RSS

豊かさのニューノーマル

桃農家セミナーに鈴なり! 大都市を離れる若者

ふるさと回帰支援センター・高橋公理事長に聞いた

地方移住がブームだ。⋯⋯なんて言うと、「そんなの知ってるよ」と返ってくるかもしれないが、ちょっと待って。昔のように「シニア世代の悠々自適」ではなく、今のトレンドは、若い世代の大都市離脱。彼らは何を求めて「田舎暮らし」に走るのか。これも「豊かさのニューノーマル」? 移住者サポーターを務める認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」(東京)の高橋公理事長(69)に聞いた。(聞き手:GLOBE記者 宋光祐)

認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの高橋公理事長=堀英治撮影

――ここ数年、地方移住がブームだそうですね。何が起きているのでしょうか。


もともとこのセンターは、労働組合の連合や経団連、農協などが連携して2002年に設立したNPOです。設立に先立ち、団塊の世代に定年後の暮らしについてアンケートを取ると、「田舎に帰りたい」と多くの人が答えました。ならば地元で暮らせる仕組みを作ろう、というのがきっかけでした。ところが設立当初は、1カ月に30人が相談に来れば「今月は多いな」と感じるほど。鳴かず飛ばずでした。


それが昨年、移住相談の件数が計2万6000件を超えたんです。08年は2475件なので、ここ10年足らずで10倍以上に増えたことになります。

認定NPO法人ふるさと回帰支援センターのデータをもとに作成

相談者の年代も、08年は50代以上が約7割を占めていましたが、昨年は20~40代が7割近くに達し、完全に逆転しました。センターで働くベテランの相談員からは、「若者の田舎暮らしへのハードルが下がってきたように感じる」という声を聞くようになりました。

認定NPO法人ふるさと回帰支援センターのデータをもとに作成

――相談に来る人たちは、具体的な移住先を希望してくるのですか。


4~5年前までは「どこかいいところないですか」と、地方暮らしに漠然とした憧れを抱いているような人が6割以上でした。それがここ1~2年は、自分である程度勉強して、具体的な場所や移住先でどんなことがしたいかなどはっきりした希望を言う相談者が増えてきました。


センターには、専属相談員を配置した39道府県と1市のブースがあり、ほかにも各地の展示パネルや資料をそろえています。私たちは相談を受けて自治体につなぐまでが仕事で、実際の移住段階まではかかわっていません。しかし、感覚的には相談者の6~7割が実際に地方に移住しているのではないかと見ています。


――何を求めて地方に移住しているのでしょうか。


シニア世代からの相談割合が多かった08年の頃は、定年後に悠々自適の田舎暮らしを送るのが大半の目的でした。だから希望移住先は中山間地の田園地帯が中心。ところがここ数年で相談が増えた現役世代の移住希望先は、多くが地方の都市。昨年、センターまで足を運んで相談に来た人たちを見ても、約半分の移住希望先が地方都市でした。


希望するライフスタイルも、就労が8割を超えました。相談者には高学歴の人も多く、企業などに勤めたいそうです。このため、仕事がある地方都市に人気が集まるわけです。センターにブースを設けている自治体の中には、就職のための相談員を独自においているところもあります。昨年からは厚生労働省の協力で、全国の求人を検索できるハローワークの出張所を置き始めました。


一方で、農業を希望する人も変わらず一定数います。20~30代に多く、先日も山梨県で桃農家をやってみてはというセミナーを開いたら、若い人が鈴なりになりました。果樹園は人気が高いです。


子育て世代の希望者も多い。保育所に入れなかったことなどをきっかけに、「この際、地方に行くか」と考えるようです。そういう動向を見すえて、富山県や鳥取県、岡山県などは「子育てにやさしい県」としてPRする取り組みを始めています。

パンフレットなど各地の資料が並ぶ認定NPO法人ふるさと回帰支援センター=遠藤啓生撮影

――地方移住がこれだけ人気を集める背景には何があるのでしょうか。


リーマンショックが起きた08年の頃は、大卒者の約4割が希望する職につけなかったとされています。終身雇用の見直しや派遣法の施行で非正規雇用が増えた結果、努力しても報われない、将来が見えない社会になっていると感じます。そのため、若者たちは地方に向かい始めたのではないでしょうか。


私が地元の福島県から出て来た時は、そこそこの大学に入って、そこそこの会社に勤めて、どんな風に暮らすかイメージできました。東京には夢も希望もありました。


しかし、今は働こうと思っても、派遣や臨時など不安定な非正規雇用で、結婚もできない、子どももつくれないと感じる人がたくさんいます。東京で使い捨てにされるくらいなら、地方の方がずっと豊かな暮らしができると考えるようになったのではないでしょうか。


人に対する優しさや地域のコミュニティーなど、日本は右肩上がりの経済成長を遂げるために捨ててきたものがたくさんあります。それがまだ残っているのは地方。だから地方がより豊かに感じられる。昔に比べて若い人たちの価値観が非常に多様化し、仕事よりも暮らしや子育てに価値を置くようになったのだと思います。そういう意味では、日本もいい時代になってきたのかもしれません。





「豊かさのニューノーマル」取材陣はこちらです。

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示