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韓国のあした

次の10年、韓国移民政策の転換期に

小学校の入学式で、願いを書いた風船を飛ばす「多文化」の子ども



韓国では国際結婚の家庭やその子ども、外国人労働者を「多文化」と呼んでいます。年々、多文化の人たちの存在感が増している韓国は、どこに向かうのでしょうか? 多文化社会や社会心理学を研究する高麗大学教授のユン・インジン(53)に聞きました。(聞き手・神谷毅)




韓国の国際結婚の歴史をみると三つの波があります。最初は朝鮮戦争がきっかけでした。1953年の休戦後に米軍が駐屯するようになり、米国人男性と韓国人女性の結婚が増えた。当時はこうした結婚に社会は否定的で、その子どもを韓国語で「混血人」と呼ぶ偏見もあった。このため多くが米国に移住しました。


次の波は80年代で、統一教会という宗教によるものです。合同結婚式が行われ、多くの韓国人男性と日本人女性のカップルもいました。この時期、国際結婚の相手は日本人が最も多かったのです。


三番目の波は90年代から始まり2000年代の初めにピークを迎えた動きです。最初は地方の自治体が、結婚相手が見つからない男性に、朝鮮半島にルーツを持つ中国人女性を紹介する例が多かった。2000年代に入ると国際結婚の仲介業者が急成長を始め、ベトナムやフィリピン、カンボジアの女性が増え始めました。


こうした「多文化」の家庭でたくさんの問題が起きました。夫婦の年齢差が大きく、また女性は韓国語ができないので意思疎通が難しい。夫やその家族には女性をお金で買ったという意識もありました。女性たちは母国の家族の暮らしを韓国で働いてお金を送ることで助けられると思っていたのに、夫や姑が送金させてくれない。女性が自殺したり暴行を受けたり、多くの悲劇がありました。このままではいけないという認識が社会に広がり、10年ごろから政府が国際結婚の条件を厳しくするようになりました。


「多文化」の子どもたちの多くが、これから小学生になっていきます。10年後には成人になり、仕事に就くようになる。ただ成人になる過程で、もし就職などで差別されると、社会に不満を抱くようになる可能性が高い。こうした子どもたちも農村には残らず、都会に出ていくでしょう。そうなれば地方はまた沈滞します。都市の特定の地域に集まって住むことになれば、年齢も似通っているので影響力が強くなるかもしれない。こうした問題は今は見えていませんが、10年後には深刻になってくると考えています。

ユン・インジン教授

今でも例えばソウルの一部の地域には朝鮮半島にルーツを持つ中国人が集まって暮らしています。最近もひどい殺人事件があり、メディアは過激に報道しました。こうした中国人は全国に80万人ほどいるので、殺人事件を起こすのはごくわずかにすぎません。それでも韓国人がこうした地域や中国人について思い浮かべるのは犯罪だという雰囲気になってしまっています。


多文化の子どもが成人になれば、韓国人と同じように、その中から一定の割合で社会問題を起こす人たちもいるでしょう。そうした事件がメディアで誇張されて報じられると、彼らに向ける国民の意識も否定的になります。彼らが社会から排除されれば自分たちへの社会的な差別だと感じ、欧州などでみられるようなマイノリティーの暴動が起こるおそれさえあると考えています。


多文化は不可避な現象です。韓国社会もグローバル化には逆らえません。韓国人もたくさん外国に出るし、外国人も韓国にたくさん入ってくる。そこで必要なのは「不可避的な共存」だと思います。社会が急速に変わっていくなかでは、多様な人種や民族、宗教や文化、理念を持った人たちが不可避的に一緒に住まなければいけない。共存に選択の余地はありません。受け入れるしかないのです。


ならば、どう対応すればいいのでしょうか? 最も賢い方法は、そこで生きる方法を探すことです。自分と考えが違う、背景が違う場合でも、どのように共存すればいいのか方法を探すことが、韓国に与えられた重要な課題です。

自動車部品工場で働く外国人労働者

これは韓国に限った話ではありません。日本を含むすべての国で同じことが言えます。こうした状況を受け入れるしかないことだと認識した瞬間、差別する意識も変わっていくのではないでしょうか。


人口が減り、経済を支える若者が減って経済が停滞する。こんな問題を前に、韓国と日本は違う道を選ぶと私は思っています。韓国は新しい変化を選ぶ可能性が高い。これは伝統に向ける考え方の差からくるのだと思います。韓国では日本ほど伝統を肯定的に考えていません。私たちは相対的に後発国家なので、新しく、現代的で西洋的なものがいつも望ましいと考えます。新しいものを受け入れ、実践する面では心理的な壁、文化的な壁が日本より低いと私はみています。


政治体制の違いも大きい。韓国は大統領制で、大統領には大きな政治的影響力がある。政治決断によって急激な変化が起こる可能性があります。例えば次の大統領が移民について肯定的な認識を持っていたら、私たちが考えるより速いペースで移民政策がさらに開かれる可能性もあるでしょう。


私が望んでいるのは「秩序ある移民政策」です。今の雇用許可制では、外国人労働者は原則5年未満しか滞在できない。労働者にとっても雇用者にとっても損失です。滞在期間中に得た経験が生かせないからです。次の段階として、移民を通じて労働力を確保する方向に踏み出すべきではないでしょうか。雇用許可制で入ってきた労働者のうち、合理的な手続きを踏めば永住権を得られる道を拡大する方向が望ましいと考えています。


韓国では次の10年で移民政策に大きな転換点が来ると思います。韓国社会は移民について今は限界点を超えることができていませんが、一度開かれれば、そんなに心配することではなかったと世論は肯定的に考える可能性がある。一度、肯定的な考え方に変わると、それが一気に加速することは十分にありえます。


社会現象というのは緩やかに変化するものではありません。ある瞬間で急に変わる。その状態がしばらく続くとまた限界にぶつかる。そこでは当然、葛藤が起きますが、それをまた超える。その繰り返しです。この10年間が韓国にとって移民政策のパラダイム転換の時期になると思います。

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