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大学ってなんだ?

オンラインには提供できないリアルキャンパスの魅力

英国の伝統校で考えた





世界での知名度や難易度で英国における双璧をなすオックスフォードとケンブリッジ。その「オックスブリッジ」のキャンパスライフってどんなものなのだろう。学業はたいへんで、だからこそ1学期は英国のほかの大学よりも短い。だが、学生たちは上手に時間をやりくりし、勉強に課外活動にと充実したキャンパスライフを送っている。生活と学びの拠点となるカレッジでは、多彩な課外活動が行われ、大学全体でみても、歴代の英国首相や政治家が多数輩出した弁論部、著名俳優や演出家をうんだ演劇部などの活動はプロ顔負けの真剣さである。







日本にも毎年公演にやってくる「オックスフォード大学演劇協会(OUDS)」は名門だ。「ブリジット・ジョーンズの日記」で二枚目上司を演じたヒュー・グラントや「恋におちたシェイクスピア」でエリザベス女王を演じたジュディー・ディンチら、英国演劇界を彩るスターたちが巣立った。年に数回、舞台コンペティションを主催し、舞台をやってみたい学生たちを人・カネ・ノウハウとあらゆる面で支援する、学内最大のサークルの連合体のような組織だ。


ケイティ・エブナー=ランディー
/photo:Goto Eri

ここの代表を務める英語専攻の3年生、ケイティ・エブナー=ランディー(20)は全身からエネルギーを発する元気いっぱいの女性。1年生のとき、親友と2人で新入生向けの舞台コンペに参加して入賞したのが演劇との出会い。OUDSでは俳優、演出家、プロデューサーといくつもの顔を持つ。


オックスフォードでは、街のスタジオやカレッジのホールなど、さまざまな場所で1学期に最大80もの舞台がかかるという。一つの舞台をつくるのに俳優、脚本、演出、照明、音楽、衣装、大道具など多彩な役割が必要だ。OUDSはオンラインのニュースレターで必要な人材を公募したり、資金集めを手伝ったりする。「オックスフォードにはいろんな特技を持った人たちがいるから、必ずいい人材が見つかるの」とケイティーは言う。



彼女の1日は実に濃密だ。1日を朝、昼、夜と3分割し、朝はOUDSの仕事、昼は図書館にこもって勉強、夜は友だちの舞台を見たり、パーティーに出たりといった社交活動にあてる。深夜に家に帰り、メールの返信をしたり、担当する舞台の編集をしたりして毎晩寝るのは3時過ぎだ。1学期が終わり、ロンドンの実家に帰ると1週間は泥のように眠る。それでも、「忙しいのは学生の本分。プレッシャーも大きいけど、周囲にそれをこなす優秀な人たちがそろっていて、他大学ではできない体験ができる。多彩な人たちとの出会いが大学にきて最大の収穫」だという。


            




シャーロット・プラウドマン
/photo:Goto Eri





ケンブリッジ大学の博士課程に在籍するシャーロット・プラウドマン(25)は名門キングス・カレッジで政治社会学を専攻する。研究のかたわら、労働党の政策アドバイザーの仕事もしている。


キール大学の学部生の頃から社会問題への関心が高く、弁護士になろうとロンドンのロースクールに進んだ。卒業後、英国に多く住むパキスタン移民コミュニティーの慣習である「強制結婚」の問題に着目。家長が娘を祖国の親類や同郷の男性と結婚させる慣習に驚き、「同時代に生きる女性たちが自由や人権を奪われた境遇にあることが許せなかった」。パキスタン人権委員会の調査員として2カ月間の現地調査を行い、法的な問題や現地調査の結果をまとめて出版した。ちょうどそのころ、英国政府が強制結婚の防止に国として取り組み始めたことから、専門家として注目を集めた。その後、ケンブリッジの大学院で修士をとり、弁護士として2年の実務経験を積んで、昨秋から博士課程に進んだ。


たいへんな努力家だ。4歳で父親を亡くし、女手一つで育てられた。16歳から21歳まで、家計を助けるため、週に3日は近所のスーパーで働いた。勉強はアルバイトのない木曜と金曜に各8時間、日曜に11時間、集中して勉強した。大学では社会学で学年トップの成績を収めた。ちなみに、現在の大学院の学費はすべて奨学金でまかなわれている。


シャーロットにとって、ケンブリッジの大きな魅力の一つは人脈だという。「どんな分野にもケンブリッジ関係者のコミュニティーがあり、お互いを知っている」。みな優秀で、野心家だという共通項がある、とも。「政治家でも起業家でも、成功するには周りに誰がいるかが大事です」。シャーロット自身、研究だけにとどまらず、政党関係者や研究者とのネットワークづくりの努力は惜しまない。キャンパスではつねにセミナーや講演会が開かれ、世界中から一流の講演者がやってくる。手を伸ばせばすぐにロールモデルと出会えることが、リーダーシップの形成に一役買っている。「あなたが社会に問題提起するために、たとえばビル・クリントンを呼んで講演会を企画したいと思えば、大学やカレッジは支援を惜しまないでしょう。彼らは学生たちの成功を望んでいる。ここでは最初から不可能なことなどないのです」


たとえば昨年11月、シャーロットが所属するカレッジで招待講演をしたトニー・ブレア政権の参謀、アラスター・キャンベル氏に会場でインタビューを申し込んだ。自身の回顧録を出したばかりでメディアの注目を集めていたキャンベル氏はインタビューを快諾。ロンドンまでのハイヤーの中でじっくり話を聞き、カレッジのマガジンに発表した。

http://kingsreview.co.uk/magazine/blog/2013/11/27/who-is-the-real-alastair-campbell/


大学のネットワークは就職の際には強力な武器になる。大学の就職センターが提供する卒業生名簿は各分野のトッププレーヤーで埋まる。本人の了承があれば、直接、彼らにコンタクトできる。卒業生リストには現職の外務大臣もいるという。


シャーロットはいま、政治家をめざしている。どんな経験がきっかけで、今につながる問題意識を持つにいたったのか、シャーロットに聞いてみた。「最初の覚醒は16歳の夏。高校の先生から世界の現実を知りなさいと言われて、インドの孤児院で英語を教えるボランティアをした経験が大きかった」。社会を変える「エリート」の養成は、十代から始まっていた。


(後藤絵里)

(文中敬称略)






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