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自閉症を旅する

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北国に芽吹く ゆったりな街~発達障害とともに





雪が舞う、しゃれたレンガの歩道を、白い息を吐きながら3人の少年たちがゆっくり進む。岩手県一関市駅前の商店街。それぞれお目当ての店に向かったのは、前沢養護学校に通う自閉症など広汎性発達障害の子どもたちだ。


松本倫流(みちる)君(13)は衣料や化粧品を売る店へ。「千葉ツヤ子さん」と店員に声をかける。「倫流君。よく来てくれたね」とツヤ子さん(58)。4、5年前、1人で化粧品に見入っている倫流君に「こんにちは」と話しかけた。「資生堂きれいね」との返事に、「そうね、きれいね」と応じ、声をかけあうようになった。


村上君(17)は、生花店へ。母に頼まれたチューリップを買った。以前、バラを買ったことを覚えていた店長の千葉生都子(いつこ)さん(38)は「この前はありがとう。だれに買ったの」。「好きな子に」


以前は自閉症についてよく知らなかった。だが、村上君が何度か買い物にくる中で、彼への対応の仕方がわかってきた。


この買い物は、NPO法人「いわて発達障害サポートセンター えぇ町つくり隊」の活動。養護学校教員や臨床心理士など約30人が03年に作った会だ。小学校教諭の熊本葉一さん(49)が、米国ノースカロライナ州で地域が自閉症の人たちを支える様子を見て、「一関でも」と思い立った。


自宅と養護学校、卒業後は自宅と通所施設。そんな2点間往復の生活の幅を広げたい。買い物も外食も楽しみたい。理解してくれる「点」を増やし、「面」へとつなげる活動だ。


まずは、サポーター店作り。地元画家の柔らかな絵に、「自閉症のことをわかって」というメッセージをのせたポスターを商店街に張らせてもらうことから始めた。硬貨や紙幣、トイレの絵が並び、指させば会話を補えるシートも配った。


「えぇ町探検隊」と称して、駅前商店街で買い物練習を始めたのが05年末。協力店は、「サポートします 障害のある人たち」と書いたステッカーをはった。子どもは「障害を抱えています」のワッペンをつけた。これまで小中高校生を中心に約30人が参加した。


倫流君は4年生から参加した。「幼少時は、多動に悩まされた」と母・久子さん(43)。何度も学校を飛び出し、3年生の時には「警察ざた」に。酒屋でジュースをレジで見せ、金を払わず飲んだ。店主が名前を聞いても答えず、警察に通報されたのだ。「買い物でお金を支払うということが、分かっていなかった」


最近は、買い物は身についた。1月も、顔見知りの菓子店員とガラス越しに手を振り合った。久子さんは「地域の理解や支えがあると心強い」と言う。春からは、1人での買い物にチャレンジさせたいと思う。


駅前商店街は、郊外店に客を奪われ、地元大型店もダイエーも姿を消した。シャッターを下ろしたままの店も目立つ。「でも、ここだから、優しい街づくりができる」と、生鮮食料品店の千葉幸七社長(66)は話す。商店街に来るのは、近くのお年寄りが多い。会話をするために来る人、言葉が聞き取りづらい人にも、ゆっくり耳を傾ける「時間」がある。今サポーターは約100店になった。


こんな活動を知ってほしい。えぇ町つくり隊は昨年末、商店街と協力し、ポスターを作った。広告会社員で制作を担当した渡辺友則さん(31)は、商店街の人たちが、ゆったりと子どもに接する姿を見て、「あったかい」と思った。「自閉症にはたくさんの親が必要です」「自閉症の子どもたちにやさしい街は、誰にとってもやさしい街になる」。思いを込めたコピーができた。


6枚1組で300組つくり、各地の発達障害者支援センターなどに配った。商店街の店や掲示板にも張り出された。「表情がいいね」「自閉症のことがよくわかる」「ほしい」。そんな声が届く。北国が育んだ小さな種が、さまざまな場所で芽吹こうとしている。



連載を担当して 支え合い、障害の有無かかわらず

私の小学生の長男も、広汎性発達障害だ。幼稚園の年中の時に診断された。


子育ては、試行錯誤だ。感情の調整が難しく、学校でトラブルを起こすことがある。同級生に申し訳なく思う。他人と比較し、自分ができないことにじれる。息子がありのままの自分を受け入れられるよう、どう育てていくか、大きな課題だ。


ありがたいのは、先生が毎日の様子を伝えてくださる連絡帳。「大縄跳びが2回跳べた」など、わずかな成長が細やかに記されている。前向きなメッセージは何よりの心の支えになる。


取材で、多くの保護者に話を聴かせていただいた。将来の不安は共通だ。思春期、就職、結婚、親なき後…。ハードルは高い。


障害の誤解を懸念する指摘も多い。特殊な事件の加害者の診断名で報道されたことがあるからだ。専門家は、犯罪など反社会的な行為に直接結びつくことはない、と強調する。


「子育ての喜びもたくさんある」という声も強かった。表裏のない真っ正直さに、思わず笑い、いやされることも少なくない。


広汎性発達障害は、自閉症スペクトラム(連続体)とも言われ、特性は人によって違う。それぞれに合った支えが必要だ。


それは、発達障害に限らない「心配り」の延長だ、と思う。認知症の人や身体障害者、外国人、障害のない人も、個性を尊重し、補い、協力しあう。ゆとりのある関係が、地域や職場、学校で広がり、互いがその人らしく輝ければいい。「自閉症の子どもたちにやさしい街は、誰にとってもやさしい街になる」。えぇ町つくり隊のポスターは、そのことを伝えている。


今回は、医療や福祉、保護者を取材し、話題や課題となっていた三つのテーマを報告した。今後も現場から学び、考えていきたい。


(太田康夫)

(2008年3月8日掲載)



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