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韓国のあした

「決められた未来」を変えるには

韓国では子どもの1歳の誕生日を親だけでなく親類一同で祝う/ロイター



今後、日本より速いスピードで若者が減り、高齢者が増えていく韓国。人口からみた韓国の明日について、ソウル大学保健学部教授のチョ・ヨンテ(44)に尋ねました。(聞き手・神谷毅)




人口問題における日韓の違いといえば、韓国は日本に比べて高齢化する時期は遅いのですが、そのスピードは速いということになるでしょう。理由は二つあります。死亡率と出生率が低下するスピードが、韓国は日本よりとても速いからです。


興味深いデータがあります。韓国の100歳以上の人の数です。2000年は930人、05年は960人だったのですが、10年は1800人と2倍になりました。15年には3500人と、さらに2倍になった。ここから知りえることは、医療サービスの向上で高齢者が長生きできるようになった、つまり死亡率が急速に下がっていることです。


韓国のベビーブームは、第1世代が1955~64年生まれ、第2世代が65~74年生まれです。いま第1世代が引退の時期を迎えています。老後に備えるには国の社会保障制度の充実も大事ですが、個人で備えることも欠かせません。日本では個人が貯蓄をして備えていますよね。韓国の場合、親は子どもの教育費、特に塾などの「私教育」にものすごいお金を使ってしまっている。このため第1世代は、ほとんど現金の資産を持っていません。

チョ・ヨンテ教授

ただ、そうはいっても第1世代は資産として家という不動産を持っています。深刻なのが私を含む第2世代です。この世代も子どもの私教育にお金を使わざるをえない。なのに不動産はない。老後のための蓄えがほとんどないのです。昨年、韓国で国民年金を受け取った人のなかで、最も多く受け取った人の額は月138万ウォン(約13万8000円)しかありませんでした。制度の歴史が浅いためですが、韓国では年金だけでは暮らせません。


もし日本の中年層に「未来についてどれだけ心配していますか?」と尋ねれば、「すごく心配している」と答えるのではないでしょうか。韓国の中年層に同じ質問をぶつけると、「それほど心配していない」と答えると思います。韓国の高齢化率はまだ14%で、25%を超えた日本とは違い、高齢化の現実をまだ実感していないからです。つまり切実感がない。私はこの意識こそが問題で、だから老後に備えることもせず、子どもにお金を使い切ってしまうのだと思います。


人口の推移をみると韓国は日本を15年あとから追いかけています。私は、2030年の韓国の姿は、15年の日本の姿よりも暗いと思っています。日本が備えている強みを韓国は持っていないからです。


一つは科学技術の蓄積です。日本は韓国より100年早く開国して科学技術を導入しました。スマホに使われる部品や素材のほとんどは日本企業のものです。二つ目は内需です。社会が高齢化したとはいえ日本の人口は韓国の2倍以上あります。つまり内需の規模も2倍以上あるということです。日本の15~64歳の生産年齢人口は7500万ぐらいなので、韓国全体の人口よりも多いのです。


自国でつくったモノを輸出する国が周りにあるかどうかも重要です。今の日本は経済が発展している中国、韓国、台湾にモノを売ることができるのが強みといえます。しかし30年に韓国が高齢化するころには、中国や台湾も同じように高齢化しています。市場としての魅力は今より落ちているはずです。


韓国は蓄積した科学技術が足りない。しかも中国が追い越してくる。内需も小さい。周りの国に輸出しようとしても、周りの国も老いる。だから韓国の未来は日本よりもさらに暗いといえます。


ただ、韓国にとって有利なのは、日本という人口政策の失敗例がすぐそばにあることです。高齢者が増えて若者が減っていけば、若者中心の政策を行わなければいけないのに、日本は相変わらず高齢者中心の政策をしている。「シルバー民主主義」「シルバー政治」です。私たちもすでに日本と同じような道を歩み始めていますが、そこをなんとか変えていかなければいけない。

韓国で地方選挙の投票に臨む高齢者たち/AP


特に2000年以降に生まれた子どもに焦点を当てるべきでしょう。彼らは幼いころから厳しい競争の中で私教育を受けて大学に入り、今は就職難にぶつかっています。この世代を変えないと、また次の世代も同じことを経験することになる。もしここで反転できれば、まだ高齢化が進んでいない韓国は、日本よりうまく備えることができるかもしれない。今から10年がとても大事な時期です。


暗い未来ばかりを描きましたが、悲観だけで終わってはいけないとも思っています。人口の予想にもとづいて描き出される将来の国の姿は、いま生きている人たちの数に大変動が起きない限り確実に訪れる現実という意味では「決められた未来」です。しかし、その決められた未来が望ましくない姿だと知ったならば、当然、未来を変えるために動き出すべきです。


明るい話があるとしたら、これからは若者の数が減っていくので大学に入りやすくなります。実はこれが韓国の人たちの意識を変える大きなターニングポイントになるかもしれません。


私は人口で未来を予測しているうちに、娘たちに私教育をさせないことにしました。すでに競争が激しすぎるという社会的な合意はできつつあるので、実際に大学に入りやすくなれば、私教育にお金を使い過ぎる傾向も変わっていくのではないでしょうか。そうなれば、その分のお金を老後の備えに向けることもできるようになっていくと考えています。

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