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地元と観光客、摩擦を避けるには

タイの観光政策担当者に聞く、持続可能な観光立国

アジアの観光大国タイは第二次大戦後、長く観光業を外貨獲得の重要な手段として位置づけ、育ててきた。1960年に設立された政府の観光庁(TAT)は、その中心となる組織だ。では、観光客と地元との摩擦には、どう向き合うのか。担当者2人に聞いた。(GLOBE編集部・西村宏治)

◆「相手から学ぶ姿勢で対応を」 ランチュアン・トーンルット東アジア局長(55)

◆「マナーを正しく知らせて」 ピナット・チャロエンポル チェンマイ事務所長(54)


「相手から学ぶ姿勢でフレキシブルに対応を」 トーンルット東アジア局長

photos Nishimura Koji

――タイでも、特に中国からの観光客が急増しています。日本や中国など、東アジア市場がご担当とのことですが、観光客と地元とのトラブルはないのでしょうか。

タイ観光庁は、1960年の設立から、観光マーケティングの専門機関としてノウハウを積み重ねてきました。その効果もあって観光客は増えていますが、もちろんたとえばインフラの問題や、資源や環境問題、人材育成の遅れなど、課題は出てきています。


そこで重要なのは、私たちは3Pと言っていますが、公共団体(Public)、民間(Private)、住民(People)が一体となって課題に取り組むことです。観光とは違う文化の人々を迎えることなので、特に各国のことを理解した人材の育成は重要です。タイでは1960~80年代は西洋からの観光客がメーンでした。80~90年代は、日本。そしてロシアが中心という時代があり、いまは中国の方が増えました。それぞれの観光客に満足してもらい、数多く来てもらうためには、各国の特徴やニーズをふまえた戦略が必要です。そのためには、文化を理解することが欠かせないのです。

チェンマイ市内の商店街。少しでも多くの中国人観光客を取り込もうと、中国語の看板があふれている

――とはいえ、チェンマイなどではトラブルも耳にしました。

原則として、やってくる観光客を排除はできません。ただ、私たちも質の高い観光客(Quality Customer)になるべく来ていただきたいと思っています。タイの歴史や自然、文化に興味を持ち、それらを大切にしてくれる観光客たちです。


――どうすれば、そういう人たちが来るのでしょう。

いろいろな考え方がありますが、ひとつ申し上げるなら、旅行のPRや募集の段階で、適正な値付けをしている旅行が重要でしょう。5日間で2万円とか、そういう値段にはならないのではないでしょうか。


――そこで、中国の格安団体旅行、いわゆる「0元ツアー」を国が排除していると聞きました。

私たちは、特に中国を名ざしして考えているわけではありません。ただ、理にかなわない違法なツアーは認めていません。もちろん観光庁だけでは対応できませんので、観光スポーツ省、旅行業界、入国管理局、警察のほか、中国当局とも連携して取り締まっています。


――その違法業者とは、ツアー料金はゼロに設定し、代わりに自分たちの土産物店やレストランで、無理やり買い物をさせたり、ショーを見せたり、食事をさせたりして利益をあげる業者ですね。

そうです。こうしたやり方では、タイ側のホテルや観光業者の利益にはなりません。なにより問題なのは、結果的に費用は高額になるのに、観光客に選択権がないことです。これでは観光地のブランドイメージも傷ついてしまう。私たちは、旅の体験を最大のおみやげにしてもらいたい。そして、それを知人に伝え、「いいところだった」と言ってもらいたいのです。


――今後、さらに観光客が増えても摩擦は避けられるのでしょうか。

まず、観光プロモーションは、地元の受け入れ態勢を考えてすすめることが重要でしょう。外的な要因で増えることもありますが、私たちは観光地のキャパシティーを常に分析し、混んできた場合は、それ以上のプロモーションをせずに、他の観光地のPRに力を入れます。これは持続可能な、経済的な恩恵も考えているからです。


それから、私たちにはタイの国民性という強みもあると思います。タイ人は基本的にオープンで、思いやり、笑顔を絶やさないということが根づいています。違う文化を持ったお客さまがいらしたときに最も重要なことは、心を開いて対応することです。つまり、違う文化を持った人たちから、新しいものを学ぶことが大切だという心がけを、忘れてはならないと思います。時代による変化にも、フレキシブルに対応しなければなりません。


おもてなしに感動してもらって、多くの観光客にきていただくことはもちろん大切です。ただ、こういった国民性は、観光だけでなく、タイ人同士が団結して平和に暮らしていくうえでも、一番大切なものだと思っています。


「マナーを正しく伝えて」 チャロエンポル チェンマイ事務所長

――タイを代表する観光地のひとつ、古都・チェンマイですが、中国からの観光客が急増したことで、トラブルも起きました。

私はチェンマイに赴任する前、2012年からタイ観光庁の中国・昆明事務所に4年余りいました。中国にも、違いを理解しようという価値観はあります。しかし、中にはそれまで海外旅行に出たことがない人もいます。それがよく分からないまま来て、いろんな行動を取った。それにチェンマイの人が驚き、理解できないものだから、余計にマイナスのイメージが広がってしまったところがあったと思います。


――どんな対応をしたのでしょうか。

TATは、昆明を含めて中国に五つの現地事務所を置いていて、現地のマーケティングと、タイ観光のプロモーションを担っています。知られていない観光地の紹介や、新たなキャンペーンなどの説明のためにセミナーも開きます。私の経験をお話しすると、2012年ごろから、そうした機会に、タイでのマナーを伝える研修会をあわせて開催していました。中国のみなさんにマナーを伝えてもらうためです。1回のセミナーで大体40~50人の旅行業界の関係者が集まります。そこでマナーブックなども配布して、説明とお願いを繰り返しました。

タイ観光庁が制作した「タイ旅行を楽しむための小冊子」。そこかしこでゴミを捨てないとか、列に並ぶといった注意が書かれている

観光客が多く来ることが問題ではないのです。問題は、どう迎えて、どうお互いが満足できるかです。そこで大事なことは、こちらの事情やルールを正しく知らせることです。そして、受け入れることです。初めての海外旅行としてチェンマイ空港に降り立つひとたちに、「ようこそ」と言ってあげることです。


そこで中国側だけでなく、タイの旅行業者やホテルなどにも同じマナーブックを配り、旅行者への情報提供に力を入れてほしいと求めました。さらに中国の旅行代理店と、受け入れるタイのホテルなどがきちんと連携を取り、互いの理解を進めることにも取り組んできました。


――状況は改善されたのでしょうか。

チェンマイでは、行政や業界団体とも協力して、安全で、便利な街の実現をめざしています。各団体にも、気持ちよく参加してもらっています。その結果、観光客と地元との相互理解は進み、トラブルは減ってきたと考えています。


インターネットを駆使する若い世代の旅行者が増えたことで、ここではこういうふうにするべき、あるいはするべきでない、ということへの理解が急速に広がっています。私たちもチェンマイ県などの行政機関や、業界団体などと協力して、昨年には、中国客を「熱烈歓迎」するキャンペーンも実施しました。


多くの人々は、観光客を歓迎しています。観光客への地元の反応は、SNSやメディアによって、誇張されて伝わっている部分があることを考えなくてはいけません。特に若い観光客の間では、タイへの理解が進んでいると思っています。

 

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