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豊かさのニューノーマル

東京のベンチャー、秋田・五城目町に熱視線

移住が盛り上がっているのは、新潟だけではなかった。国内外から今、熱い視線が注がれているのが秋田県五城目町だ。秋田市から車で北へ約1時間、人口約1万人の小さな町に、視察も相次いでいる。何が起きているのだろう。秋田へ向かった。(GLOBE記者 西村宏治)



五城目町の転機は2013年。廃校になった小学校の校舎をシェアオフィス「BABAME BASE」(五城目町地域活性化支援センター)として起業家に貸し出したら、小さなビジネスを生む人たちが集まり、活性化につながっているという。中心にいるのが、入居第1号となった教育ベンチャー「ハバタク」(東京)の代表取締役・丑田俊輔さん(33)。秋田ならではのものを生かした土着のベンチャーを呼び込む「ドチャベン」、築130年の古民家を維持する「シェアビレッジ」、街中に子どもや大人の学び場、遊び場をつくる「ただの遊び場」……さまざまな取り組みを次々と仕掛けている。



――もともと東京のご出身ですよね?

生まれたのは福島県ですが、基本的に東京です。大学卒業後は、コンサルタント企業に入り、クライアントの日本企業のグローバル戦略づくりのお手伝いをしていました。時差や人材など、さまざまな条件をもとに、経営資源の最適配置を考える仕事です。


たとえば工場は中国に移すとか、プログラミング部門はインドに置くとか。「日本人ひとりぶんのコストで、現地のエンジニアが何人雇え、生産性がこれぐらい上がります」というような戦略をつくっていました。


――「脱日本」の仕事をしていた。

そうですね。


――秋田とはなかなかイメージが結びつかないですが。

実は学生時代、東京都千代田区のシェアオフィス「ちよだプラットフォームスクウェア」の立ち上げにかかわっていたんです。中小企業の知恵を集めて新しいうねりを起こし、街の活性化につなげていこうという大きなビジョンを持った取り組みでした。運営会社も、「非営利型株式会社」というとてもユニークな形です。


ですから、「地域から新しいものを生み出すのがおもしろい」という体験は、もともと持っていたんですよね。ただ、もう少し挑戦してみたいということと、グローバルな仕事がしたいという思いもあってコンサル会社に就職したんです。


――そのコンサル会社で、グローバル化に疑問を感じていたわけですか。

いや、そうでもないです。


会社で体験したグローバルな動きはとてもダイナミックで、それはそれで前向きにとらえていました。競争の中で世界規模のリソースの再配分が行われ、それまでのビジネスをひっくり返すような破壊的なイノベーションが起きてくるという流れがあって、「これは、行くところまで行くだろうな」とは感じていました。


ただ、じゃあその先どうなるんだろう、特に日本はなにができるんだろう、というような微妙な思いはありましたが。

2013年にオープンしたシェアオフィス「BABAME BASE」(五城目町地域活性化支援センター)

――2010年には、仲間とともに教育ベンチャー「ハバタク」を起業されました。思い切った決断ですね。

いや、コンサル業界にいると、自分でアイデアを得て起業するといった人は少なくないので、特に驚かれもしなかったですよ。ああ、がんばれよ、みたいな感じでしたね。


――そこで教育に目を向けた理由は?

何か新しいことをやりたい、という思いはまずあったんです。「じゃあ何やろうか」となったときに、やはり新しい社会の中で、OS(基本ソフト)にあたるようなことをやっていきたいなと。それには教育だろうと考えました。ちょうど、子どもができたころだったことも大きかったですね。


ぼくらは「新しい学びのクリエイティブ集団」と言っていますが、シェアオフィスで常時起きているような「共創」を、教育の現場でも起こしていきたい、という思いです。最初は北欧やインドなど世界各地を旅しつつ、何ができるかを探っていきました。


――そのころは、まだ東京ですよね。

東京です。そのころ起きたことで大きかったのは、やっぱり東日本大震災ですね。発生時は海外にいて、慌てて戻ったんですが、このとき感じたのはやはり、コミュニティーがない、ということでした。


東京のマンションは、固まって住んでいるのに、助け合うわけでもない。その脆弱さを、目の当たりにしました。そのときはそこまで意識していなかったと思いますが、その後に秋田に来るきっかけのひとつになっていると思います。

BABAME BASEの内部。廃校になった小学校の校舎をそのまま使っている

――秋田への移住は、2014年。ハバタクの本社がある「ちよだプラットフォームスクウェア」に、五城目町の役場もサテライトオフィスを持っていたことがきっかけになったそうですね。

