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葬送 - 世界のお墓で考える

[Part1]韓国、葬儀で今起きていること

先祖の墓をどうすればいいか。自分はどう送ってもらうか。誰もがいつかは直面する葬送。少子高齢化が進むなか、不安が募る問題だ。少子化の速度では日本を上回る隣国・韓国では、弔いも急速に変容している。昨夏父を看取った記者が取材した。



2012年に完成したソウルの火葬場。遺体は無人の台車で火葬炉に運ばれる photo : Takahashi Misako

ただ、マレーシアで見たさまざまな弔いのかたちは、今の自分にはあまり響かなかった。父は特定の宗教を持たなかったし、私を含むきょうだいに子どもがいないからだ。昨夏、都内の斎場で営んだ葬式に参列したのは20人足らず。さらに、日本の葬祭儀礼はどんどん簡略化されている。


韓国を訪れたのは、日本を上回るスピードで少子高齢化が進む社会の変わりようを知りたかったからだ。


ソウル中心部から車で南へ1時間ほどの安城市。赤いカーペットが敷かれた屋外の階段を上って扉を開けると、ホテルのロビーのような空間が広がっていた。来訪者が受付のコンピューターに故人や自分の名前を入力すると、安置場所が表示される。


この「ユートピア追慕館」は国内最大級の納骨施設だ。2階の「キリスト教専用特別室」は、天井付近の壁がダ・ビンチの「最後の晩餐」の模写で覆われ、その下に並ぶ小棚に骨つぼや遺影、思い出の品々が飾られている。ほかにも仏教徒向けの部屋などがあるほか、公園として整備された野外での樹木葬を選ぶこともできる。


オープンは03年。「国民の大半がまだ骨を預けるなんて考えもしなかったころ、欧州の納骨堂を参考に、家族で憩える空間をホテルのようなコンセプトで作った」と広報担当者。その後、実業家や文化人、日本にもファンを持つ芸能人たちがここを選んだ。


韓国の合計特殊出生率は16年が1.17で、OECD加盟国の中で最低。高齢化速度は世界トップ水準だ。葬送スタイルも激変した。それを端的に示しているのが「火葬率」の急上昇だろう。


韓国では1990年代初めまで、土葬が8割を占めていたが、その後、国土の狭さや都市部への人口集中による埋葬場所不足が深刻化。2000年ごろから政府や市民団体が本格的に火葬を推進し、05年に火葬が50%を突破した。16年は82.7%。20年には9割を超す見込みだ。


火葬が普及すると、今度は火葬場が足りなくなった。ソウル市が12年1月に完成させた「ソウル追慕公園」は計画段階で住民の反対に遭い、稼働までに14年を要した。住民との協議を繰り返した結果、大気を汚さず、周囲の地形の起伏を利用してどの角度からも見えない構造にした。いまでは高く評価されているという。


火葬化は、人が死を迎える場所にも変化をもたらした。韓国保健福祉省によると、99年に病院で亡くなった人は3割ほどだったが、2016年は75%と大幅に増えた。理由は、都市部の病院経営者たちが同じ敷地内に葬儀会館を作るようになり、利便性が増したことだという。日本では「在宅死」が推進され、世界でも「どこで終末期を迎えるか」は関心事だけに興味深い。


20年余でここまで劇的に変化してきた韓国の葬祭儀礼。弔いのかたちは固定されたものではなく、その時々の社会や経済の情勢を映して、人々の意識も含めて変わってゆくということを示す。やはり猛スピードで少子高齢化が進む台湾の台北市は12年から行政主催の合同葬を始め、利用者が増えている。それまで「宗族」と呼ばれる父系血縁集団の支え合いで成り立ってきた葬儀が、核家族化や単身者の急増で立ちゆかなくなったためだ。


韓国政府は08年、納骨堂の乱立による自然破壊を防ぐため、芝生や草花の下に遺灰を埋めたり周辺にまいたりする「自然葬」の推進を法律に盛り込んだ。墓石を建てない樹木葬墓地などの整備も始まっている。自然葬の普及のために13年に設立された財団法人「韓国葬礼文化振興院」の理事長の李鐘尹(72)が言う。


「火葬化はもっとスピードアップできる。私自身も火葬を希望し、子どもに迷惑をかけるつもりはない。大事な人の遺灰は、自分の心に埋めればいい」


(高橋美佐子)


(文中敬称略)


「スウェーデンの葬儀、「進化形」の先にあるもの」に続く) ※5月9日公開予定です。

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