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豊かさのニューノーマル

幸せって測れるの?!

オランダの「幸福博士」にインタビュー

幸せってなんだろう? 自分はどれくらい幸せ? そんな疑問にかられたことはないだろうか。実は世界ではここ15年ほど、「幸せ」の度合いを国や地域の単位で測ろうとする試みが盛んだ。でも、一人ひとり基準が違うはずの「幸せ」なんて、数値化できるのだろうか。「幸せ」を学問として研究し、「世界幸福データベース」を運営するオランダの「幸福博士」、エラスムス大学名誉教授のルート・フェーンホーヴェン(74)に尋ね、見えてきたことは……。(GLOBE記者 宋光祐)

エラスムス大学のルート・フェーンホーヴェン名誉教授=宋光祐撮影

幸福度と言えば、「国民総幸福(GNH)」を国の目標にしているブータンが有名で、日本でも2005年に東京都荒川区が「荒川区民総幸福度=Gross Arakawa Happiness(GAH)」を立ち上げた。フェーンホーヴェンの場合は早くも約半世紀前から研究を始め、「世界幸福データベース」は158カ国・地域の幸せ調査をもとにしている。取材の旅に出る前、同僚の西村宏治記者との対論で「経済成長以外の指標とか考え方、価値観が必要」と訴えた「脱成長派」としては、とても興味をそそられる。


エラスムス大学の彼のガラス張りの執務室に入ると、後ろの壁にかけられた1枚のパネルが目に入った。「World Database of Happiness(世界幸福データベース)」。机には資料や本が平積みになり、大きなデスクトップのパソコンが1台。よくある研究室にしか見えないこの場所で、世界中の国々の幸福に関するデータが日々蓄積されているということか。


ただ、自分がどれくらい幸せかなんてあくまでも主観だし、何が幸せかは人によって違うはずだ。「幸せを測るのなんて、難しいのではありませんか」。遠慮がちに口にした私の質問を、フェーンホーヴェンは一蹴した。「幸福というのは、どんな人にも同じものです。つまりあなたがどれくらい自分の人生を好きかということ。何がその人を幸せにするかが違うだけです」


フェーンホーヴェンは大学院生だった1960年代後半から、「幸せ」を学問として研究してきた。人々の幸福度合いをテーマに論文を書く、と当時の指導教授に伝えた時も、「幸福なんて測れない」と言われたそうだ。若きフェーンホーヴェンの反論は今も変わらない。「自分の人生にどれくらい満足しているかは、自分でわかるものでしょう。本人に尋ねればいいんですよ」。そうしてフェーンホーヴェンは、世界の人々がどれくらい幸せなのかを示すデータを集め続けてきた。

エラスムス大学のルート・フェーンホーヴェン名誉教授=宋光祐撮影

各国・地域の行政や民間機関、大学が「幸福」や「人生への満足度」などをテーマに実施したアンケートを、同僚ら15人と手分けして収集し、その調査結果などをデータベースに入れているという。調査の収集には、インターネットや各国・地域の新聞・出版物のほか、米ギャラップ社が各地で実施する世論調査なども利用している。そうしたデータをもとに、それぞれの調査時点での幸福度の平均と、人生全体の幸福度、幸福度の格差の計3つを国・地域ごとに数値化している。使うデータはシンプル。要は「自分がどのくらい幸せを感じているか」について答えてもらい、それを0~10までの数値にしている。


フェーンホーヴェンは多くの研究論文を読むうち、人間を幸福にする要素には3つの共通点があることがわかったという。「食べる」「他者との関係」「意味のある活動」。国が違っても同じだそうだ。「幸せの条件は、普遍的なものですよ」


ちなみに宗教は、幸せには大きな影響を与えないのだそうだ。地域によっては、敬虔な信者が多いほど幸福度が下がる傾向すらあるという。


さて、日本はどうか。


フェーンホーヴェンがパソコンで世界幸福データベースのサイトにアクセスし、158カ国のリストからJAPANを探し出すと、05~14年の平均の幸福度は6.4とあった。「日本の人たちは以前からすごく幸せになったわけでもなく、不幸になったわけでもない、というところですね」。日本のデータを個別に見ると、平均幸福度は1958年から2013年まで6.0前後を上下していた。過去最高でも、93年の6.8。仮に誰かに「あなたはどれくらい幸せですか」と聞かれたら、私自身も何となく6と7の間の数字を言いそうな気がしてくる。

ロッテルダム中央駅=宋光祐撮影

お隣の韓国は、6.1。日本に比べて過去のデータが少ないが、81年と01年には4.5という結果もあった。中国も過去20年は4~6の間を上下している。


「世界で一番幸せな国はどこですか」。当然わき上がるこの疑問への答えは、ある意味予想通りだった。「幸せの世界チャンピオンはデンマークです」。05~14年の平均は8.4。73年の7.8から少しずつ上昇を続け、80年代半ばからは常に8以上をキープしている。ここ数年は8.5前後だった。


実はリスト上ではコスタリカがトップにきているのだが、73年からデータがあるデンマークに対し、コスタリカはデータが極端に少ないため一番とは認定していない。ただ、「データは少ないなりに、南米と中米も平均幸福度は高い。中南米の人たちは、数値上は米国よりも幸せですよ」。


最も幸福度が低い国には、トーゴやブルンジ、タンザニアなどアフリカの国が並んだ。2ポイント台の国もある。

エラスムス大学のルート・フェーンホーヴェン名誉教授=宋光祐撮影

ギリシャは、それまで6近かった幸福度が、10年ごろから2ポイント近く急落していた。経済危機を経験したことが原因だとすれば、やはり幸せには経済成長やお金が必要なのか? 「確かに、お金は幸福の度合いを決める決定的な要素の一つです。お金があれば食べ物を買えて、すてきな家にも住める。社会的なステータスも得られる」


幸せをもたらすのは、「物質的な豊かさ」というのが結論? 落胆する私に、フェーンホーヴェンは説明を続けた。「ただし、お金はもっとも重要な要素ではありません。ほかの人から尊敬を得られる手段があればいいのです。何か意味のあることができるならば、人は必ずしもたくさんのお金を必要としません」


「意味のあること」。それって何だろう。自分に当てはめて考えると、仕事や子育てだろうか。フェーンホーヴェンのデータベースによると、世界の幸福度は全体として少しずつ上昇しているという。格差が広がる世界にあって、お金にかわる「意味のあること」をそれぞれが見つけつつある、ということだろうか。






宋光祐記者をはじめ、「豊かさのニューノーマル」取材陣はこちらです。


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