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韓国のあした

パスポートを隠されたり暴力を受けたり

離婚や家出も

韓国の国際結婚「多文化」の現場から

谷城中央小学校の始業式で

特集の記事「内なる外国に向き合う『多文化』」でみたように、韓国では地方で国際結婚の子ども、韓国語で言えば「多文化」の子どもが増えています。都市部と比べれば閉鎖的といえる地方社会にどんな変化が起きているのか。韓国南西部、全羅南道・谷城(コクソン)郡の人たちの声に耳を傾けてみました。(聞き手・神谷毅)


谷城中央小学校の校長 チョン・ミソン(56)

チョン・ミソン

今年この小学校に入学した新入生は67人いますが、「多文化」の子どもは8人でした。全校でみた多文化の子どもの割合は10.9%です。母親の出身国ではベトナムが最も多く、中国からきた朝鮮民族の人たち、フィリピン、タイ、ウズベキスタンなどが続きます。


教育現場における多文化の子どもをめぐる問題は大きくみて二つあります。一つは韓国語の問題です。言葉はまず家庭で学ぶものですが、外国から来た母親は韓国語をうまく話せず、子どもの韓国語の力が育たない原因になります。それが勉強への意欲を殺ぎ、学力の向上に悪い影響を及ぼすことが多いのです。


もう一つはアイデンティティーの問題です。もともと自分が誰なのかを考える多感な時期ですが、多文化の子どもの場合、韓国人の父親と外国人の母親を見ながら、「自分はどこの国の人なのか」と悩むことが多いのです。


ただ、多文化の子どもたちには武器があります。それは母親の出身国の言葉です。将来、通訳や貿易などの仕事をする時に必ず役に立つはずです。学校では道の教育庁の協力のもと、母親の母国語を学ぶプログラムを行っています。ただ、韓国語と母親の母国語の両方を話せる子どもは、とても少ないんです。父親や祖父母が、母親に家では母国語を話させないようにすることが多く、ましてや子どもに教えることを嫌う傾向が強いためです。


谷城郡議会の副議長 ユ・ナムスク(52)

ユ・ナムスク

郡議会の議員になる前から、国際結婚でやって来た外国の女性たちに韓国語を教えています。彼女たちから、「韓国語もできないのに子どもをどう教育したらいいか分からない」という悩みをずっと聞いていました。2年前に議員になり、多文化の家庭と学校とを橋渡しするため走り回っています。


国際結婚の女性を支援する行政組織として「多文化家族支援センター」が郡にありますが、特に姑はここに国際結婚の女性を通わせることを嫌います。もしかして逃げて自分の国に帰ってしまうのではないかと疑っているからです。こうした意識の壁を打ち破るのに、ずいぶんと長い時間がかかりました。


なかには実際に逃げてしまう女性もいます。ある女性はしっかりした仕事を持つ夫と結婚できたのに、ある女性は厳しい農業の仕事をしている夫、あるいは体に障害を持つ夫と結婚した。支援センターで同じ国の女性とお互いの境遇について話すようになると、ついつい比べてしまうのでしょうね。こうして家庭を捨ててしまった例をいくつか見ました。


国際結婚の母親をどう助け、その子どもをどう助ければいいのか。家庭だけをみていてはダメだと気づきました。その村や地域全体で支援しないといけないのです。そうしないと、「あれは、あの家の問題だから」とほったらかされてしまい、問題はなくなりません。地域全体で考えることで、お互いに抱えている意識の違いが縮まっていくのだと信じています。


「多文化」の親子

トティ・メン(中央)と長男のホン・サンヒョン(右)、ホン・ヨンジュ


トティ・メン(33)

2007年5月にベトナム南部から国際結婚をあっせんする業者の紹介を受けて韓国の男性に嫁ぎました。夫は建築業をしています。夫と姑、子ども二人で小学校近くのアパートに住んでいます。


この10年間で一番辛かったのは、やっぱり韓国語です。多文化家族支援センターで教えてもらったので今はできるようになりましたが、それでも難しいです。


ここに来た良かったのは、幸せな家庭を築けたこと。悲しいときも辛いときも、子どもたちが「大丈夫だよ」と言ってくれる。それが一番の幸せです。


子どもにはベトナム語を少しずつ教えています。ベトナムを訪れた時にも私の父母たちとも話ができるようになればいいですし、将来は通訳の仕事ができるかもしれないと思っています。


ホン・サンヒョン(9) トティ・メンの長男

新しく3年生になった。とてもドキドキしています。授業で面白いのは学校の外でする体験学習。難しいのは算数かな。ベトナム語もできるよ。「シンチャオ(こんにちは)!」。大きくなったら、警察官になりたいんだ。


ホン・ヨンジュ(6) トティ・メンの長女

入学式、面白かった。風船を飛ばしたの。そこに夢を書いた。大人になったら歌手になりたいって。歌が得意なの。好きな食べ物はピザ!



谷城郡多文化家族支援センター長 ムン・ミソン(57)

ムン・ミソン

センターには250人の国際結婚の女性が登録しています。ここに初めて来た女性に、まず何が必要かを尋ねると、韓国語の力だという答えが返ってきます。


彼女たちの結婚のプロセスはこうです。業者の紹介で韓国人男性が現地に行き、女性に会う。すぐに結婚して韓国に来る。ですから韓国語ができないのは当たり前。夫婦の意思疎通もままなりません。そうでなくても韓国人の姑は物理的に声が大きく、女性たちは怖がります。フィリピンやベトナムから来たといっても、ここより都会から来る女性もいる。ドラマで見たおしゃれな韓国を想像してやってきたのに、こんな田舎に来るとは知らなかった、という女性も多いのです。


こうした国際結婚で特徴的なのは、夫婦の年齢の差がすごく開いていることです。20歳前後離れているのは普通で、私が相談を受けた中では36歳差が最高でした。業者の紹介ですから、女性本人は男性を選べないわけです。夫やその両親は紹介を受けるため業者にお金を払っていますから、女性を「買った」という意識があるのも問題。女性が逃げないようにするためパスポートを隠してしまうこともあります。


韓国の社会になじめない女性が家出してしまうことが今の私の悩みです。夫は優しくなく、姑も厳しく、期待していた母国への仕送りも許してもらえない。彼女たちは母国の家族を支える役割を担っていることも多いので、彼女たちにとっては死活問題です。そこで家出する。すると当然、子どもに影響が出る。国際結婚の女性たちが増え始めたのは10年ほど前で、あと何年かはその子どもたちが増えていきます。思春期に入る子どもが増えれば、さらに問題が広がるかもしれません。


受け入れる韓国の家庭にも問題があるかもしれませんが、女性たちも結婚して家庭をつくるという「純粋な気持ち」だけで来る人が少ないともいえます。カラオケやマッサージの店でアルバイトをするようになり、簡単に大きなお金を稼げる「外の世界」を見て、子どもを置いて出ていく女性もいるのです。


私の経験からみると「多文化」の家庭でうまくいっているのはと4分の1ぐらいだと思っています。

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