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記録の力

トランプ政権下の今は「試練のとき」

米国アーキビスト協会長に聞く

米国はなぜ記録を重視するのか。トランプ政権下でアーキビストは何を心配しているのか。7月下旬、オレゴン州ポートランドで開かれた米国アーキビスト協会(SAA)の年次大会に参加し、ナンシー・マクガバン会長(57)に聞いた。

ナンシー・マクガバンさん=写真はいずれも高橋友佳理撮影

―なぜ米国は記録に重きを置くのでしょうか。


その理由は独立宣言書や権利章典などの「自由の憲章」にさかのぼります。私たちの祖先が英国やその他の地域を出て、米国にやってきたその時以来、記録はたびたび市民の権利を守ってきました。あなたが記録を使わずに済んでいたとしても、記録があなたを守ることができるという事実が、市民の権利を支えるのです。図書館であれば、人々が使わない本であればいつまでも持っている必要はありませんが、記録については永久保存すべきだという「レコードスケジュール」が決められたものについては、この国が終わるまで残す。私たちアーキビストたちに、それを履行する責任があります。政府の行動は記録され、アーキビストたちがその記録に長期間保存する価値があるかどうかを判断します。記録が重要だからこそ、作られなかったり、消えてしまった時には、SAAは必ず懸念を書き連ねた声明を準備するのです。


ー「記録がない」ということは「歴史がない」ということを意味するのですか。


その通り。確かに、人がわざと作る記録もありますが、私たちは「記録」を広い意味でとらえており、紙やデジタル化された文書だけにとどまりません。米国の最初の国旗のようなものも、記録です。文化的な遺産であり、高く評価されなければならないものです。そして、民主主義と記録には非常に密接なつながりがあります。記録の集積が、アメリカ合衆国の歴史なのです。


―現在、アーカイブズの世界で懸念はありますか。

デジタル化と、多様性に適応していくことが課題だと思っています。後者は、人権にかかわる問題です。年次大会の開催前にも、ポートランドで人種差別主義者によると思われる暴力事件が発生しました。今、私たちは性差別、人種差別、障害者差別にかんする課題を突きつけられています。私たちアーキビストたちは、いかなる人も排除されてはいけないし、記録は米国の多様な人たちを表すものであると思っています。年次大会でも「LGBT」や「アメリカ先住民族」など、多様性を象徴する多くのセッションが設けられました。

ポートランドで開かれたSAAの年次大会で記録管理の重要性や課題についてスピーチするマクガバンさん

―FBIのジェームズ・コミー前長官がトランプ大統領に解任された後、在任中に大統領と交わした会話内容を記録したメモを公表しました。この出来事は、アーキビストから見て何が問題でしたか。


トランプ大統領がコミー氏との会話の秘密テープがあるようなふりをしたのは大きな問題でした。もしテープがあるならば自動的に提出しなければならないものであるからです。ニクソン大統領が関与した犯罪「ウォーターゲート事件」を彷彿とさせました。事件時、ホワイトハウスにあった記録は、証拠隠滅を恐れた議会が差し押さえました。その記録と同じことになる可能性がありました。「秘密のテープ」を持つということ自体が、ルール違反だったのです。


―トランプ大統領になって、これまでと違うと感じていますか。


記録管理の分野では間違いなくそうです。一例をあげるとツイッターがあります。オバマ前大統領は「デジタル大統領」としてツイッターを活用した最初の大統領でしたが、トランプ大統領になり、ツイートが削除されたり、また政策に近いことがツイッターであまりにも多く発信されることにアーキビストたちは頭を悩ませています。ツイッター、フェイスブック、インスタグラムはすべてれっきとした記録です。トランプ大統領の記録は将来、驚くべきものになると思います。


SAAは政治的な団体ではありません。約6000人の会員がおり、中には非常に活発に活動している人もいますが。ここからの発言は協会長としてでなく個人の見解としますが、記録が唯一の証拠なんです。「記録がない」ということから分かるのは、物事はあなたが期待するようには行われなかったということだけです。


試練の時です。なぜなら、多くのルールが適用されないからです。これまで連邦政府の記録は何年にもわたって保存されてきましたが、いま、それらが今後は保存されないのではないかという深刻な懸念があります。そして、政府諸機関が記録を入手することを阻まれるかもしれないという懸念もあります。協会のHPには、これまでことあるごとに出してきた声明が載っています。中東など7カ国からの入国を制限する大統領令を出したときには強く反対する声明を出しました。


―日本では、自衛隊が南スーダンに派遣された時の日報の隠蔽疑惑が持ち上がり、防衛大臣が辞任するなど問題が起こりました。何が足りないのでしょうか。


確認させてください。「自衛隊」は国の組織ですか? 米国では連邦政府の行動にかかわるものはすべて連邦政府の記録と見なされます。大事な記録については、「永久保存」とするレコードスケジュールが設けられ、それが破られることがあれば抗議が起こります。場合によってはSAAが議会に赴き「これは適切な記録管理ではない」と証言します。また、もし承認なしに記録が壊されることがあれば、連邦記録法違反になります。私たちアーキビストには倫理規定とアーカイブズの価値観があり、何か事が起こったときにすぐ反応する枠組みがあります。(聞き手:GLOBE記者 高橋友佳理)



Nancy McGovern

米国で歴史学を、英国の大学院でアーカイブズ学を学ぶ。米国立公文書館の電子記録センターに勤めた後、コーネル大図書館などをへて2012年からMIT図書館勤務。2016~17年のSAA協会長。


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