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政治のことは嫌いでも、民主主義は嫌いにならないでください

[Part1]民主主義って、なんだっけ?




私たちが「最善」と信じてきた民主主義。しかし、世界各地で今、その信頼が揺らぎ始めているように見える。民主主義は政治体制の「センター」でいられるか。アイドル好きの記者が考えた。



旅の終わりに私は、ドイツのボン大学教授、マルクス・ガブリエル(37)を訪ねた。ドイツ史上、最も若くして大学の哲学科教授に就いた天才肌の俊英は、今の民主主義の姿をどう見ているのか。


「パソコンにたとえると本質をとらえやすい。民主主義は『情報処理の一つのスタイル』であり、その最大の価値の一つが『処理スピードの遅さ』なのです」


え、パソコン? 情報処理?


虚実ない交ぜの膨大な情報が、インターネットを介して世界中を飛び交い、予測不能なきっかけで拡散する現代社会。「今こそ、すぐに対応するのを避け、逆にゆっくり考えたり、異なる視点から情報を処理したりする環境を整える民主主義が重要だ」


一方で、民主主義に欠かせない選挙は、多数派と少数派を生み出すツールになってしまったと言う。


では、どうしたらいいのか?


そこで彼は、ドイツの偉大な先人、哲学者カントの「定言命法」を引用して、こう訴える。「民主主義における多数派は常に少数派になる可能性がある。だから、多数派は自分の利益だけを考えず、自分がまるで少数派であるかのように振る舞うことを、常に忘れてはいけない」

そして、こう警告した。「民主主義とは真実の政治を得る唯一の方法だと信じています。それを諦めたら、うそやプロパガンダだらけの政治になってしまう。そんな国家は自己破壊する」


自己破壊……。民主主義とはなんと危ういものか。源流となった古代ギリシャから約2400年も経つのに。


「不完全で当然。民主主義はものすごく若い、50歳そこそこですから」

え、50歳? 私とそんなに変わらないの?


彼に言わせれば、奴隷や女性が排除されていた古代ギリシャの民主主義は、一握りの人々のために機能したに過ぎない。「民主主義が著しい進歩を遂げて、性別や社会階層などを超えて機能するようになったのは、50年ほど前から。共産主義よりも新しく、他の国家体制に比べたら『赤ん坊』も同然なのです」


日本発の携帯ゲーム機「たまごっち」を例に、彼はこう締めくくった。「大事なのは辛抱強く、優しく見守ること。まだ純粋な赤ん坊が大きく成長するまで」


旅を終えた私は、7年前にテレビで見たAKB総選挙の一場面を思い出していた。かつての「推しメン」前田敦子が、大島優子を抑えて1位に返り咲いた時、涙ながらにファンに訴えた、あの名ゼリフを。


「ひとつだけお願いがあります。私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」


おじさん、ちょっと古くありませんか、と言われそうだが、私は今あえて叫びたい。「政治のことは嫌いでも、民主主義は嫌いにならないでください」と。


多数派はおごってはいけない。そして、どんなに少数派であっても、諦めたらそこで試合終了だ。参加することに意義がある。やはり、選挙は行こう。そして、今年は挑戦してみよう、AKB総選挙にも。


(文中敬称略)


取材にあたった記者

玉川透(たまかわ・とおる) 1971年生まれ。2009年4月から12年9月までウィーン支局長。14年4月から16年7月までベルリン支局長。


イラストレーション

中村隆(なかむら・たかし) 1976年生まれ。新潟県胎内市出身。日本デザイン専門学校卒。フリーのイラストレーター。


(終わり)

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