改めていいところだと思った部分はあります。たとえばお米ですね。茨城県では寮生活だったせいもありますが、秋田ではふだんのお米でもおいしいので。ただ、そのときはそこまで地元のことに関心があったわけではないんです。


――では、どんなきっかけで地方活性化に関心を?

1998年に結婚したのが大きかったです。妻といろいろ話すうち、秋田のニュースもよく見るようになりました。そこからですね。少子化、高齢化、中心市街地の再開発など、いろんなことを気にするようになったのは。暗いニュースが多かったんですよ。観光も、もうひとつパッとしないとか。


そこで、このままでいいのかな、地元のことをもっと考えないといけないんじゃないかな、と思うようになっていったのだと思います。秋田はPRが下手だ、とも言われていましたので、自分でも発信できることがあるんじゃないかという思いもありました。


――それで絵を描き始めた。

ウェブで漫画の連載を始めたのは、子育てが一段落した2007年からです。もともと絵が好きだったこともあって。そのときは地方活性化を考えようというよりは、秋田の「あるある」話をまとめていった感じです。地元の出版社からお声がかかって、2010年に「はじめての秋田弁」という本になりました。いまは漫画とか、イラストのお仕事をいただいて生計を立てています。どちらかと言えば県外の仕事が多いかもしれません。


――そうやって地元を意識した漫画を描き始めて10年になるわけですが、その間の秋田の変化はどう感じていますか。

そこまで大きく感じませんが、ときおり東京に行くと、秋田の若者の少なさは実感しますね。10~15年前はそこまで感じませんでしたが、子どもや若者は確かに減っています。秋田県内の出生数は、私が生まれた頃は年間約1万5千人でしたが、今は5000~6000人。だから秋田はいま、すごく人手不足なんです。


――著書「地方は活性化するか否か マンガでわかる『地方』のこれから」(2015年)は、地方活性化に取り組む人たちを中心に注目を集めました。いまの地方への関心の高まりについて、どう感じていますか。

ひとつ象徴的かもしれないのは、2013年に出した「秋田弁! 単語カード」です。思った以上に売れまして。おみやげもの屋さんやアマゾンでも売っているのですが、観光客向けに販売したつもりだったのが、実は秋田の人にも結構売れているようなんです。そういう意味では、地元の人が地元に少し興味を持つようになってきたのかもしれません。

秋田人に人気?の「秋田弁!単語カード」。この意味、みなさんわかりますか?

本当に注目されるようになってきたのはこの2年ぐらいだと思います。急に盛り上がったような印象ですね。メディアのみなさんからも、いろいろ声をかけていただくようになりました。


――なぜ今になって、と思いますか?

ひとつは、地道に続けてきたからだと思います。もともと「地元のために」というよりも、自分がおもしろいから始めた部分がよかったと思うんです。秋田県には、にかほ市を中心に活動している「超神ネイガー」というローカルヒーローがいるんですが、彼らも、もう10年ぐらいこうした活動を続けていると思います。人気には波がありますが、ここ2~3年、特に注目されるようになってきてますね。


世代交代もあると思います。私たちがこういうことを始めたころは、「バカなことをやっているな」という人たちがまだいました。なんとなく地元を下に見る雰囲気もありました。でも、いまの若い世代は、あまり抵抗感なく受け入れてくれている気がします。最近でも、たとえば大館市では今年、高校を卒業したばかりの若者が「コウライザー」というローカルヒーローでデビューしました。こうした動きは、ゆるくゆるく広がってきたわけですけど、少しずつ浸透していっている感じはあります。


―若い人たちが外に出て行ってしまう流れは続いているようですが。

外に出ることは重要です。私もそうでした。それで学ぶことも多いですし、止めることはできません。でも無理をして、つけ焼き刃の移住促進で若い人たちを呼んできても、うまくはいかないでしょう。数も限られますし、その先のことも分からない。それよりも普通のひとが帰ってきたとき、あるいは移ってきたときに、きちんと暮らしていけるような商売とか経済とか、そういうことが重要だと思うんです。


――秋田がトップを走る人口減に、高齢化。どうとらえていますか? 秋田は2015年の調査で、5年前からの人口減少率が5.8%で全国トップ。65歳以上人口の割合も33.8%とトップです。

この流れにはもうあらがえないんじゃないでしょうか。一朝一夕で変えられる問題ではないですよね。これはこれで受け入れたうえで、ではどう生きていくのかが問われているんだと思っています。ところが、実際にはまだまだ「なんとかして人口を増やそう」という声が大きい。私自身は難しいと思っています。


でも一方で、人工知能(AI)とか自動運転とかいった技術も含めて、いかに知恵を出して生きていくか。現実と、生き方をすりあわせていくことが大事だと思っています。もう覚悟を決めて、首長や行政は早く対応を考え、実践していかなければいけないと思っています

秋田市内に美術館と一体で整備された商業施設

――著書「地方は活性化するか否か」でも、地元の人、それも民間が動かないとダメだという訴えがあったのが印象的でした。

どんなことでも、民間の自発的な取り組みがないと続いていかないと思うんです。たとえばコンパクトシティーの考えについてもそう。秋田市は人口減に備えてコンパクトシティーをめざすといって、中心市街地に美術館や商業施設を整備しました。でも、それをどう使っていきたかったのか、最終的にどういうゴールをめざしたかったかが、よく見えないんです。補助金がとれるように、予算がとれるように、という感じが強いんです。


大事なことは、地域で問題意識を持って、自分で動く人たちが出てくるのかどうかだと思います。


モノという面では、インターネットの発達で都会も地方も関係なくなってきました。私が珍しい画材を買うときも、ネット通販を使えば早ければ翌日には届きます。


東京の強みは文化的なことですよね。コンサートやお店がたくさんあるとか。でもそれは、こちらから行くこともできる。お金ではなく精神的なもの、普通に暮らせることが豊かさなんだ、というように考えるひとが増えてきていると思います。


地域への関心の高まりは感じています。だから、これから少しずつ、地方に住む人たちが、自分たちの手でいいところを見つけ直して、地域づくりをすすめていく、そんな動きになってくるんじゃないかと期待しています。




こばやしたけしさん

こばやしたけし 1972年、秋田市生まれ。2007年からブログで4コマ漫画の発信を始め、2010年に「はじめての秋田弁」(無明舎)を出版。2015年に出した「地方は活性化するか否か マンガでわかる『地方』のこれから」(学研プラス)は、高校の地域学の授業でもテキストに使われている。

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