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生の終わりに

なぜ私は自殺を幇助するのか/EXIT副代表に聞く





スイスは、第三者が自殺に手を貸すことを認める世界でもまれな国だ。平均年齢は男女とも80歳を超し、世界有数の高齢社会でもある。国内に7万5千人の会員を抱えるスイス最大の自殺幇助団体「EXIT」のベルンハルト・スッター副代表に、自殺幇助をめぐるスイスの現状を聞いた。



――自殺幇助は、日本人にとってきわめてなじみが薄い概念です。スイスの人たちの受け止め方は。

photo:Goto Eri




「スイスでは刑法の条文の解釈によって、遺産目当てなど自己利益のためでない場合、自殺幇助は違法ではないとされている。国内では自殺幇助を行う五つの非営利団体が活動している。政府が規制しようとする動きもあったが、2011年にチューリヒ州で行われた自殺幇助禁止の是非を問う住民投票では、85%が禁止に反対した。この時は、外国人がスイスに自殺をしに訪れることを禁止するべきかどうかについても問われたが、78%が反対した。毎月のように、どこかで住民投票が行われるスイスでは、自分たちの社会や生活に関わることは自分たちで決めるという自己決定の考え方が浸透しているといえる」



「EXITは会員資格をスイス国民に限定している。この5年ほどをみると、毎年5千人ずつ増えている。自殺幇助の利用者数は、昨年の450人から、今年は700人を超えそうだ。背景には、会員の高齢化がある。会員の多くは40~50代で入会する。こうした会員が老年期を迎えるようになり、病気になったり、身近な人の死に頻繁に遭遇したりするようになった。そこで、初めて自分の事として最期をどう迎えるかについて考え始めるようになり、入会以来、数十年ぶりにEXITにコンタクトしてくるという例が多い」


――EXITは非営利団体ですが、自殺幇助を無料で受けられるのはなぜですか。

「死を金もうけのタネにしてはいけないという創設者の考えから、1982年の創設当時から無料の方針を貫いている。会員たちが払う年間45スイスフラン(約5千円)の会費を、年間500件前後ある自殺幇助にかかる費用に充てる。これは相互扶助の保険と同じ仕組みだ。EXITの会員資格は、自らが望む人生の最期を迎える保険の役割を果たしているともいえる」


「ただ最近は、病気からくる耐え難い痛みに苦しむ末期の患者らが、最終段階でEXITに駆け込んでくるケースが後を絶たない。このため、3年以下の会員からは費用を徴収するようになった」


――団体の自殺幇助を受けるための条件をみると、必ずしも「末期の患者」であることを求めていません。なし崩し的に利用者が広がる恐れはありませんか。

「確かに、利用者の中で、末期のがん患者など余命わずかという人は全体の7割。残る3割は、高齢による慢性疾患や複合的な病気など、必ずしも死が差し迫った状況ではない人たちだ。ただ、自殺幇助を受けるには病状以外にも厳しい条件がある。正常な判断力があることは、とりわけ重要だ。スイスで認められているのは自殺の「幇助」であり、第三者が直接手を下す安楽死ではない。重度の認知症やうつ病といった精神疾患を抱える場合は、EXITでは幇助を受けられない」


――自殺幇助については、障害者や低所得者ら社会的弱者が周囲から圧力を受けて死を選ぶことを迫られる、との批判もあります。

「私たちは家族の了承がある人の依頼しか受けないし、『孤独』を理由に死を望む人も幇助の対象にはしない。なぜなら、その場合は自殺以外に解決法があるからだ。ほかの解決策をすべて考慮してもなお、尊厳を持って人生を終えるためには自殺しか方法がないという場合に限り、死を迎える手助けをしている」


――老人ホームなどの施設に入っている人でも自殺幇助を受けられるのですか。

「チューリヒ州では2000年まで、施設入所者にこの選択肢を認めていなかった。このため80代、90代のお年寄りたちが、望み通りの死を迎えるため、わざわざ施設を出て仮住まいを見つけなければならなかった。これではあんまりだとEXITのスタッフが当局に訴え、今では市営の老人施設の場合は、入所者に団体の利用を認めている」


――集団生活する仲間が自殺幇助を受けたと知ったら、ほかの入所者は「自分もそうすべきでは」という精神的な圧力を感じないでしょうか。

「当初、行政や施設関係者の間にそうした懸念はあり、反対する人も少なくなかった。だが2000年から今に至るまで、市内の老人施設に暮らす数千人のお年寄りのうち、人生の最期に自殺幇助を選んだ人は年間3~5人でほぼ横ばいだ。この状況を見て、チューリヒ以外の自治体でも、入所者に自殺幇助団体の利用を認める老人施設が増えている」


――自殺幇助という手段は、なぜここまでスイスで根付いたのですか。

「EXITはすでに創設から32年。少なくとも40代のスイス人なら、若いころから自殺幇助という選択肢の存在を知っている。医師たちも、自殺幇助を望む会員たちの診断を通じて『死の自己決定権』という考え方を知り、理解する人が増えているように思う」


――ただ、そうした国は欧州でも決して多くありません。外国人も自殺幇助を受けられる国は今のところスイスだけで、海外からは「自殺ツーリズム」と批判されています。

「EXITでは会員をスイス人に限定していることを断ったうえで、個人的な見解を述べたい。耐え難い苦しみを背負って生きるより、意識が確かなうちに家族に見守られて生を終えたいと願う末期の患者たちは、スイスだけでなく、欧州のどの先進国にも一定数いる。外国人でも受け入れる自殺幇助団体の存在がなければ、自国で法廷闘争に訴えたり、メディアで当局を批判したりといった動きは、今以上に激しくなるだろう。スイスの周辺の国々は、『死ぬ権利』をめぐる問題を自国内で解決せずに、この小国に肩代わりさせているだけだと感じる」






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