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人工知能を愛せますか?

教育改革に取り組む英国

「デジタル技術の格差」解消めざす

人工知能(AI)を始めとするデジタル技術の開発をリードするのは、グーグルやフェイスブック、マイクロソフトといった米国企業ですが、技術競争の遅れを取り戻したい英国は、「教育改革」に力を入れてきました。

GLOBE1月号の特集「人工知能を愛せますか?」でも英国の教育事情を紹介していますが、紙面に盛り込みきれなかったエピソードを紹介します。(GLOBE記者 左古将規)

AIがサポートするネット教育を受ける子ども(サード・スペース・ラーニング社提供)


2011年8月、英国スコットランドの中心都市エディンバラ。国際テレビフェスティバルに招かれたグーグルの会長エリック・シュミットによるスピーチが、英国の教育関係者に波紋を広げた。


「失礼になるかもしれないが」と前置きしたうえで、米国人のシュミットはこう言った。「あなたたち英国人は写真を発明し、テレビを発明し、コンピューターを発明した。それなのに今、この分野の先駆者に英国人は1人もいない」


シュミットは痛烈な批判を続けた。「まずは教育を変えるべきだ。英国の学校がコンピューター科学を教えていないということに私は驚いた。情報技術(IT)の授業で教えているのはソフトウェアの使い方だけで、それがどうやって作られているかには触れられていない。これでは自分たちの偉大な伝統を捨て去ってしまうようなものだ」


イングランド中部の高校で情報通信技術(ICT)を教えていたサイモン・ハンフリーズは、スピーチの内容を知って「まさに我々が考えてきたことだ」と感じた。

CASのサイモン・ハンフリーズ(撮影・左古将規)

ハンフリーズはもともと音楽の教師で、作曲にコンピューターを活用していたこともあって、コンピューター教育の重要性を感じてICTの教師に転じた。英国のコンピューター教育は変革が必要だ。そんな思いを共有する教員や大学の研究者らとともに2008年、「コンピューティング・アット・スクール(CAS)」という団体を立ち上げていた。


「私たちは現場から声を上げた。多くの教員が同じ思いを感じていて、ついに政府も動いてくれた」とハンフリーズは振り返る。2014年9月、イングランドでは5~6歳児から「コンピューティング」という新しい科目が必修になった。


新科目の特徴は、単にワードやエクセルの使い方を教えるだけではなく、コンピューターの仕組みを根本的に教える点にある。


インターネットが普及し、AIも進化した。知りたいことや欲しい物を検索すれば、AIが瞬時に「おすすめ」を判断して答えをくれる。でも、それを単純に受け入れていいのか、とハンフリーズは問いかける。「ある言葉を検索したときに、なぜこの商品がトップに示されるのか。仕組みを根本から学んでこそ、AIが出す答えの価値を判断できる」と彼は言う。


デジタル技術の進化に伴い、「技術の格差」も課題になっている。

「Nesta」のスティアン・ウェストレイク(撮影・左古将規)


イノベーション支援団体「Nesta」の政策調査部長、スティアン・ウェストレイクは「英国では歴史的にアカデミックな人文・社会系の教育に力を入れてきた。だがこれからは実践的な職業教育も重要になる」と指摘する。


「実践的な職業教育」の場をつくるため、英国政府は学校制度の改革にも取り組んできた。その一つが「ユニバーシティー・テクニカル・カレッジ(UTC)」。14~19歳向けに、企業や大学と連携しながら理工系の職業教育を提供する。2010年に1校目が開校し、16年までに48校に増えた。


その一つ、ロンドン南部で昨年9月に開校したサウスバンク・エンジニアリング・UTCを訪ねた。コンピューティング担当の教員、マーク・マーティンは「『技術の格差』はこれからますます開くだろう」と話す。

教師のマーク・マーティン(撮影・左古将規)

プログラミングなどの実践的な技術を身につけなければ、仕事を見つけることは難しくなる。AIが生み出す商品を消費するだけでなく、AIを活用して社会課題を解決できる人材を育てたい」と意気込む。


コンピューターが好きで「AIの大ファンだ」と語るマーティンは、いっぽうで、「教師の仕事もAIに取って代わられるのではないか」と懸念していた。


だが、教育学が専門のユニバーシティー・カレッジ・ロンドン教授、ローズ・ラッキンは「AIは教師を助けてくれる」と提言している。今後進化するであろうAIをうまく活用すれば、教師は採点などの事務作業から解放され、より人間的な指導に集中できるようになる、とラッキンは言う。

ローズ・ラッキン教授(撮影・左古将規)

ラッキンの助言を得てAIを活用した教育サービスを開発しているというロンドンのベンチャー「サード・スペース・ラーニング」の社長、トム・フーパーに会った。


フーパーが取り組んでいるのは、インターネットを使った「オンライン個別教育」だ。講師はAIではなく人間。インドとスリランカで計約250人を雇い、インターネット回線を使ったテレビ電話を通じて、英国の子どもたちに放課後、数学などを個別に教えている。

AIがサポートするネット教育を受ける子ども(サード・スペース・ラーニング社提供)


「授業の内容を記録してAIに分析させることで、講師たちを効率的に管理し、効果的な教え方をアドバイスすることもできる。世界的に教師の数は不足している。AIのサポートを得ることで、国外の貴重な人材に活躍してもらうことができる」とフーパーは言う。


(左古将規)


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