町が千代田区と姉妹都市なので、入居していたんです。ただ、直接は知らなくて、知り合いにシェアオフィスの取り組みを紹介されたのがきっかけです。妻が秋田市出身なので、帰省ついでに見てみようかな、と訪ねました。


――移住するつもりもなく。

あまりはっきりした目的もなく、とりあえず行って、考えてみようと。なんでもそうで、旅をしながら考えることが多いんです。ところがその日、地元の方と飲んだんですね。そしたら、みなさん熱いんですよ。地域をこうしたいとか、ああしたいとか。なぜか、その飲み屋にどんどん人も集まってきて。いや、これは面白いと思って移住を決めました。有名な観光地でもない「ふつうの田舎まち」だったところも、暮らしや挑戦の場として気に入りました。


――その場で。

はい。


――めちゃくちゃ急ですね。

子育ての環境がすごくいい、というのもありましたよ。東京23区内のマンション暮らしでは、やっぱり保育園と家以外の、出会いの場が少ないと感じていましたから。それで移住を決めて。役場の人とかは、大丈夫か?と思っていたみたいですけど。


――そうでしょうね。

でも、地方に新しい可能性は感じていたんです。コンサル時代の経験で、グローバル化の流れが止まらないのはわかる。問題はその先です。このままAI(人工知能)がくる、自動運転がくる、IoT(家電や車、設備など様々な「モノ」がインターネットでつながること)がくる、再生可能エネルギーがくるとなっていったときに、まだ分かりませんけど、本当に限界費用(※)がゼロになる社会がくるかもしれない。


※限界費用 なにかを生産するときに、追加的にかかる費用のこと。社会評論家のジェレミー・リフキンは著書「The Zero Marginal Cost Society (「限界費用ゼロ社会」の意)」(2014年)で、インターネットによるシェアサービスの広がりや、再生エネルギー利用の発達で、この費用がゼロに近くなり、企業が利潤を確保するのが難しくなると説いて話題を集めた。

BABAME BASEから見える田園風景。広がる田んぼが美しい。

もちろんいまはシェアリングエコノミーと言いつつ、その裏側はまだまだ従来型の、生産と消費を軸にしたグローバル資本主義が支えていますよね。たとえばシェアサイトに広告がつくとか、そういう形でビジネスが進んでいます。


でも、それでもシェアの流れは確実に始まっている。そしてそれがどんどん広がって、モノを手に入れるコストが劇的に下がってきたときに、何が求められるかを考えると、原点は衣食住を軸にしたコミュニティーなんだろうと。地方が強いのは、そういう衣食住が完結でき、長い時間を共有できるコミュニティーがあることですよね。


田畑があり、山があり、助け合いのコミュニティーがある。暮らしに直結した、ここにしかないものがある。そういうものを軸に、暮らしやビジネスや、豊かさを考えていくことが、ものすごく必要とされるんじゃないか、そういう風に思ったんです。


――GLOBEでは2017年2月号の紙面で、「連帯経済」の特集をやっているんですが、その考えに近い気もします。

近いかもしれません。ただ、イメージとしては組合のようなものではなくて、もっとゆるいコミュニティーができてくるだろうと思っているんです。農業とか、小商いとかを軸に、自分が、ひとつだけじゃなく、いくつもそういうゆるいコミュニティーの構成員となっていて、それがいろんなつながり方をしてビジネス、経済が回っていくイメージです。コミュニティーと言っても、いまは現実のつながりもあれば、バーチャルなつながりもあり得る。そうなると、広がりはかなり大きいんです。


テクノロジーの進化の影響も大きいです。というのも、ソーシャルメディアの発達のおかげで、コミュニティーの維持コストが劇的に下がっているんですよね。おかげで、いろんな人がゆるくつながり続けることができる。

築130年の古民家を生かしたシェアビレッジ。年会費「年貢」を納めると「村民」となり、宿泊や郷土料理などが体験できる。

たとえばシェアビレッジのときは、古民家の改修費用がクラウドファンディングで600万円集まりました。「村民」となれば、泊まりに来ることもできるんですが、全ての人が頻繁に来るわけではないし、来ない人もいるかもしれない。


でも、ビジョンへの共感や帰属意識は持ってもらっていると思うんです。そこで1回でもいいから来てくれればいいし、あるいは気にかけてくれるだけでも、なにかのきっかけでビジネスが生まれるかもしれないし、移住してくる人がいるかもしれない。


