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自閉症を旅する

紗都さんとの出会い ~発達障害とともに



「自閉症を旅する」の筆者、太田康夫記者は、大阪本社を拠点に、自閉症や発達障害に関するテーマを追い続けています。特集にも登場する朝日新聞の連載「発達障害とともに」シリーズなどから、太田記者が自ら選んだ自閉症に関する5つの記事を再掲します。これは特集の最後に登場する高橋紗都(さと)さんと太田記者が知り合うきっかけとなった記事です。


「行きたくない」。長女は、泣いて登校を嫌がった。両親は戸惑いながらも、娘の訴えに耳を傾けた。アスペルガー症候群と診断された長女は、自宅でゆったりと過ごすうち、自分が困っていることを伝え始めた。




「私のいる所では守って」。大阪府大東市の自営業高橋純さん(47)の自宅テーブルには、長女紗都(さと)さん(11)の手書きのメモがある。


「静かにする・日本昔ばなしのような話し方がいい」


来訪者にお願いしたいことを記した。急に話しかけられるとパニックになる。2年前、アスペルガー症候群と診断された。


「生まれたばかりの時は、ほわーんと、おっとりしていた」と妻の尚美さん(43)はふり返る。


幼稚園の入学式で大泣きし、翌日から登園を嫌がった。「すぐに慣れる」。幼稚園教諭の言葉と裏腹に拒否反応は激しくなった。なだめすかして、1年ほど通わせた。だが、夜中に「嫌や」とうなされるようになり、発熱が続いた。


両親は、登園を無理強いするのをやめた。教諭からは、「大事にしすぎ」と言われた。


小学校でも入学から1カ月で登校を嫌がるようになった。


尚美さんが学校まで付き添っていったが、校門が近づくと泣き出した。尚美さんと一緒に保健室で過ごすことはできた。担任教諭は「余計に甘える」と眉をひそめた。ある日、担任教諭が保健室にいた紗都さんを強引に連れ出した。廊下で転んでも引きずられた。熱心な指導で評判の教諭。「学ばせたい」との思いの表れだったのかもしれない。だが、紗都さんは「学校には鬼がいる」と、登校をますます嫌がった。


2学期。パニックになると、自分の体をたたき、髪を引っ張る自傷行為を始めた。「このままではつぶれる」。両親は、無理に通わせるのをやめた。



 □   □


両親は、娘が普段の生活で、何がつらいのかを聞き出そうと努めた。「休み時間も給食も、うわーっとなって食べられへん」「学校におって、遊ぼうって言われると、うわーってなる」。少しずつ口を開き始めた。


ほどなくして、発達障害を疑うようになった。人とうまくかかわれない、急な予定の変更が苦手……。娘の特徴が障害特性と重なった。児童精神科でアスペルガー症候群と診断された。


紗都さんは、4年生になって、どう困っているのかをつづった「うわわ手帳」をつけ始めた。文章や絵、家族との会話で自らが困る場面を説明した。


子どもの声が響く幼稚園や小学校にいると、ぐったりと疲れた。一日中、騒音や予測のつかないことであふれていたから。


花柄のワンピースを着なかった。「かわいいね」と突然、話しかけられるのを避けたかったから。


時にわがままに見えたり、奇妙に見えたりする行動は、予測できないことを避けるための様々な工夫の表れだった。「透明人間やったらいいのに」と口にしたこともあった。「想像もできない世界。常に頭はフル回転している。しんどいだろうな」と両親。あのまま学校に行かせていたら、他人と比較され、怒られ、自信を失っていたに違いない。


  □   □


現在はゆったりとした時間を過ごす紗都さん。午前中は自宅で通信教育の教材に取り組む。午後はギターを練習したり、家庭菜園で作業したり。1学期に登校したのは4日間だった。


ギターを習い始めたのは7歳。自宅で、ギターのソロ演奏のCDを流したところ、紗都さんが涙を流しながら聴いたのがきっかけだった。


7月下旬、大東市内でギター発表会があった。事前に約80人の会場で「拍手は右手をパー、左手をグー」と決めた。大きな音が苦手な紗都さんへの配慮だ。穏やかなメロディーの曲を10曲奏でた。音のない、温かな思いの詰まった拍手が広がった。


「将来、自分のような特性を理解してくれる人たちがもっと増えて、同じ障害のある人たちが楽しく生活できるとうれしい」


両親は「娘のペースに合わせた生活を大切にしつつ、成長に合わせてその時々の課題をクリアしていきたい」と心に決めている。




◆紗都さんの言葉から◆

急になる音や大きな音、ずっと音がするところにいると、「うわーっ」となります。激しい動きをするものや激しい色を見たときもそうなります。


映画「ファインディング・ニモ」を見に行ったときもうわっとなって内容を覚えていません。音は耳の横をトラックが走るよう、画像は電器屋さんの広告の大きいものを動かされている感じでした。


言葉を続けて言われても聞けない時があります。「赤、白、茶色、灰色」と言われると、赤、茶色と聞こえます。最初の赤を頭に入れている間に、白は言ってしまっている。聞こえた茶色を頭に入れている間に灰色は言ってしまっているんです。


少し注意されただけなのに怒られていると勘違いすることがあります。ほめられていても気づきません。注意するときは「怒っているんじゃないよ」、ほめているときは「ほめています」とはっきり伝えてほしいです。


飼い猫のラッキーは、とても大切です。一緒に遊んでいるとリラックスできます。出かける時は、お守り代わりにラッキーの毛と写真を持って行きます。


四季それぞれの香りが大好きです。香りは、季節の変わり目では1週間で全く違います。春は甘くて華やかな香り。私は少し素朴な秋の香りが好きです。


草花も好き。植物の気持ちも考えます。花殻を摘まれたとき、「悲しいのでは」など。毎日、こういうことを感じながら生活していますので何をするのもゆっくり。以前は「ゆっくりじゃだめ」と思っていましたが、今はゆっくりなのが私と思えるようになりました。


(「うわわ手帳と私のアスペルガー症候群」からの抜粋と紗都さんとのメールのやりとりで構成しました))



(2008年9月4日掲載)







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