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SNSが広げる「観光摩擦」

タイ・チェンマイでみた「迷惑客」の実態は


中国をはじめ世界各国で影響力を増すSNS。マイナーな観光地が脚光を浴びるきっかけともなっている一方で、悪評もあっという間に広がってしまう。それが、観光客と地元との摩擦を過熱させてもいる。(GLOBE編集部・西村宏治)


チェンマイ市内のホテルに貼られていたステッカー。SNSで広がった中国批判に対応するため、旅行業界や行政がつくった。

昨年2月。タイの古都・チェンマイの中華料理店の店員がSNSに投稿した1本の動画が、タイ全土だけではなく、日本を含めた世界中にあっという間に広まった。店の前で、中国語を話す客が店員を怒鳴りつける場面だ。「中国人グループが大声で騒ぎ、食い逃げした!」。そんな説明とともに、動画サイトなどに次々と移され、タイのテレビ局が「また中国人観光客が迷惑行為!」とニュースに取り上げる騒ぎになった。動画はYouTubeなどの投稿サイトに残り、いまだに世界中からの批判を集め続けている。


実際には、どんなトラブルだったのか。3月、店を訪ねるとオーナーの中華系シンガポール人、レオ・レオン(34)が対応してくれた。彼の説明によれば、18人の中国系のグループが店を訪れたのは、昨年2月のことだった。リーダー役の男性が中心となって、料理を注文した。ところが直後にグループ内からリクエストがあったらしく、この男性が「注文をキャンセルしたい」と言ってきた。

チェンマイ市内でよく見かけたバイクの2人乗り。後ろの人間がスマホを見ながら道を指示するため、車線を無視して急に曲がるといった危険運転も多い

「そこが、不幸の始まりだった」とレオン。店ではオーダーが入ると即座にキッチンで調理を始めるシステムを取っているため、店員が「料理を始めてしまった注文はキャンセルできない」と突っぱねたのだ。メンツをつぶされた形の男性は、ここで店側にイライラし始めていたのだという。


18人は頼んだ料理をすべて食べたが、会計時に次のもめ事が始まった。注文のキャンセルを断られたリーダー格の男性が、今度は「代金を負けろ」と言い始めたのだ。店員は、この要求も突っぱねた。代金は2570バーツ(約8000円)。レオンは「値引きし出すと、これからも常に応じなくてはいけなくなる。大体、品質と人数を考えてもらえれば値段は安い。ひとり150バーツ(450円)ですよ」。


だが、ここで再びメンツをつぶされた男性はさらにヒートアップし「量が少なかった」「まずかった」などと言って「払わない!」と怒鳴り始めたという。店員も言い返し、怒鳴りあいに。最終的にレオンが出て行って「今から警察を呼ぶから待っていてくれ」と話した段階で、全額の支払いに応じた。


その様子を撮影していたのは、タイ人の女性店員だった。レオンは「相手のあまりの勢いに、彼女には、店を守ろうという思いがあった。SNSに投稿したのは、フラストレーションがたまっていたからという面もあった」と心中を代弁した。それまでも、中国系の客が横柄に対応したり、うるさかったり、値引きを求めたり、トイレを汚したりしたことがあり、悪いイメージが積み重なっていたのだという。

チェンマイ市内の寺院などには、禁止事項を並べた看板も目立つ

それでも、レオンは騒動に怒っているというよりも、「困惑している」と言った。「食い逃げ」と報じたタイのテレビ局にも「事実とは違う」と謝罪を求めたという。相手の男性についても「メンツをつぶしてしまった。理屈はこちらにあるが、メンツを重んじる中国人には不快な行為だったに違いない。もう少し、丁寧に理由を説明してもよかった」と言うのだ。


店は2015年3月に開店。いまでは客の9割が中国系だ。これまで1千人を超える客を迎えたが「問題を起こすのは全体の1~2%で、すべて年配者。年配の中国人の中には、初めて国外に出た人も多く、国内のやり方をそのまま通そうとする人もいる。最近増えてきた若い人は静かだし、マナーもいい」。


実際に、観光客と地元とのトラブルは増えているのかを聞こうとチェンマイの観光警察を訪ねると、調査官のナッタワチー・ジャクサン(26)と、ツーリストオフィサーのクリーティポン・マヒッタリティグライ(59)が対応してくれた。「4~5年前に中国人観光客が急増したころは、交通ルールの理解不足によるレンタルバイクの事故などが目立った。でも、最近は減っている」という。

観光警察のナッタワチー(左)と、クリーティポン

過去には「トイレ以外のところで用を足す」とか、レストランの会計をめぐるトラブルなどもあったというが、マナーへの理解が広がっているほか、レストランに中国語を話すスタッフが増えたことなどもあって目立たなくなってきたという。「もちろんトラブルがなくなったわけじゃない。でも、それは中国系に限った話ではありません。いろんな外国人に、いろんなトラブルがあります。もちろん、日本人もね」。クリーティポンが言った。


とはいえ、いったん広がった悪評を消すのは難しいのも事実だ。チェンマイの街角で中国人のイメージを聞いてみると、「悪いニュースも見るし、街でもうるさいのが目につく」(会社員男性・32歳)という声も確かにあった。実際に迷惑をかけられたのか、どれほど迷惑だったのかと聞いてみると、「確かに最近は、危ないバイクの運転を見かけるぐらいかな」。


タイ側のSNSで中国人批判が広がると、今度は中国側のSNSで「だったら行かないぞ」といった投稿が出始めた。すばやく火消しに動いたのが旅行業界と行政だ。昨夏には、わざわざ記者会見を開き「熱烈歓迎:我的中国朋友」というキャンペーンを始めると発表した。タイと中国の友好関係を強調するようにパンダとゾウがおさまったステッカーをつくり、ホテルなどにも配った。


タイ観光庁チェンマイ事務所のピナット・チャロエンポル所長(54)は、こう強調する。「基本的に、私たちを含めて多くの市民は観光客を歓迎しています。観光客に対する評判や地元の反応は、SNSやメディアによって、誇張されて伝わっている部分があることを考えなくてはいけません」

 

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