逆に、シェアビレッジには半田理人という、隣町出身のうちの従業員がいるんですけど、彼は「家守」としてここに住み着いて、近所の方にもお世話になりながら、現実のコミュニティーにしっかり入って活動しているんです。そういういろんなコミュニティーの絡み合いから、新しいものが生まれてくるんじゃないかと思うんですよね。


――会社員時代に経験されていたグローバル資本主義の現場からすると、正反対という感じもします。

そうかもしれませんが、僕の中では、グローバルな資本主義という世界と、五城目での取り組みのような世界とは、併存しているイメージです。


テクノロジーの観点で見ても、グローバルな資本主義のもとでの破壊的イノベーションっていうのはまだあると思いますし、その恩恵は存分に活用していくべきだろうと思っています。でも、一方ではインドのジュガード・イノベーション(※)のように、地域から生まれてくるイノベーションもあるわけで、そういうイノベーションは、日本の地方からも起こしていけるでしょう。


※ジュガード・イノベーション 「ジュガード」はインドの考え方のひとつで、限られた手持ちの材料と創意工夫で課題を解決してしまうような状況。電力網の未発達を踏まえて開発された、電気を使わない陶器製冷蔵庫などが、ジュガード的なイノベーションの例として挙げられることが多い。


さらに言うと、このふたつの世界はどんどん交わってくると感じています。テクノロジーの進化で、地域発の取り組みはこれからどんどん広がっていくだろうし、一方でグローバル資本主義もいき着くところまでいけば、ほころびが出てきて、軌道修正を迫られるでしょう。そうなっていったときに、いま五城目から始めているような取り組みが次の社会づくりに役立っていくと思います。

シェアビレッジから見た庭先。住んだこともないのに、なぜか「ふるさと」を感じさせる。

――ただ、人口減とか高齢化とか、秋田が抱えている課題はまったなし、ですよね。

基本的には、人口を増やしていくというよりは、「縮小しながら高齢化する社会」を受け入れ、いかに適応していけるかだと思っています。ただ、年齢のバランスの問題は気にしています。持続可能なコミュニティーを考えたときに、高齢者だけになるのは、やはり厳しい。



それに「豊かさ」の物差し自体も変わってきているので、古い社会の枠組みのもとで課題を設定しても解決はできないでしょう。枠組み自体の再定義が必要だと思います。そこで、地域にゆらぎを生み出す起業家を呼び込むドチャベンをはじめ、「学び」を軸にいろんな取り組みを並行して進めて、地域がゆるやかに変わっていくことをめざしています。若い世代がふつうに働きたいと思う多様な仕事や、暮らしていて楽しいとか、子育てしたいとか思える環境が、なにより大事だと思います。



――今のところの、手応えは。

ぼく自身はよそ者ですが、3年あまり活動を続けてきて、地元にも応援してくれるひとたちが出てきています。やはり町の発展やコミュニティーづくりは、内発的じゃないと成り立たないし、持続可能でもない。だから地元の人とも少しずつコミュニティーができていっているのが、ありがたいですね。BABAME BASEの入居者も半数近くが地元ですし、新たに起業された方もいます。そういう人たちと少しずつ、できることをやっている段階ですね。


移住について言うと、ぼくはいまを「マッチョ期」って呼んでるんですが、都会の人がいきなり地方に来て暮らすのは、そう簡単じゃないと思うんです。でも「地域で起業して新しい価値を生み出したい」「安定した仕事じゃなくても、暮らしながら考えていきたい」みたいな熱量のある人たちはある程度いて、そういうある種「マッチョ」な人たちが、いま日本中の地方に移り住んでいると思うんです。


でも、より大事なのは、ここからです。「ヤセマッチョ期」と言ってるんですが、そこまで激しくなくても、ちょっと地方で暮らしたいとか、ゆっくり子育てしたいとか、地方がおもしろそうだっていうひとたちはいるわけです。そういう人たちに、いかに集まってきてもらうか。または、地元に住み続けている人たちが、幸せに暮らし続けられるように、小さなチャレンジが生まれ続ける機運をつくっていくか。そして「ニューノーマル」じゃないですが、いわば「中肉中背期」ですね。普通の人が普通に住むようになることが最終的な理想で、そこにいかにつなげていけるかだと思っています。




うしだ・しゅんすけ/1984年、福島県生まれ、東京育ち。東京で会社員を経験したあと、2010年に教育ベンチャー「ハバタク」(東京都)を起業し、代表取締役。2014年4月に秋田に拠点を移して活動を続けている。


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