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巡礼と観光編④ サンティアゴ巡礼路と観光

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カメラやスマホを手にボタフメイロを見学する参列者=9月、サンティアゴ大聖堂、村山祐介撮影

サンティアゴ巡礼路のにぎわいも、観光との融合抜きには語れない。

白煙を上げて振り子運動するボタフメイロ=9月、サンティアゴ大聖堂、村山祐介撮影


サンティアゴ大聖堂で開かれたミサの終盤、荘厳なパイプオルガンと賛美歌が流れるなか、20メートルの高さから滑車でつられたボタフメイロ(大香炉)に火がともされた。聖職者8人が力いっぱいロープを引くと、長さ1・5メートル、重さ53キロの大香炉が振り子運動を始めた。白煙をまき散らしながら猛スピードで左右に振れる様子を、参列者はカメラを手に追う。聖地の目玉行事だ。

大香炉がたかれる定例日は、数年に一度の「聖年」以外は、クリスマスや聖ヤコブの日(7月25日)など年十数日。それに加えて、寄付があった時は不定期に行われてきた。

カメラやスマホを手にボタフメイロを見学する参列者=9月、サンティアゴ大聖堂、村山祐介撮影

ところが3年ほど前から、毎週金曜夜が「定例日」に加わった。金曜夜から宿泊客を呼び込みたい地元ホテル業界が、「寄付の年間契約」を結ぶようになったのだという。

巡礼者の門前町として発展してきたサンティアゴ・デ・コンポステーラにとって、大聖堂は集客の大黒柱だ。大聖堂を中心とする旧市街が1985年に、大聖堂を目指す巡礼路も1993年にそれぞれ世界遺産になった。サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の2015年の調査では、訪問者の実に96・5%が大聖堂を訪れている。

聖地のあるガリシア州政府観光局の公営企業シャコベオ代表、ラファエル・サンチェス(55)は「巡礼路は個人的体験や自然、宗教、自分探しといった新しいタイプの観光を求める時代のニーズに合致した。火がついたら、わっと沸騰した」と語る。

実際、2015年の巡礼者数は約26万人超に達し、30年前の約100倍に膨らんだ。州政府によると、最も人気の巡礼路「フランス人の道」沿いの宿泊施設は、03年の66軒から、13年には261軒と4倍に増えた。沿道の廃村はよみがえり、大型プール付きの豪華な巡礼宿まで登場した。

巡礼証明書が得られる聖地まで100キロの最短区間では、集中する巡礼者を当て込んだ「巡礼商法」も活況を呈している。

目に付くのが、軽装の巡礼者たち。顔なじみのスペイン人女性2人組も、いつのまにか足取りが軽くなっていた。大きなリュックはどうしたのか尋ねると、「重すぎるから預けたの。楽ちんよ」とくるっと回って背中の小さなナップザックを見せてくれた。

メールやSNSで託送業者に頼んでおくと、リュックを1個3~5ユーロで夕方までに次の宿に運んでくれる。このサービスを前提にスーツケースで巡礼する人も少なくない。巡礼宿には毎朝、スーツケースがずらりと並んでいた。

巡礼宿に並ぶスーツケース=8月、スペイン北西部ポルトマリン、村山祐介

パン屋から土産物屋、雑貨店まで、巡礼の歩みを証明するスタンプも、いたるところに置かれるようになった。レストランは、スープとメイン、ワインまでつけた「巡礼者定食」を競い合う。

巡礼人気につけ込んだ悪質な業者もいる。巡礼者を招き入れようと、聖地への順路を示す黄色い矢印を勝手に地面に書いて、自分の店に誘導してしまうのだ。地元ボランティアが消して回っても、いたちごっこという。