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韓国のあした

韓国経済の昇竜、サムスンはなぜ凋落したのか?

キム・サンジョ 韓城大学教授に聞く


その弊害が指摘されつつも、韓国経済が財閥に支えられていることは間違いない。財閥を研究する漢城大学キム・サンジョ教授に、財閥の象徴ともいえるサムスンと、韓国経済の明日について尋ねた。(聞き手・神谷毅)




漢城大学のキム・サンジョ教授

サムスンは韓国の経済成長、そして財閥体系を象徴する存在といえます。サムスンが韓国経済に占める割合は圧倒的です。2位の現代自動車グループと比べて資産規模は2倍以上、純利益は3倍から4倍にもなります。


ただ、1990年代までサムスンの存在感はそれほどでもなかった。当時の5大財閥はトップに現代がいて、サムスン、大宇、SK、LGが続いた。サムスンは大財閥の一つにすぎなかったのです。

ロイター

97年の通貨危機をどう克服するかが、財閥の命運を分けました。当時、財閥はそれぞれ倒産の危機に陥りましたが、現代や大宇は規模をさらに大きくする戦略を採った。自分たちが倒れれば韓国も倒れる、だから政府は自分たちに支援を、という主張でした。しかし結局、大宇は事実上、財閥としては姿を消し、現代はいくつかのグループに分裂しました。



サムスンは昔から「管理のサムスン」と呼ばれますが、このシステムが危機に際してうまく働いた面が大きいと思います。他の財閥のようにオーナーが1人で決めるのではなく、サムスンではオーナーの「参謀組織」が財閥全体をコントロールします。この組織が拡大戦略ではなくスリムダウンする戦略を採り、リストラで危機を乗り切りました。


これが一段落した2002年ごろからサムスンに追い風が吹きます。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、韓国のすぐ隣に巨大な市場が現れました。半導体や携帯電話を主力事業に定めていたサムスンは、世界経済のグローバル化とデジタル化にも柔軟に対応できました。これが今日のサムスンの驚くべき成功につながっているのです。


問題はこの成功がサムスンを傲慢にさせた面があることです。08年の世界経済危機後は世界も韓国も大きく環境が変わったのに、自分たちの方法が成功したため変化に鈍くなっているようです。環境に適応することより、むしろ逆に自分たちの方式を社会に強要しようとする面さえあります。チェ・スンシル事件には多くの財閥が巻き込まれましたが、なかでもサムスンは理解に苦しむほどの癒着ぶりでした。成功したために失敗を招く、つまり「成功の逆説」に陥ってしまったようです。


韓国の財閥は今、それぞれ転換点を迎えています。多くの財閥で創業2世が3世に経営権を譲り渡そうとしているからです。3世は生まれた時から「王国」の中で育ってきたので、外の世界から完全に断絶されています。例えば今回起訴されたサムスンの李在鎔(イ・ジェヨン)副会長にも表れているのではないでしょうか。彼はとても良い教育を受けてマナーもよく、ナイスな人柄ですが、他人に対する配慮や共感が足りないと周辺からは言われています。


さらに3世たちの問題は、企業人として現場で挑戦し、失敗を通して学ぶことがなかったことです。温室育ちでチャレンジ精神を失ってしまった。私は、これが韓国経済の最も大きなリスクだと考えています。韓国経済は困難の中にあることが問題なのではなく、その困難を克服する、あるいは克服しようとする人がいないことが問題なのです。




財閥一家を王族のように管理しようという組織、とても硬直化した組織からはイノベーションを生み出すのは難しいと思います。私は財閥について研究し、問題提起をしているので、当然、当事者たちの説明も聞かなければいけないと考えています。だから財閥の2世や3世たちにもよく会います。


サムスンの関係者と会って感じるのは、私のような人間に会う時でも事前準備に必要以上に気を配ることです。私が財閥一族とどんな話をするのか、どんな質問をするのか、事前にすべて把握し、大事がないようセッティングしようとする。財閥一家に一点のダメージも与えない完璧なシナリオをつくり、その通りに管理しようとする。サムスンの李健熙(イ・ゴンヒ)会長が外国のスキー場に行ったとき、ゲレンデ全体を借り切って部外者を近づけないようシャットアウトしたこともあります。このような組織にはトップダウンはあってもボトムアップは難しいでしょう。イノベーションも不可能に近い。


社内でイノベーションができなければ、イノベーションの種であるベンチャー企業を買収することが成長戦略になります。グーグルやフェイスブックといった企業は1週間に一つのベンチャー企業を買っているともいわれます。一方でサムスンの場合は昨年、10件未満です。


サムスンは社内に60兆~70兆ウオン(約6兆~7兆円)のお金を持っていますが、そのグローバルな経営規模に比べると企業買収がすごく少ない。理由は二つあります。一つは過去のトラウマ。1990年代に当時としは大型の企業買収を試みて大失敗した。かかわった社員はみな会社を去った。失敗を受け入れない硬直化した文化が垣間見えます。


もう一つは企業買収の目的の違いです。グーグルなどがたくさんのベンチャー企業を買うのは、投資の成功という直接的な成果もさることながら、ベンチャー企業の「生態系を管理する」ことにあります。潜在能力を持つベンチャー企業を自分たちの生態系の中に置き、その生態系の支配者として全体の流れを管理しようという目的です。このような力はサムスンにはまだありません。


日本の経済も停滞に苦しんでいると思いますが、日本は人口規模がそれなりにあって市場も大きいので、危機感に乏しいのかもしれません。一方で韓国は問題そのものが何なのかはよく分かっている。財閥です。これを解決するには、どの方向に行かなければいけないのかも、だいたい分かっている。


しかし、それを成し遂げるための方法が分からない。それを実行する主体もない。国家のガバナンス、統治が崩壊してしまっている。これこそが問題なのです。

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