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なぜ幼児教育か

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「教育の質」を映す「指導者の質」 こどもの力を信じられますか?

幼児教育の取材を通じて、こころ惹かれる二人の園長と出会った。「教育の質」を引き上げるさまざまな試みが各地で行われているけれど、何よりも大切なのは「指導者の質」である。彼らをみて、そう痛感した。(GLOBE編集部 鮫島浩)


そのひとりは、人口3万人足らずの埼玉県松伏町で、幼稚園と保育園を一体運営する「こどものもり」の園長、若盛正城だ。

開設は1971年。最初の卒園者はもう50歳になる。若盛は、園長として、寺の住職として、この町の人々を見守ってきた。


「育てる」のではなく「育ちあう」。子どもを信じ、生きる力を引き出す。若盛の教育方針は「こどものもり」の隅々まで行き届いている。


「ここでは年長の子が年少の子の面倒をみます。小さい子がいたら、お世話してあげることから始まる。先生たちは強制することなく、そのように仕向けていく」

年齢別クラスに分けず、異年齢の子が一緒に過ごす。年長の子は朝10分早く登園し、みんなを出迎える。園舎の至るところで、水色の服をきた年長の子がピンクの服の年少の子の手を引いている。


「年長さんはみんなのあこがれの存在。小さい子には、いろいろ教えてもらった、良かったという気持ちは必ず残る。自分もいつかお世話したいと思う。やらされている、という感じはしないでしょ」


昼食は異年齢の子6人でひとつのテーブルを囲む。メンバーは毎日、先生たちが話し合って組み替える。子どもたちを別室に集めてひとりずつ名を読み上げ、年長の子が年少の子の手をつないで食堂へ連れて行く。子どもたちは各テーブルで自由におしゃべりしながら食べているが、騒がしくはない。


「学校も幼稚園も年齢別に分けるのは、習熟度を測るためです。同じ年齢で比べたほうが評価しやすい。みんな成果を求める。そうなると、先生の言うことを聞く子が良い子になる。強い子、早い子が評価され、子どもは成果を競い合う」


「でも、大切なのはプロセスなんです。小学校の先生に聞くと、うちの子どもたちはよく考えてから動く。おっとりしていて親切。そのうちにリーダーシップを発揮しはじめる。私はそれをとても嬉しく思います」

異年齢保育を始めた当初、親から「大きい子にいじめられるのではないか」とクレームがきた。子どもの変化をみて、親の意識も次第に変わってきた。システムが定着するまで7年かかった。今では全国各地から視察が相次ぐ。


「私がいる時しか見学は受け付けません。1~2時間しかないという方には『うちは住宅展示場ではありません』と断ります。なぜ異年齢にしたのか、木を増やしたのか、それぞれに思いやこだわりがある。それを理解せず、一部だけ真似しても意味がない」


若盛は現状に満足しない。すっかり定着し、評価も高い「食事システム」を今年から大胆に変えるつもりだ。


「食べたくなったら食堂に来る。そんなオープンランチを昨年度の3学期に実験しました。席が埋まったら『今は満席です。お待ちください』と札を出す。子どもは朝から、一緒に食べようね、と仲間同士で相談しながらくる。小さい子をお世話する、自分が考えて動くという基礎が出来ているから、仲間外れのようなことは起きません。今年は1学期の終わりから挑戦してみたい」

「私には思いがあります。こだわりもあります。でも、こうでなければならないというものはありません。毎日が勉強です」

「こどものもり」園長、若盛正城


もうひとりは、富山県小矢部市にある「石動青葉保育園」の園長、井幡清志だ。

ここは1927年にカナダ人宣教師を中心に教会付属幼稚園として創立された歴史がある。井幡は牧師である。


園長として着任したのは17年前。保育現場の経験はなかった。最初に気になったのは、「受け身」で指示を待つ子どもたちの姿だった。


「『大人の子供観』に毒された環境を排除することから始めました。大人から見た『子供っぽさ』を取り除いたのです。壁に貼ってあるキャラクターは、感性が育つ時期の子どもにとって、どんな意味があるのか。プラスチックのカラーボックスはどうなのか。ひとつひとつ、先生たちに問いかけました」


当初、先生たちは一日中、エプロンをしていた。「なぜエプロンをずっとしているのですか?汚れるからですか?」と問いかけた。それは明らかに大人の都合だった。

エプロンを食事の時だけ着用するようになると、子どもたちに変化が現れた。先生たちがエプロンをつけはじめると、「ご飯の時間なの?」と反応するようになったのだ。

「石動青葉保育園」園長、井幡清志

「最初は保護者も先生たちも『なぜ変える必要があるのか』と思います。でも、実際にやってみると、子どもの姿がめざましく変わってくる。そうしたら、保護者も先生も変化を実感でき、楽しくなってくる。大人が楽しくなると、子どもは感覚が鋭いので、すぐに反応してきます」


「子どもは自ら『育つ力』をどんどん発揮していく。それを妨げないで毎日生活していくことが保育園の役割です。大人の期待、都合、思惑が入り込むと、子どもの個性は発揮されなくなる」


今春、嬉しいことがあった。卒園間近の年長の子たちに先生が「この一日をどんな日にしたい?」と尋ねると、ある子が「楽しい1日がいい」と答えた。みんなで「そうだね」と盛り上がっていたら、ひとりが気むずかしい顔をしていた。先生が「思いがあるのなら、言ってごらん」と水を向けると、「嫌なことや楽しくないことからも分かることがある。そういうことも大事だと思う」と話したという。その子は園に来た当初はすぐに泣いて収まらない子だった。

「他の子どもたちも共感しました。その子は叱られたり、諭されたりしながら、何かに気付いた。頭でっかちではなくて、嫌なことからも学ぶことがあると、本当に思ったのでしょう。6歳の子がそんな受け止め方をしているのです」


「私たちはどうしても子どもを未熟な存在と考えてしまう。でも、どんなに小さくても人間として対等です。子どもたちは必ず理解している。そう信じて接することがいちばん大切です」


 

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