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国境を越える電力

北欧のクリスマスに「電力のプレゼント」

マイナス価格 使うほどお金がもらえる!?




コペンハーゲンの夜景=村山祐介撮影

街中が華やかな電飾に彩られるデンマークのクリスマスイブ。プレゼントを待つ子供たちが寝静まった深夜、電力市場にも、大口の電力利用者にとってはクリスマス・プレゼントともいえる「マイナス価格」の電気が届けられた。


「電気を使うとお金がもらえるということです。クリスマスの季節には恒例ですね」。北欧の国際電力市場ノルドプールの広報課長、スティナ・ヨハンセン(44)は話した。


実際、昨年12月24日の日中、メガワット時当たり25ユーロ前後だったデンマークの電力価格は夕方から急激に下がり、午後11時に0ユーロを割り込んでマイナス12・05ユーロ(約1450円)に。午前2時にはマイナス38・78ユーロまで落ち込み、午前8時までマイナスが続いた。


どうしてそんなことが起こるのか。その理由はクリスマスならではの「需要と供給」の特殊事情にある。


キリスト教徒が大半を占めるデンマークではクリスマス時期に休みを取る人が多いうえ、イブの夕方にはほとんどのオフィスや工場は閉まってしまう。照明を消して、キャンドルライトでクリスマスディナーを楽しむ家庭も。国内の電力需要はとても少ない。


一方、大規模洋上風力発電所が立ち並ぶ北海はこの時期、強風の日が多い。気温も下がり、地域暖房の副産物として生まれた電気も潤沢だ。風力が需要に占める割合が年平均で42%に達するデンマークの国内で使いきれないほどだが、ドイツでもマイナス価格になるなど、周辺国でも似たような状況だ。


極端に少ない電力需要と、もてあますほどの供給が一緒に起きてしまうのがクリスマス、というわけだ。


電気は需要と供給のバランスが崩れると大停電を起こしかねない。これまでその調整を担う送電会社が発電事業者に出力抑制を指示してしのいできたが、制約を受ける事業者側には不評だった。市場原理を活用して事業者側が自主的に判断できる仕組みとして、ノルドプールが2009年、マイナス価格を導入した。


国営送電会社エナジーネットDKの副社長ピーター・ヤーカンソン(62)は、電力価格がマイナスになることで「発電を止める強烈なインセンティブになる」と話す。とりわけ発電する時のコストが低い風力などと比べて、外部から買ってくる天然ガスや石炭を燃やす火力発電所が発電を止める動機付けになる、というわけだ。


だが、実際には、お金を払ってでも発電を続ける発電所は少なくない。


国内最大の発電事業者ドンエナジーの風力部門のマネジャー、ライフ・ウィンター(46)は、「古い風力発電所は発電量に応じた補助金を得ているので、マイナスが補助金よりも大きくなったときに止めている」と明かす。マイナス価格になるのは、長くても翌朝までの数時間で、年間でも夏と冬の計数十時間程度。石炭火力発電所はいったん停止して再稼働する手間と費用がかかるため、お金を払ってでも操業を続ける方が安上がりなのだという。


需要と供給の調整弁を担い始めた電力の「マイナス価格」。でも将来的に蓄電池や電気自動車が広く普及すれば、市民にとっても、電力を貯めてさらにお金がもらえる本当の「クリスマス・プレゼント」になる日が来るかもしれない。(村山祐介)

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