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葬送 - 世界のお墓で考える

[Part2]「進化形」の先にあるもの

イエーテボリ市内の共同墓地には最近、故人の名を刻んだプレートが掲げられるようになった photo : Talahashi Misako

第2の都市イエーテボリの墓地の一角。若い女性がうずくまり、袋の中から小物を出しては地面に並べていた。火をともしたキャンドルに水仙の花、ハート形の置物。何をしているのか尋ねると、


「息子が死んでしまった」


と潤んだ目で顔を上げた。25歳の彼女は妊娠末期に街で暴行に遭い、早産した赤ちゃんを生後7日で亡くした。その遺灰がこのミンネスルンドに埋葬され、供え物を持参したのだった。目の周りにまだアザが残る母親は短いやりとりの最後、悲しみを吹っ切るように言った。


「お墓に入れられて本当に良かった。ほかの家族も安心している」


ただ匿名墓地では、遺族は埋葬に立ち会えず、遺灰を埋めた場所も教えてもらえない。目印がないから、参拝者は拝んだり話しかけたりする動作に入りにくい。遺影や花などを置く追悼空間はあるものの、壊れた写真立てや枯れた花が放置されたままになっていた。


ここ数年で人気が出ているのが、故人名を刻んだプレートを掲げられる共同墓だ。遺灰が埋められた場所にプレートを置くことや、遺族の立ち会い、夫婦単位での埋葬にも応じてくれる墓地が出てきた。


ミンネスルンドに対する「故人との接点や関係性を確認できるシンボルが何もない」という国民からの不満を解決する方法として注目されている。イエーテボリ市内35カ所の公共墓地を統括するカタリーナ・エーベンシス(54)も歓迎している。「市民からの要望がある以上、それに合った形で広めていく。埋葬に関する法律の中で、きちんと位置づけられるよう働きかけたい」


人々はどう考えているのだろう。

元公務員のビッビ・ラング(69)は「私が若いころはミンネスルンドは確かに人気だった。墓の管理が必要ないから。でも最近は友人の子どもが『墓参りをしたい』と言い出し、いろんな考え方が出ていると思う」と語る。昨年11月、最愛の夫が75歳で他界した。「亡くなって4カ月を過ぎたころから、すぐに涙が出るようになった」


夫は長く認知症を患い、埋葬地の希望は聞けなかった。出身地の墓は300キロも離れている。結局イエーテボリのビッビの実家の墓へ。彼女もいずれ同じ墓に入るが、跡継ぎはいない。生前に管理費を納めても最長25年間で埋葬権は消え、更地になる。「夫は元妻との間に息子が1人いて再婚、私は初婚で子どもができなかった。こちらは家族関係が複雑なケースが多く、そのことも生前に意思表明するミンネスルンドが浸透した一因だと思う」


取材を通して、スウェーデン人も墓や埋葬のあり方に迷い、悩んでいること、そして問題に向き合いながら柔軟な発想で解決しようとしていることがわかった。世界の至るところで、誰もが大切な人の死を経験し、自分なりの弔い方を探りながら生きている。


帰国する飛行機のなかで、春のお彼岸がとっくに過ぎてしまったことに気づいた。親の墓にも行かずに、見ず知らずの、しかも海外の墓ばかり訪ね歩いたことを思い起こし、一人、苦笑した。そういえば私は仕事の失敗談や滑稽な出来事を晩年の父によく打ち明けた。父はいつも耳を傾けてくれた。


ふと思った。この旅の最中に何度も父を思い出し、出会った人に父の話をした。そんな時、そばに父がいるように感じられた。


いずれは父たちが眠る墓をどうするかの判断を迫られるのだろう。だが、今焦って決めなくてもいいのではないか。墓参り、してもしなくても構わない。世界の葬送の多様性に触れ、死者の偲び方の正解は一つでないと知ることができたのが最大の収穫だった。


(本編おわり、文中敬称略)


担当した記者

高橋美佐子(たかはし・みさこ) 文化くらし報道部記者。1968年生まれ。92年に朝日新聞入社後、主に生活面を担当。「排泄と尊厳」「老いと性」などタブー視されやすいが、人間の根幹にかかわるテーマに迫るのが好き。


「世界の火葬事情」に続く) ※5月10日公開予定です。




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