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米国醸造家協会バート・ワトソン(Bart Watson)さんに聞く








クラフトビールの世界的なブームの発信源である米国では、一日平均、1.2軒ずつ新しいビールの醸造所ができているという。いったいなにが、ここまで人々をビールづくりに駆り立てるのだろう。コロラド州ボールダーにあるクラフトビール醸造所の団体、米国醸造家協会(Brewers Association)のエコノミストのバート・ワトソン(Bart Watson)に話を聞いた。

(鈴木暁子)




――どんな組織ですか。

バート・ワトソンさん
/photo:Suzuki Akiko

全米の2100の醸造所が会員です。私たちが定義する「クラフトビール醸造所」とは、(1)年間醸造量が600万バレル(1バレルは約117リットル)以下の小規模醸造所で、(2)大手企業の株式保有が25%以下の「独立系」であり、(3)サイダーなどではなく、伝統的な製法のいわゆるビールを造っている人たちです。ただ、会員の中には、バドワイザーをつくっているアンハイザー・ブッシュ・インベブなどの大手もおり、議決権をもたない立場で参加しています。


協会では、会員への情報提供、消費者にPRするためのイベントの開催、政治的活動のほか、96年から「ワールド・ビア・カップ」という、全世界の醸造家が集まってビールの腕前を競い合うコンペティションも開いています。94のカテゴリーにビールを分けてジャッジするのですが、参加者は年々増えています。2014年は、58カ国から1403の醸造所が参加しました。日本からは71のエントリーがあり、3つの賞をとりました。

クラフトビールづくりへの関心は高まりつづけていて、私たちも狭い場所では身動きがとれないので、広い事務所に引っ越ししたばかりです。



「禁酒法」以前に迫る


――米国では小規模醸造所がどんどん増えているそうですね。


いま全米で営業している醸造所は2900軒あり、さらに1900軒が開業に向けて準備をしています。一日に1.2軒というスピードで、新しい醸造所が増えている。米国では、禁酒法(1920~1933年)でアルコールの販売製造が禁じられる前には4100軒の醸造所があったのですが、そのころに迫る勢いです


――ブームはいつ始まったのですか。


ブームのおこりは1970年代後半、この時期にふたつの大きな変化がありました。

ひとつが、家庭でのビール醸造(ホームブルーイング)が合法化されたことです。いま、クラフトビール業界のリーダーとしてがんばっている醸造所は、多くの場合、ホームブルーイングから始め、ビールづくりの魅力を知った人たちですから、これは大きな契機だったと思います。ただ、米国では家庭でのビール造りを認めるかどうかを、各州が判断できることになっているため、アラバマ州とミシシッピ州では2013年にやっと州の認可が出て、ホームブルーイングができるようになったばかりです。


もうひとつは、小規模醸造所への酒税額が引き下げられたことです。私たちが年間醸造量600万バレル以下を小規模醸造所と呼んでいるのに対し、国は200万バレル以下を小規模醸造所と定めています。200万バレルを超す醸造所には、1バレル当たり18ドルの税金が最初の6万バレルに課税されるのに対し、小規模醸造所は7ドルで済むという大きな差があります。協会では「小規模醸造所」の定義を、年間醸造量600万バレル以下に変更するよう、国に要望しているところです。


――しかし、これだけ醸造所が増えていると、廃業する人も多いのでは?


70年代に始めた人たちも含めて、醸造所の70%は現在も存続し続けています。ビアパブを運営しているところは、レストランとの競合で商売が厳しくなり、廃業するケースがありますが、クラフトビールの需要が旺盛なため、一般的なレストランなどと比べれば、つぶれにくいというのが現状です。



「地元産」への愛着育む


――いま、米国の人々がビールに熱を上げる背景とは?


米国ではこれまで、ビールといえばラガータイプのものがほとんどでした。そこへ、エールとか、ホップの味がきいたビールや、モルトの風味が強いビールなど、さまざまな風味のビールがあることを、人々が「発見」したからだと思います。店頭でも6本で10~12ドルでおいしいビールが買えるのですから、クラフトビールはAffordable Luxuary(プチ贅沢)ともいえます。


さらに、クラフトビールには「地域支援」という意味が含まれていることも大きいでしょう。そのビールの味が好きだということに加えて、地元のビジネスをサポートしたいという気持ちが人々の中にあるのです。クラフトビールは地域の産物を生かしたものもたくさんあります。例えば西海岸でも東海岸でも、海でとれる「かき」の殻を使ったビールがあります。また、メーン州には特産品のブルーベリーのビールがあり、コロラド州にはスプルース(マツ科の常緑針葉樹:トウヒ)のビールというものもある。その土地ならではの特産品をつかうことは、ビールを差別化し、他との違いをアピールすることにもつながりますからね。ニューヨークでは、ホップなど地元産の原料を使ったビールだけ「ファームブルーイング」と呼べるようにすることを取り決めています。地元産品への愛着を生む、マーケティング的なしかけともいえます。


いまは、自分が食べたり飲んだりする物がどこからくるのか、知りたいと考えている人が多い時代です。新鮮な野菜などを売るファーマーズマーケットもはやっている。こうした動きに、クラフトビールは合っているのでしょう。




海外への輸出も増える


――米国には、バドワイザーやミラー、クアーズなどの巨大ビール会社がありますが、全米のビール醸造量のうち、小規模醸造所がつくるビールの割合はどのくらいですか。


2013年現在で7.8%です。クラフトビールの中で最大手のBoston Beer Companyでも年間醸造量は230万バレルほど。たとえば、バドワイザーのアンハイザーブッシュは米国で9600万バレル、クアーズも5000万バレルですから、大きな差があります。


ただ、一カ所当たりの醸造規模はごくわずかでも、醸造所が次々と増えていることから、醸造量も増えています。私たちはこれまで、2017年に全米醸造量の10%に達するとみていましたが、急ピッチで醸造所が増えていることをふまえて、2020年に20%に達するという見方に改めました。これは前向きなゴールとしての数字です。


――クラフトビールの動きは、大手ビール会社にも影響を与えていると思いますか。


大手企業のビールの消費量はわずかずつ減っています。大手も、味が濃いビールなど様々な種類を打ち出し始めたのは、風味のあるクラフトビールが好まれているためでしょう。また、アンハイザーブッシュは、シカゴのグースアイランド、ニューヨークのブルーポイントという二つの醸造所を買収しています。クアーズも、ブルームーンを作るサンドロット醸造所をもっています。クラフトビールの勢いを取り込みたいという思いはあるのでは。


――これからのクラフトビールについて。ブームは続くのでしょうか。


のびが緩やかになるとしても、まだ需要は続くと考えています。ノースキャロライナ州アッシュビルや、サンディエゴなどでは、有名なクラフトビール醸造所の支店を集めて、町おこしをしようという動きもあります。


最近では、海外への輸出も増えてきました。10年前に14000バレルだった輸出量は、2013年には28万2526バレルと桁違いに増え、この1年だけでも約1.5倍になりました。輸出先の53%はカナダで、15%がスウェーデン、8%が英国、オーストラリアが5%、日本は3%で、韓国と中国が2%ずつです。


ビールに対するイメージは、米国ではかなり変わってきています。一本200ドルもする高級クラフトビールがつくられていますし、食事とクラフトビールをペアリングしたディナーを提供するレストランもある。なにより、若い世代がクラフトビールを飲みたがっているということが、これからの成長を考えたときの強みだと思います。






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