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観光と地元 カンボジアで見た課題

アンコール遺跡で進む地元観光の試み

アンコールトムで写真撮影する中国人観光客ら


観光地に人が集まり始めると、その地域の外からヒトもカネもやってくる。ホテルを始めたり、レストランを始めたり、あるいは旅行代理店を始めたり。もうけたカネの多くは地域の外に流れ出ていく。そして、地元は思う。「自分たちは消費されるだけなのか」と。


こんな構図は、どこでも一緒なのかもしれない。


カンボジアのアンコール遺跡周辺では、こうした状況を少しでも改善しようと、観光に地元住民を巻き込もうというプロジェクトが立ち上がっている。そのひとつ、アンコール地域遺跡保護管理(APSARA)機構や国連教育科学文化機関(UNESCO)、豪州政府の支援などで2013年に立ち上がった地元集落主催のツアーを訪ねてみた。(GLOBE編集部・西村宏治)




訪ねたのは、Baray Reach Dak Community Tourというツアー。案内してくれたのは地元出身のガイド、イ・ヨク(38)だ。

森の木について説明するガイドのイ・ヨク

アンコール遺跡群の北部に位置する寺院プリア・カンの東側の出口で待ち合わせる。目の前に広がるのは、「北バライ」と呼ばれる人工の貯水池だ。「あとでバライをボートで渡りますから」ヨクはそう言って、まずはそこから、森の中へとつながる小道へと案内してくれた。幅1.5mほどの道は舗装はされていないが、きれいに清掃されている。


「この木は、地元では薬の木として知られています。とくに妊婦さんにいいと言われています」「こっちの木も薬効があると言われていて、鶏の飼育などにも使われました」。森を歩きながら、ヨクが英語で次々と説明していってくれる。「これはスポン。成長が早いので有名ですね」と教えてくれたのは、板根が発達した大木。アンコール遺跡群の中では、各所で遺跡に絡まっていることで有名な木だ。

地元の食文化などについても説明してくれる

森の中を1時間ほど歩いて、北バライのほとりへ出る。水域は長さ3.8km、幅800m。ここからは手こぎボートで、バライに浮かぶ島内の寺院、ニャック・ポアンをめざす。目線がぐっと水面に近くなり、周りの景色に囲まれている感覚が強くなる。水鳥の群れがはばたく。「ポチャン、ポチャン」という櫂の水音だけが響く。





繁閑の差もネックに

舟でバライに出る

もともと、この北バライは何十年にもわたって干上がっていた。遺跡の保護や、治水、さらに近隣への農業用水の確保などのために再び水が満たされたのは、ここ10年ほどのことだ。コミュニティ・ツアーができた理由のひとつは、このために田畑を失う住民がいたことだった。森の中に遊歩道をつくり、北バライのほとりに展望所や船着き場を整備した。


ツアーは2時間半で森やバライを回るものから、夕日を見るためにバライにこぎ出すだけのものまで、3種類。料金はひとり7~18ドルに設定した。道の清掃や管理、ガイド、操船などを地元の住人が担うことで、観光の恩恵を地域に還元しようという考え方だった。ヨクも、務めていたAPSARA機構を離れ、ツアーの運営に加わった。


だが「続けていくのは、なかなか難しい」とヨクは言う。


評判は、悪くなかった。ツアーでは参加者の感想を集めていたが、どれも「今まで、経験したことがないツアーだった」「遺跡だけでなく、自然も学べた」「素晴らしい自然にリラックスできた」など、好意的なコメントが集まった。しかし、特に問題だったのは繁閑の差だった。旅行者が多いのは、9~12月。それ以外の時期となると、客足がぱたりと止まる。繁忙期であっても、予約が集中して受けられない日もあれば、誰も来ない日もある。ヨクによれば、多いときで月に30人ほど、少なければ10人ほどだという。

水面から視点が変わるだけで、雰囲気が変わる

ツアーのスタッフたちは、予約が埋まらない時期、レストランや工場、建設現場の従業員として働いて稼いだ。すると段々、そちらがメーンの仕事になって予定が埋まっていく。ツアーが始まった当初、7人いたガイドは、今は2人になった。ただ、仕事がまったくないわけではないようで、私が訪ねたツアー中にも「今から行きたい」という電話が入り、私を下ろすとすぐに戻らねばならなくなった。


とはいえこの日も、もし私のツアーが入っていなければ、断らなければいけないところだった。ガイドもほかの仕事を入れてしまっていることもあるし、船頭を用意するのも難しい。「3~4日前の予約が定期的に入ればいいんだけど、そう簡単にはいかないからね。きょうはラッキーだったよ」とヨクは言った。

バライに出ると、静けさが増す。櫂が水をかく音だけが響く

アンコール周辺ではこのほかにも、牛車のツアーといった地元農村と観光客を結ぶ取り組みが少しずつ始まっている。APSARA機構の中には、バライを巡るヨクたちのツアーについても、「もう少し力を入れていく必要がある」という意見も出ているという。


繁閑差は、観光業の宿命だ。外国人相手となれば不安定な要素も多い。季節の波もあれば、景気の動きに合わせたもっと大きな波もある。それを乗り越えるのは、簡単なことではない。■

 

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