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アンコールワット 遺跡保護と観光の両立は

遺跡保護機構の担当者たちに聞く


世界最大の石の神殿、カンボジア・アンコールワット。世界中から観光客が集まる人気の観光地だ。だが、観光客が増えるに従い、遺跡への悪影響なども心配され始めている。観光とどうつきあっていくのか。遺跡保護の担当者らに聞いた。(GLOBE編集部・西村宏治)



アンコールワットの内部。外国人観光客がガイドの説明に聴き入る

アンコールワット周辺に広がる遺跡の保護と管理を担うのが、アンコール地域遺跡保護管理(APSARA)機構だ。広報担当のロン・コサル(40)は、旅行者たちに、遺跡を訪れる際のルールを知ってほしいと訴える。


――観光は、遺跡を破壊するのでは?

確かに、ここ数年観光客が増え、オーバーキャパシティーは問題です。ですから、入場制限を始めました。たとえばアンコールワットの中央祠堂(しどう)。一度に100人以上入れないようにしています。ただ、強調しておきたいのは観光は遺跡の保護にとっても重要です。遺跡の理解が進むということもあるし、観光収入が遺跡の保護の資金にもなっています。

APSARA機構の広報担当、ロン・コサル


――地元との文化的な摩擦はありませんか。

確かに違う文化の人たちが来るので、無いとは言えません。そこで「行動規範」を6カ国語でつくり、ウェブサイト(英語)でも公開しています。動画もつくりました。アンコールの遺跡は、カンボジア人にとって、今も聖地です。ぜひ、来る前に見ていただきたいと思っています。

「地元の人が本当に大事にしているものなら、観光客も敬意を払う」

同じくAPSARA機構で観光計画を担当するオーム・マラディ-(33)は、観光に携わる人たちの共通理解が欠かせないと言う。


――遺跡の保護を担う機構に、観光の担当部署があることに驚きました。

もともと観光担当の部署はありましたが、その役割が注目され始めたのは2010年以降です。観光客の急増に対応する必要がありました。

アンコールワットの中心部では、服装のチェックや入場者数の制限が行われている


――観光をうまく管理するために必要なことは

私たちは、遺跡を当時の姿のまま残すことをめざしています。だから、観光も持続可能でなければならないし、そのためには、すべてのステイクホルダー(利害関係者)たちが納得することが欠かせません。旅行者、観光業者、ガイド、地元住民、研究者、行政官など、広く議論していくことが重要です。


――地元と旅行者の間のトラブルは、どうすれば減らせると思いますか。

旅行者は基本的に、地元から悪意を持たれたくはないはずです。問題は無理解ですから、いかに理解してもらう機会を増やすかが課題です。行動規範はそのひとつですが。


――遺跡では、ガイドがその大きな役割を果たしていると感じました。

その通りです。海外から来た人たちは、ガイドを通じてその国を理解するので、非常に重要です。そのほかにも遺跡保護官、観光警察などのスタッフを遺跡に配置することで、なるべく「侵入禁止」のフェンスや看板は少なくしたい。ありのままの遺跡を見てもらえれば、より理解も進みやすいと思いますので。


――その土地の文化なんか関係ない、という旅行者もいるのでは?

それはごく少数でしょう。一方で、ガイドや地元の住民が、アンコールの本当の価値を知っておくことが必要だと考えています。アンコールは、カンボジアだけのものではなく、世界の遺産。今でも新たな学術的な発見が続いています。それをガイドも含めた地元がきちんと理解しておくことが大事だと考え、セミナーなどの学ぶ機会を設けています。地元の人が心から大事にしていることが伝われば、観光客もそれに敬意を払い、同じように大事にしてくれるのではないでしょうか。



「ガイドは国の代表。新たな知識もいる」

公認ガイドの育成は、観光省が担う。シェムレアプ州のガイド育成を担当するソヴィチア・ホク(49)は、自身も1991年から英語のガイドを務めてきたベテランだ。育成制度のねらいなどについて聞いた。

シェムレアプ州のガイド育成の責任者、ソヴィチア・ホク


――ガイドはどれぐらいいるのですか?

シェムレアプ州には、ガイドのトレーニングコースを修了した人が4619人います。中にはガイドとして働かない人もいるので、2017年にガイドのライセンスを申請して、保持している人は州内で3971人います。


――何カ国語に対応するのですか。

およそ15の言語に対応しています。アラブ諸国、東欧などの言語への対応はこれからですね。たとえばいま、ガイドの訓練を受けている生徒が219人いますが、最も多いのが英語で109人、中国語32人、フランス語23人、日本語19人、スペイン語13人、タイ語10人。最近ではベトナム語も増えてきて6人います。

photos: Nishimura Koji


――どういうことを教えるのですか?

まだ専門の学校はないので、大学などと協力してコースを開いています。語学のほかに、歴史や文化、接客など250時間余りのカリキュラムがあり、このほかに論文なども必要です。また、相手国のことを学ぶことも重要ですね。


――重視していることは?

まずは、やはり語学。母国語で話せば、観光客はリラックスできるでしょう。文化への理解も進みやすくなります。ただ、もちろん言葉や知識も重要ですが、人柄も重要だと考えています。もしガイドがうその情報を教えたり、土産物屋に無理やり連れて行ったりしたら、それで観光地全体がマイナスの影響を受けます。服装にも気を配るようにしています。旅行者の安全のため、応急処置などの訓練も受けます。ただ、まだまだこれからのところもあるので、旅行業者などとも協力して、さらに質を上げていけるよう努力しています。


【シェムレアプ州の公認ガイド育成のためのおもな科目】

・カンボジアの文化と暮らし(32時間)

・カンボジアの考古学(32時間)

・歴史(32時間)

・世界地理(24時間)

・地域及び世界の観光事情(16時間)

・ツーリスト・マネジメント(旅行者の行動など)(32時間)

・経済(16時間)

・いいおもてなし、歓迎の仕方(16時間)

・環境保護と持続可能な観光開発(16時間)

・応急措置(16時間)

・ツアーガイド法と国の観光政策(16時間)

・シェムレアプ州の観光地(4時間)

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