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政治のことは嫌いでも、民主主義は嫌いにならないでください

[Part2]ヒントはAKB48?


ヒントを与えてくれそうな「選挙」を見つけた。アイドルグループ「AKB48」が、2009年から毎年開催している人気イベント「AKB48選抜総選挙」だ。


初期のCDならかなりの枚数を持つ私も投票に心がうずいたが、妻の冷ややかな視線を受けて踏みとどまった。一時のブームで終わるだろう。そう自分を納得させた。ところが、集計結果が公表された第2回(10年)で37万7786票だった投票総数はほぼ毎回のように伸びて、昨夏の第9回は338万2368票に達した。


AKB総選挙は、購入した投票権付きCDの枚数などに応じて1人で何度でも投票できるから、単純比較はできないが、規模だけなら大阪府知事選をしのぐ。「推しメン」(お気に入りのメンバー)のためにCDを段ボール箱で買い込む熱心なファンもいるという。


その情熱はどこから来るのか。AKB総選挙を授業に採り入れたこともある新潟県立大学教授(比較政治学)の浅羽祐樹(42)はこう説く。「政治的有効性感覚がビンビン刺激される巧みな仕組みだからです」


政治的有効性感覚? 浅羽によれば、自分の1票で物事を左右できるかもしれないという感覚だ。選挙に行って「報われた」と思える実感、とでもいえようか。


AKB総選挙は元々、新たに発売されるシングル曲を歌う16人の選抜メンバーを決めるファン投票だが、「当落ライン」はファンによって様々だ。自分の推しメンが「神7」と呼ばれる7位以内に入れるか。たとえ選抜メンバーがダメでも、カップリング曲を歌えるアンダーガールズ(17~32位)に。せめて、前回より一つでも順位を上げてあげたい……。


浅羽は言う。「たとえば、投票権付きのCD1枚が1千円程度とすれば、200万円分で2千票。数千万円は無理だけど、今ある貯金を全て投入すれば、その後の生活は破綻(はたん)しても、自分の力であの娘の順位を押し上げられるかもしれない。そんなモチベーションを刺激する、運営側に好都合なシステムです」


好都合というか、怖い……。貯金を使い果たし、妻に愛想尽かされた自分を想像して背筋が凍った。でも、政治的有効性感覚という考え方には、ビビッときた。実際の選挙でも、それなりに「報われた」と感じられれば、少数派も選挙に行こうと思うのではないか?

世界を見回すと、ある国に目がとまった。オランダだ。多文化共生を掲げてきたこの国では、下院選挙(定数150)で1917年から徹底した比例代表制をとってきた。現行制度では、有効投票数の0.67%を取得すれば、議席を獲得できる。単純小選挙区制の英国や、比例代表制でも得票率5%の壁があるドイツに比べると、国政へのハードルが低い。つまり、それだけ少数派の票が議席に反映されやすいというわけだ。


昨年3月の下院選には28政党が名乗りを上げ、過去45年で最多の13政党が議席を得た。その中でも着実に支持を伸ばしたのが、いわゆる「ミニ政党」だった。その一つ、年金受給者の生活向上を掲げる「50PLUS」(党員約6千人)は、32万7千票余を集め、改選前から倍増の4議席とした。


2月下旬、政治の中心都市ハーグの国会議員会館で、党首のヘンク・クロール(67)に尋ねた。ミニ政党の役割って、何でしょうか?


「なんと言っても、支持者との距離の近さ。多数が関わる大政党では、支持者が本当に望むことが途中で変えられたり、弱められたりしてしまうことが多い」


でも、「数は力」ともいう。たった数議席しか持っていなければ、結局、大政党に押し切られるのでは?


「小党でもやり方次第で影響力を発揮できる」とクロール。彼によれば、同党は4年前から、50歳以上の再就職を後押しするために「アンバサダー」を任命し、高齢失業者にアドバイスしたり、企業に働きかけたりする活動を提唱してきた。ミニ政党単独では相手にされなかったが、当時の連立与党側の議員が「アイデアを譲ってほしい」と持ちかけてきたという。結局、連立与党側の提案として16年に実現させた。


「名誉は譲ったけど、我々の支持者は主張が日の目を見たことに満足したはずだ」と、クロールは言う。


だが、徹底した比例代表制は「欠点」もある。小党乱立による政治の不安定化だ。昨春の下院選後、22%の議席しかない第1党を中心とする4党連立政権が発足するのに、同国史上最長の225日を要した。


徹底した比例代表制で誕生した50PLUSは皮肉にも、議席確保に得票率3%の「壁」を設けるべきだと主張する。党首のクロールは言う。「かけらのような小党があまりに多くても困る。政治が分断しすぎるのはよくない」


(文中敬称略)


(「ロナウジーニョの故郷で考える」に続く) ※4月2日公開予定です。



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