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デザイン思考が変える

ブランドン・片山・ヒル(ビートラックスCEO)

西海岸にデザインの風が吹いている




米サンフランシスコで2004年に設立されたビートラックスは、日米の企業や起業家たちにデザイン重視の製品・サービスの生み出し方を伝授したりサンフランシスコでの拠点を提供しています。日本で生まれ育ったCEOのブランドン・片山・ヒルさんは「ここ3、4年、西海岸にデザインの風が吹いている」と語ります。




photo:Takahashi Yukari


――ブランドンさんは03年にサンフランシスコ州立大のデザイン学科を卒業されています。

その当時はデザイン思考という言葉はありませんでした。ウェブデザインの中で、心地よさを追求するデザインなど、デザイン思考の手前のようなことを学んでいました。アップル製品にはDesigned by Apple in Californiaという文字が刻まれているけれど、そういうことをしているのはアップルぐらいでした。しかしここ3、4年で西海岸にデザインの風が吹いている感じがします。テクノロジーと相性が良いので、デザインの領域が広がっているのと同時に、紙や物からデジタルに移動している。ウェブやスマホ、インタラクションなど最先端の技術に正しい技術を入れ込むのはシリコンバレーがある西海岸が最適。投資家、起業家、技術、エンジニア、デザイナーがまとまっているからです。


――日本人が「デザイン」と聞いてイメージするのは、商品やポスターのデザインであることが多いのですが、シリコンバレーでは何を意味するのでしょうか。

デザインという言葉の示す役割は大きく変わってきています。見た目をきれいにするとか使いやすくすることだったのが、それに加えて問題を解決する、消費者が求めるものを作り出すということに広がってきました。今までのビジネスでは、すでにある市場に合ったものを既存の技術で作っていたんですが、デザイン主義で注目されているのは、市場がまだ存在せず、技術もそこまでないもの、でも世の中で必要とされているものを作るという点です。つまり、市場ごと作りだしてしまう。よい例がスマホで呼ぶ配車サービス「ウーバー」です。タクシーは需要があるけれど、呼ぶのや支払いに時間がかかるなどの不満が多かった。その中で、新たに良いサービスのタクシー会社を作るのではなく、新しい配車システムを作りだした。ユーザー視点で考えるのが、この辺りの企業の上手なところです。


――ヒッピー文化に象徴される西海岸の自由な空気も影響しているのでしょうか。

ここは世界で一番失敗が許される地域だと思います。米国の中でもとてもリベラルでオープン。失敗することが、「失敗」とは見なされていません。仮説をたてて、試してみて駄目だったら、「これは良くないんだ」と学べる。テスト→評価→洗練、というサイクルが重要。駄目だった時のケースは失敗ではなく、改善の元になるものでしかないので、失敗とは言われません。


――そういうプロセスで生み出されたものだから若者にも受け入れられるのでしょうか。

そうだと思います。早いスピードで何度も試しているので、ユーザーが本当に欲しいものを提供することができる。日本の企業が1個製品を作る間に米国では5回ぐらいサイクルを回すんですね。2割ぐらいの精度で作った段階で市場で試し、ユーザーからのフィードバックを元に改善、を繰り返す。同じ1年かけても出されるものの質が違ってくるのは、ここでは丁寧に作ったからではなく、何度もテストをしたからなんです。市場ニーズはどんどん変化していくので、スピードは重要です。


――西海岸に企業が進出する意味は大きいのでしょうか。

とても大事だと思います。人材も、意見を言ってくれるユーザーもいる。日本の自動車会社も軒並み進出しています。世界中から企業や起業家たちが集まるので、サンフランシスコではここ3、4年で家賃が3倍ぐらいに跳ね上がりました。事業がうまくいくか分からない起業家にとって、オフィスを借りるのはリスクが高い。それでビートラックスでは「D.HAUS」というコワーキングスペースも運営しているのです。


――仕事の依頼は増えていますか。

7、8年前から徐々に増え、これまでに200社超の顧客実績があります。主にくる問い合わせは、①既存のビジネスの海外展開②デザイン思考を元に新しいビジネスを作りたい③社内にデザイン思考のプロセスを入れたい、の三つです。以前は①が多かったのですが、最近②と③が増えています。日本企業の経営陣がデザインの重要性に気付いたけれど、どこから始めていいか分からない、というケースが多いです。


――日本では消費者視点やおもてなしの文化があります。デザイン思考と似ていませんか。

顧客との接点でサービスのすばらしさは確かにあると思いますが、ビジネスやサービスを設計するところからデザインが入っていないことが多い。だからデザイン性は高くても、残念ながらイノベーションに結びついていません。企業の取り組みでも既存の製品の見た目を中心としたデザイン改善だけにとどまっているところが多く、1からビジネスやサービスをデザインするところまでたどり着くのはまだ時間がかかりそうです。これまでの物作りのノウハウや技術、おもてなしの精神を活用してビジネスにデザインを上手に取り込めば、日本が世界トップレベルのデザイン大国になる可能性もあります。この1年ぐらいが勝負ではないかと思います。



ブランドン・片山・ヒル

北海道帯広市生まれ。サンフランシスコ州立大デザイン学科在学中からウェブデザイナーとして働く。卒業後の2004年、ビートラックス(btrax)を設立。2013年には東京に日本支社も開いた。




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