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大学ってなんだ?

「ムークが広がれば、他の教員は助手になってしまう」

懸念示す先生たちも



コミュニティーカレッジでのムーク導入に警戒感を強めるマスベイ教員労働組合委員長のチャンドラ・パンセ/photo:Kanari Ryuichi

マスベイの「実験」に懸念を深める教員もいた。マスベイ教員労働組合委員長のチャンドラ・パンセだ。大学では、生物学の教授でもある。


校舎の隅っこ、非常階段の横に組合オフィスがあった。ドアには「ユニオン・オフィス。部外秘、常に施錠を」との張り紙がある。


パンセは温厚な人物だが、ムークの話になると前のめりになり話し始めた。


オンライン教育については、「従来の仕組みで教育機会を得られなかった人々には素晴らしい存在だ。高等教育を受ける機会を多くの人に提供しているのだから」と前置きした上で、懸念について話し始めた。


概略はこうだ。


今回の実験では、マスベイの学生たちは、マスベイの単位と、MITの修了証の両方を獲得した。前者は正規の単位で学位取得につながるが、後者は学位とは無関係だ。


それでも、就職市場は後者を重視するようになるだろう。小さなコミュニティー・カレッジの名前は州外の人は知らないが、MITなら世界中で通用する。就職活動では、MITの修了証の方がマスベイの単位よりも重要視される。


そうなれば、学生は「マスベイの単位よりも、MIT教授の修了証を確実に取れるような授業をして欲しい」とマスベイに求めるようになる。この要求は次第に大きくなり、大学当局が所属教員に「授業内容をMITのムークに合わせ、学生が修了証を確実に獲得できるようにして下さい」と求める。


その結果、何をどのように教えるのかを決めることは、マスベイの教員にはできなくなる。我々のアカデミック・フリーダム(教授の自由)は失われてしまう。小さな大学の教授たちは、著名大学のムークを教えるためのチューター(助手)のような存在になってしまうだろう。小さな大学には、博士号を取得した教授はもう必要なくなる。講座そのものは著名大学のスター教授がムークで教えてくれるのだから。


パンセの懸念は「アカデミック・フリーダム」だけではないという。こう続けた。


「ムークの活用が広がることが、本当に社会全般の利益につながるのか。物事の見方には多様性が極めて重要だ。1人の教授が数万人に教えてしまって、教育の多様性は維持できるのだろうか。学生たちは、複数の教員の異なる見方に触れる方が良いのではないだろうか。ムークは、学生の視点を狭める方向に働いてしまう恐れがある。もっと社会全般にとっての意味について考える必要があるはずだ」


(金成隆一)

(文中敬称略)



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