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2017年3月5日号特集「国境を越える電力」



取材の発端は約3年前、エチオピアでたまたま目にした巨大な風車群だった。


牛が草をはみ、子供がバケツに水をくむ片田舎には場違いな光景だったが、同行の現地ガイドは、風力や水力といった自然エネルギーを「周辺国に売って稼ぐんだ」と誇らしげに言った。電力って輸出できるんだ、と新鮮な驚きだった。


1年半後、今度はラオスで似た話を聞いた。気になって調べてみると、ブータンやパラグアイといった内陸国でも「電力輸出立国」とも呼ぶべき現象が起きていた。欧州に目を向けると、送電線が大陸や北海を縦横に走り、電力を売り買いする市場があって日常的に輸出入されている。統計をみると、世界では100カ国以上に輸入や輸入の実績があった。


日本では、原発や再生可能エネルギーの割合をどうするか、という電源構成が議論されていた。私は最初は首相官邸で、その後は経済産業省の担当として見ていたが、輸入なんて議論の端にも上らない。島国・日本には無縁の話かと思っていたら、しばらくして日中韓ロを送電線で結ぶ調査が始まる、というニュースが飛び込んできた。中国は世界的な電力網の連結を呼びかけ、ロシアもずっとサハリンからの輸出に意欲を示している。


電力網をめぐっていったい何が起きているのだろう。GLOBEの特集案に決まり、昨秋から取材準備を始めた。


すぐにぶつかったのが、技術の壁だった。電力はデジタル化された市場で売買されるのに、実際には電圧が低い方に勝手に流れてしまうアナログな一面も持っていた。今だから明かすと、その二面性が理解できるようになるまで、しばらく専門家の話がピンとこない状態だった。


その壁の奥がちょっとのぞけるようになったきっかけは、専門家の一人がシンポジウムで語った「かつて直流は脚注的な技術だった」との昔話だった。


1世紀以上前、交流との「電流戦争」とまで呼ばれた激しい規格争いに敗れた「直流」。それが技術の進歩と時代のニーズで大復活を果たし、気質の違う王者、「交流」と手を携えて役割分担をする「歴史的共存」の時代を迎えた――。


そんな大河ドラマのような人間くさい興亡の歴史を知ると、技術が身近に思えてがぜん関心が湧いた。技術が頭に入ってくると、北海を行き交う海底送電線や、ドイツから周辺国に電力があふれ出る「ループフロー」、中国が先頭を走るウルトラ・ハイ・ボルテージ(UHV)といった、世界で起きている出来事の意味合いが分かるようになってきた。


実際に送電線をたどろうと、年末からリトアニア、ノルウェー、デンマーク、ドイツ、ラオスへと向かった。話の舞台も、海底からシルクロード、外交や安全保障、サイバー空間、果ては宇宙まで、想像を超えてどんどん広がっていった。


電力網は社会のインフラを支える縁の下の力持ちで、普段はなかなかニュースになりにくい。だが、知れば知るほど奥深く、その動きもダイナミックだ。この特集の取材で見えてきた姿も、後から振り返ればまだ途中経過の一場面に過ぎないのかもしれない。送電線がこの先、どこに向かっていくのか楽しみでならない。



村山祐介(むらやま・ゆうすけ) 

1971年生まれ。ドバイ支局長、経済産業省担当などを経てGLOBE記者。電気の現場は、雪の山中や氷点下の海原、山奥の大河など険しい自然ばかり。電気の安定供給を担う人たちの苦労に頭が下がった。




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