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京都へおこしやす

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住民だって、守りたい

減りゆく京町家、模索する地元

幹線道路沿いに残る町家は少なくなった。ギャラリーに使われている町家の背後にビルが迫る=京都市中京区、西村宏治撮影


また、減ったそうだ。古都の街並みや風情を一層際立たせるとして最近特に観光客に人気の、京町家が。


京都市は5月1日、市内で2010年3月までに4万7735軒確認された町家が、今年3月には4万146軒になったと発表した。7年間で5602軒も減ったことになる。空き家率も14.5%と、7年前より4ポイント増えた。

町家が並ぶ路地には、空き地も増えてきた。宿泊施設の建設計画も相次いでいる=京都市東山区、西村宏治撮影

GLOBE5月号の特集「京都へおこしやす」ではこの背景として、高齢者には住みづらいという声も多いうえ、相続税負担から手放す例があとを絶たず、市が保全・活用に説得しても反発されがちな現状を書いた。だが住民側も、町家が消えゆく現状を、ただ手をこまぬいて見ている人たちばかりではない。後世に残したい、と自ら活用に乗り出した人たちを取材した。(GLOBE編集部・藤えりか)





「まちやカフェ ちゃーみーちゃっと」でコーヒーをいれる中村行夫さん=本人提供

京都・桂離宮から西南へ2キロ余り、江戸時代の宿場町の面影を残す京都市西京区樫原。かつて参勤交代の大名らが宿泊した本陣跡のすぐ近くにある築120年以上のかわらぶきの町家は今、ジャズライブや落語会も開く「まちやカフェ ちゃーみーちゃっと」として地元の人たちでにぎわっている。経営するのは中村行夫さん(63)と政美さん(59)の夫妻。南仏ニースから訪れたレストラン経営の女性に、仏郷土料理「ガレット」用にと日本のそば粉をおすそ分けする国際交流も生まれたこともある。


今ある町家自体は明治時代に建てられたものだが、江戸時代には行夫さんの先祖がこの地で医師として、本陣泊まりの大名らの診察にあたった由緒があるという。2001年には、市の「界わい景観整備地区」の建造物にも指定された。


行夫さんは2009年11月にカフェとして開業するまでは、会社勤めをしながら自宅としてのみ使ってきた。だが3人の息子が成人、母屋を使うのは行夫さんの父のみという状態が続き、「このまま使わない部分が増えると家がどんどん朽ち果てていく」と行夫さんは危機感を抱いた。周囲に多くあった町家も次第に減っている。「我が家を長持ちさせながら維持するには? 人の出入りを増やせばいいのではないか」。カフェを始めよう、と思い立った。

京都市西京区樫原の築120年以上の町家を改装して「まちやカフェ ちゃーみーちゃっと」を営む中村行夫さん・政美さん夫妻=本人提供

幸い、政美さん方の親族に施工を頼めるツテがあり、梁を取り換えたほか、玄関の床をぶち抜いて、かつてあった土間を復元する大改装に踏み切った。夫妻ともカフェ経営の経験はなかったが、行夫さんが好きなコーヒーをいれ、政美さんが得意のおばんざい料理をランチでふるまい、ブログやフェイスブック、息子たちの口コミなどを通じて宣伝。地元の人たちが憩い、観光客も訪れるように。長男は時折店を手伝っているそうだ。

京都市西京区樫原の街道筋は軒先が比較的深い町家が多いことから、「のきさき市」が開かれたという=中村行夫さん・政美さん提供

「カフェを通じて、地元の人とのつながりが広がってきた」と言う行夫さんは、近所の町家の所有者を含む有志と「樫原町家灯篭会」を作り、元宿場町としての景観を残すための活動もしている。昨年9月には一帯で「のきさき市」が開かれた。町家の軒先を商店などに一時的に貸し出して雑貨や食器、豆腐などを販売してもらい、町家をにぎわいの中心にしようという狙いだ。


ところ変わって、二条城から西に2キロほど。黒地の柱に白い壁、かわらぶきの町家で、観光客向けのゲストハウス「洋々」を友人と営む那須裕介さん(33)が引き戸を開けて外にでると、隣の喫茶店の男性店主が「今日、お客さん泊まらはんの?」とにこやかに声をかけた。「今日はね、違うんですよ」と笑顔で応じた那須さん。壁を接して並ぶ喫茶店もゲストハウスも、築80年以上の町家を改装したものだ。

町家を改装したゲストハウス「洋々」を前に、那須裕介さん=藤えりか撮影

那須さんは4年前に京都を旅して「惚れ込み」、東京から移住。両親を通じて知り合った京都の友人とともに、この町家が空いたのを機に借りて、水回りやインテリアなどを改装してゲストハウスに衣替えした。民泊サイト最大手「Airbnb(エアービーアンドビー)」などを通じて集客。宿泊客の約6割が海外からで、うち3〜4割は中国人だという。「町家はダイヤの原石のようなもの。つぶしてしまうのは、ものすごくもったいない。町家を持ち続けられる仕組みがあればいい。宿泊業はそのひとつかなと思う」


「京都」特集紙面でも書いたように、「外国人」「 民泊」といえば「地元とのあつれき」が取りざたされる。京都の場合は特に、隣近所の家同士の距離が近いのもトラブルのもとだと言われるが、このゲストハウスは隣と棟続きなのに迷惑がられるどころか、「地元にむしろ喜ばれていると感じる。共存している形」と那須さんは言う。同じ通りに面した別の町家もレストランなどとして営業しているが、「喫茶店もレストランも、うちに泊まりに来たお客さんが食事に行くことが多い」といい、ご近所もメリットを感じられる状況となっている。隣の喫茶店店主は、そうして外国人客が多く訪れるようになったのを機に、英語を学び始めたそうだ。那須さんが旅館業法の許可をとった際には、距離が近いため隣の店にも火災報知器をつけてもらう必要があったが、快く応じてくれた。「近所の協力がなければ、できなかったですね」と那須さんは振り返る。町家を生かそうという人たちがともに、地元でうまく連携しているように映る。

那須裕介さんが運営する町家ゲストハウス「洋々」には、外国人向けにベッドもしつらえ=藤えりか撮影

京都では、町家をはじめとする民泊経営者らでつくる「京都ホームシェアリングクラブ(KHSC)」が2016年秋に立ち上がった。「民泊が地域の暮らしに溶け込み、地域全体としてメリットを享受できるように」と意見交換会を開き、時に要望を市議に出したりする組織だ。那須さんも、当初からメンバーに加わっている。

戦後は、町家の前面を隠してビル風に仕上げる「看板建築」がはやったことも。最近では、伝統的な町家風に戻すリノベーションも増えてきた=京都市東山区、西村宏治撮影

 

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