RSS

政治のことは嫌いでも、民主主義は嫌いにならないでください

[Part1]「最悪の体制」 ドイツ女性の教訓




私たちが「最善」と信じてきた民主主義。しかし、世界各地で今、その信頼が揺らぎ始めているように見える。民主主義は政治体制の「センター」でいられるか。アイドル好きの記者が考えた。



とかく民主主義は、手間と時間がかかる。そんな「面倒くさい」政治よりも、「強力な指導者」に一発解決を願おう。そんな雰囲気が広がっているように見える。


豪メルボルン大学講師のロベルト・ステファン・フォア(35)らが一昨年発表した論文が世界的に話題になった。各国研究機関が実施する「世界価値観調査」(1995~2014年)などを分析したところ、北米や西欧の成熟した民主主義国で、民主主義よりも「軍の統治が良い」「議会や選挙を顧みない強い指導者が望ましい」と考える人が増えているというのだ。


「政治家や政党が自分とかけ離れた存在になったと感じ、投票への意欲をなくしている。民主主義への反感を通り越し、失望している」と、フォア。


そして、彼によれば、日本も例外ではない。95年の世界価値観調査で「軍の統治」支持は2.5%だったのに対し、米調査機関ピュー・リサーチ・センターが昨年行った同様の調査では15%に上った。


関東のいくつかの大学でブラジル政治を教える、神田外語大講師の舛方周一郎(35)は、その傾向を肌で感じている一人だ。最近、ブラジルの軍事政権期に関する講義後、学生から提出される感想に違和感を抱くようになったという。「軍政が良いという学生は、5年前ならクラスに1人か2人だった。ところが今は、どちらかといえばも含めると、半数近くになってきた」


ブラジルでは、64年の軍事クーデターから85年の民政移管まで軍部が政治の中枢を握った。70年代前半までに「ブラジルの奇跡」と呼ばれる高度経済成長を実現。軍部が資源開発など重要な国家主導型プログラムを推進し、治安を安定させたことで海外企業の進出や融資を呼び込んだといわれる。しかし、軍政下では、反対派への拷問で多くの死者が出た。市民は集会を禁じられ、表現の自由も制限された。


当時の軍政を「軍事独裁」と呼ぶかは議論があるが、私の知る民主主義とはほど遠い。


舛方は言う。「治安が良くなり、経済成長をもたらすなら、関与する人を絞って物事を決めてもらう方が良い。学生たちは、そう考えてしまうようです」

最初に話を聞いた3年生の女子学生も「軍政が良い」と言っていた。「絶対的な指導者がいて、正しい道を分かっているのなら、その人に任せた方がいい」


試しに、「独裁」「いいね」などのキーワードでネット検索してみると、「ライト(軽い)独裁ならいい」「民主主義=善は思い込み」といった意見が結構多い。世界を見渡せば、最近は選挙を経ずに権力を握る独裁や軍政だけでなく、形だけ民主的に選ばれたように装う強権的な指導者も目につく。でも、本当に彼らに任せていいのか?


2月下旬、ドイツ・ベルリンに、ある女性を訪ねた。


サスキア・フォン・ブロックドルフ(80)は、ナチス独裁政権下の1937年、学生の父と秘書の母のもとに生まれた。ナチスの旗がはためく通りを制服姿の男たちが行き交う様子を思い出す。ヒトラーが選挙で権力の座に就いたことは知っていたが、民主主義とは何かは知らなかった。「それだけヒトラーが神格化され、権力が完全なものだった」


39年、第2次世界大戦が勃発。今思い返せば、大人たちが熱に浮かされているようだった。「(第1次大戦前の)帝政時代を懐かしんでいた祖父でさえ、戦況を伝えるラジオにかじりついていた」


だが、まもなく父は戦地へ。母は入院先の病院で死んだと聞かされる。実は両親がナチス抵抗運動に関わり、母はナチスに殺されたと知ったのは戦後になってからだった。生還した父は、つらい思い出から逃れるように娘を遠ざけ、一緒に暮らすことはなかった。


初めての選挙は終戦後、旧東独の共産主義政権下だった。「最初から結果は決まっていた。候補者は1人。監視され、反対すれば職を失うと分かっていた」


旧東独の大学に通っていた時、南米ペルーからの留学生と恋に落ちる。息子も授かり、70年に家族3人でペルーに移住。しかし、ここでも民主的な選挙とは縁がなかった。当時ペルーは軍事政権だった。「でもナチスや東独よりはマシだったと思う。たくさん新聞があって、いろんな意見が書いてあった」


民主的な選挙を知ったのは、73年に旧西独に移住した後だった。


今、NGO団体「時の証人の会」(約140人登録)で体験を伝えている彼女は、若者たちに諭す。「『最悪の国家体制』でずっと過ごしてきた経験から言えることは、どんなに優秀な指導者も必ず間違いを起こす。そして、国家が個人をコントロールするのに『少し』はありえない。いったん始まれば際限がなくなる」


「時の証人の会」会長のハンス・ディーター・ロベル(70)は、こう語る。「ナチスは即座に物事を決めて、一時的に経済は発展した。でも、最後は国の全てを破壊してしまった。少しぐらい時間がかかっても、民主主義の方がしあわせということなんですよ」


(文中敬称略)


(「民主主義って、なんだっけ?」に続く) ※4月4日公開予定です。


この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示