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ベトナムの居酒屋を訪ねて


ベトナムのホーチミンの5月は暑い。南国の日差しは強く、外を5分も歩けばぐったりだ。この国でビールの消費量がうなぎ登りに増えているのもうなずける気がする。この街の人たちは、ふだんどんな飲み方をしているのか。経済成長のまっただ中にある商都で人気の庶民的な居酒屋「Quan(クアン)45」訪ねた。

(田玉恵美)


 

ホーチミンの繁華街にある居酒屋「Quan(クアン)45」
/photo:Tadama Emi

3階建ての店は席数およそ250。プラスチック製のイスに陣取った人々が、氷を入れたジョッキでビールをがぶがぶ飲んでいる。壁がないので屋根付きのビアガーデンといった雰囲気だ。エアコンが利いていないので外にいるのと変わらず暑い。ベトナム人は、暑いところで風に吹かれて飲むのが好きなのだともきく。


席に着くのと同時に、シンガポールのタイガービールのびんが卓上に数本置かれた。持ってきた若い女性が着ている青いワンピースには、タイガーのブランドマークが付いている。一歩遅れて、黒いワンピース姿のレ・ティ・キム・グァン(28)が、サッポロビールを運んできた。「ちょっと遅いんじゃないの?」。同行してくれたサッポロベトナムの販売担当、塩見俊介(41)が、笑いながら肩をたたいた。

サッポロのプロモーション・ガール、レ・ティ・キム・グァンさん
/photo:Tadama Emi

彼女たちは店員ではなく、メーカーが店に送り込んでいる「プロモーションガール」だ。店内を回り、客に自分のメーカーのビールを勧めるのが仕事。売った量に応じて、報酬が上乗せされるという。実は私の席に来たグァンは、成績優秀なプロモーションガールで、この日、サッポロから表彰されたばかりだった。


この店では、地元大手のサイゴンビールを含む5社のプロモーションガールが各フロアで7~8人ずつ動き回っていた。サッポロの塩見は、「たとえ他社のビールを飲んでいるお客さんであっても、グラスが空いていたらついであげたり、氷を入れ替えるなど気配りをするように指導している」という。いわば日本流のおもてなし作戦だ。サイゴンビールのシェアを奪おうと、海外ブランドでは一番人気のオランダのハイネケンやサッポロの間で激しい競争が起きている。


飲むたびに「乾杯!」

ジョッキについだビールを次々飲み干す団体客
/photo:Tadama Emi

なにはともあれ、とりあえず「ヨッ(乾杯)!」。現地流に氷を入れてもおいしく飲めるように工夫したというサッポロをぐいっと飲んだ。ふだんはほとんど酒を飲まないので、味など評する能力はないのだが、心なしか日本で口にしたビールよりも苦みが少なくすっきりした味だ。


周囲を見回すと、客が飲んでいるお酒は、ブランドはともかくビールだけだ。びんビールが入った箱を足元に置き、卓上のびんが空になるとすぐ、新しいのを取り出して栓を抜く。冷えてはいないが、氷を入れて飲むから問題ないというわけだ。「僕も最初はかなり抵抗がありましたけど、今では東京に帰っても氷を入れて飲んでしまうんですよ」と塩見はいう。


もうひとくち、と思ってビールを飲もうとすると、「あ、それはダメですよ」と塩見。「ベトナムでは、勝手に一人で飲んじゃいけないんです。ジョッキを持ったら、再度グラスを交わし合うのがマナーです」。いちいちやるのはいささか面倒くさいが、その場の一体感を高めるには効果的かもしれない。隣のテーブルの団体客を見ていると、隣同士でひんぱんにジョッキを交わしているうえに、5分に1回くらいは全員で「ヨッ」とやっている。

ジョッキに入れる氷。かなり大きい
/photo:Tadama Emi

ただ、こうした店では女性客は少ない。女性が酒を飲む習慣はまだそれほど根付いてはいないようだ。まばらにいる女性たちが比較的多く飲んでいるのはお茶らしき色をした飲みものだ。「チャダー」というらしい。私も注文してみた。運んできた店員に「これは何のお茶か」と聞くと、「お茶だ」と言われた。なにを聞いているのかというような表情だ。飲んでみると、薄いジャスミン茶のような味だった。


定番のつまみだという揚げ春巻きにはシソやドクダミなど大量の葉物野菜が添えられていて、これに巻いて食べる。なんだかとても健康的だ。空心菜のにんにく炒めも日本人の口に合う。エアコンがないのはつらいと最初は思ったが、熱い風に吹かれながら飲み食いしていると、なぜか酔いがどんどん抜けていくような気がした。


ビールを5、6本のみ、あれこれとつまんだ客がこの店で支払う金額は1千円弱だという。平均月収が1~2万円の街にしては高いような気がするが、レジャーの種類がまだ少ないこの街では、楽しく飲むことは格好の娯楽なのかもしれない。


来年には世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ社が「バドワイザー」でベトナム市場に本格参入する予定だ。建設中の工場があるのはホーチミン市の隣、ビンズオン省。かつてゴム園と水田が広がっていたという広大な平地は、巨大な工業団地に生まれ変わっていた。ビンズオン省計画投資局長のマイ・フン・ズンは「工業化により、この20年で人口は2倍の180万人になりました。外資企業の立地はまだ増える見込みで、今年も10億ドル分の新規投資計画があります」と話す。2006年に一人あたり2600ドルだった省内の平均年収は、すでに4倍に増えたという。


経済成長に伴ってビールの消費量が増えるという世界的な潮流をみれば、ベトナムの潜在ビール市場は確かに大きそうだと実感した。


(文中敬称略)







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