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太平洋波高し

翻弄される島 「私たちは使い捨てですか」

マーシャルの詩人 キャシーに聞く

マーシャル諸島の詩人キャシー・ジェトニル・キジナー(29)は大国に翻弄され続ける祖国の未来を、言葉の力で変えようとしている。67回の核実験、繰り返されるミサイル発射実験、そして、海抜2メートルの島を襲う気候変動。「わたしたちは使い捨てなのでしょうか」。国連本部で朗読した詩がネットで世界に広がり、立ち上がる太平洋の島国の象徴的な存在になった。6月に日本の社団法人「アース・カンパニー」の招きで初来日したキャシーに聞いた。(市川美亜子、敬称略)


早稲田大では、生まれたばかりだった娘マタフェレにあてて書き、2014年の国連気候変動サミットで注目された詩を朗読した

核被害に関する詩を、広島の原爆ドーム前で朗読・録画した

――来日直前、トランプ大統領が温暖化防止のための新たな国際ルール「パリ協定」からの離脱を表明しました。

すごく失望しています。ただ、逆に彼の判断が注目されたおかげで、いま、世界では気候変動に本気で取り組もうとするムーブメントが起きています。日本の人たちにはリーダーシップを取り、米国がこの枠組みに帰ってくるよう働きかけ続けてほしい。

――希望して広島市を訪問し、原爆資料館や原爆ドームを訪れ、被爆者の話を聞きました。

マーシャルでは米国が繰り返した核実験により、多くの人が亡くなり、健康被害に苦しみました。私の母方の祖父母も核実験の影響とみられる癌で亡くなりました。当時を知る人は数少なくなりましたが、今も語り続けている高齢女性もいます。きょうだいを亡くし、流産を経験した人です。


広島で被爆者と話し、彼女と同じ強さを感じました。残酷な人生を絶望せずに生きる人間の強さです。トランプ大統領の就任や、パリ協定離脱に何度も絶望しそうになりますが、誰からも支援を受けずに闘ってきた被爆者を思えば、私はもっと闘えるはずだ、と勇気がわきました。

私たちは「使い捨て」なのか

マーシャル諸島・クワジェリン環礁にある米軍基地

――核実験、ミサイル実験、気候変動。大国に翻弄されてきたマーシャルの現実をどのように考えますか。

私が聞きたいのは、「私たちはディスポーザブル(使い捨て)なのか」ということです。大国は自分たちの利益のために太平洋をごみ捨て場にしていいと考え、そこに住む人たちを使い捨てにしてきました。


米国はなぜマーシャルを核実験場に選んだのでしょうか。彼らの国とくらべれば、面積も人口も小さく、貧しいからでしょう。海洋民族である私たちにとっては、島々の面積だけでなく、島々を取り巻く広い海が私たちの国土ですが、彼らはそう考えない。「海のど真ん中にポツンと浮かんでいる小さな国なら、どうなってもいいだろう」というのでしょう。


気候変動にしても同じです。もし経済大国が「このままでは国が海に沈む」と叫んだとしたら無視できるでしょうか。


大国の人たちは気付いていないかもしれませんが、核被害にしろ、気候変動にしろ、いまマーシャルで起きていることは同じ太平洋でつながったどの国にも起きるかもしれません。「使い捨て」にされた存在だからこそ、「地球上に起きてはならないこと」を伝えていくメッセンジャーとしての使命を担わされていると感じます。


――米国は最大の支援国でもあります。米国にものを言いにくくはないですか。


複雑な関係にはありますが、ものを言いにくいということはない。確かにお金をくれているでしょうが、一方で島で核実験やミサイル実験をしてきたのです。


マーシャルでは1954年にビキニ環礁で水爆実験があった3月1日を「追悼の日」として、今年からは被害者も参加して大きな会議を開くようになりました。ようやく社会運動になろうとしています。


パリ協定離脱についても、マーシャルの大統領は明確に批判しています。むしろ、同盟を結ぶ「仲間」なのだからこそ、信頼関係を壊すようなことをすべきでない、と思います。

SNSが世界と結んだ

パソコンを使って説明する被爆者の小倉桂子さん(右)とキャシー(中)=広島市内

――島国の人たちが自ら主張し、声を上げるようになったといわれます。

昔から声を上げている人はいましたが、大きな太平洋の中にとどまり、世界に広がりませんでした。それが、フェイスブックなどのソーシャルメディアが発達したことで、力強い言葉はすぐに世界に広がり、共有されるようになりました。

世界の学者や活動家たちとインターネットでつながりあい、情報交換しやすくなった意味は、私たちにとってものすごく大きいですね。


―島国の人たちの考え方も変わってきていますか。

長い占領や統治の歴史の中で、マーシャルの人たちは控えめで、旧宗主国にものを言い慣れない傾向がありましたが、教育によって変わってきています。私も卒業したハワイ大学では、こうした「植民地化された心構え」を変えるように学生たちが学んでいます。そんな教育を受けた若者が社会のさまざまな分野で活躍するようになった影響もあるでしょう。


私も若者を社会のリーダーに育てるためにNGOを運営しています。

私は気候変動に立ち向かう「シンボル」と見られることがありますが、本当は島国の人が、そこら中で自らの抱えている課題を訴えている姿が理想です。


詩人であれ、活動家であれ、弁護士であれ、未来を変えるために自信を持って語り、行動する人たちを増やしたい。そのために私も行動していきます。


Kathy Jetnil Kijiner

1987年、マーシャル諸島生まれ、米ハワイで教育を受ける。2010年にマーシャルの自宅が洪水被害にあい、気候変動に関する詩をつくり、ユーチューブに公開したのをきっかけに注目される。

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