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豊かさのニューノーマル(紙面)

[Part2]世界最先端の都市を見たければ、深圳だ



テンセントの新社屋 photo : Masumitsu Yuichiro





中国のシリコンバレーと呼ばれる深圳。ここを訪れると、「先進国の都市の方が進んでいる」という常識は、根底から覆される。



10月のある日、超高層ビルが立ち並ぶ深圳中心部。語学学校「加華」校長の呉丹(33)は自分のスマホだけを持って、近くの中華料理店を訪れた。店員は呉を空席に案内するが、メニューは持ってこない。


呉は自分のスマホでテーブル上に貼られたQRコードを読み取り、スマホの画面に表示された料理の中から、スズキの煮物とチャーハンを注文。支払いはスマホで済ませる。食べ終わったら、店員を呼ぶこともなく、そのまま店を出た。


IT化が急速に進む深圳では、若者を中心に外出時に現金を持ち歩かないライフスタイルが広がりつつある。呉もその一人。呉は1年半ほど前から、中国版LINE「微信(ウィーチャット)」の決済機能などを使い、食事代や日用品の買い物に毎月5000元(約8万5000円)を払う。微信と自分の銀行口座がつながっているため、買い物をすると口座から瞬時に引き落とされる仕組みだ。「現金を持ち歩いた時代にはもう戻れない」


大人だけではない。深圳の小学5年生、張依然(10)は、GPS付きの腕時計をはめている。「安全対策」として、親が娘の居どころをすぐに把握できるようにするためだ。「50人のクラスメートのうち、はめていないのは1、2人ぐらいかな」


ノートなどの文房具は米アップルの「iPad」で自分で買っている。まだあどけない表情の張は「将来は現金がなくなるかもしれない」と言う。これが「深圳っ子」が描く未来だ。


スマホ決済の定着を想定、無人コンビニ登場


深圳に本社がある小売企業「天虹商場」は今年8月、スマホ決済の定着を想定し、店員がいない無人コンビニ「Well GO」の実験店を市内に開店した。商品には、金額や品番を識別するタグが付けられている。お客が買いたい商品を「レジ」に置くと、金額を自動的に集計。スマホでQRコードを読み取って決済する。


同社はスマホすら不要の「手ぶら買い物」も検討している。カギを握るのが、入店客の顔の特徴から、本人を特定する認証技術の活用だ。お客が商品を店外に持ち出すときに自動課金されるので、支払い機を使わない。無人コンビニは各地で導入が始まり、競争激化が確実だが、コンビニ部門責任者の朱艶霞(46)は自信をみせる。「深圳には、独創的なIT企業がたくさんある。技術改良を進めるのに有利な条件がそろっている」


深圳は1980年に中国初の経済特区に指定されるまで、香港の影に隠れた、人口わずか3万の漁村だった。それが1000万超の大都市に発展した原動力は92年、最高実力者の鄧小平が深圳を訪れ、改革開放の加速を命じた「南巡講話」だ。


安い人件費に目をつけた台湾や日本、香港などからの投資の受け皿となり、電化製品を中心とする世界有数の製造業の集積地に成長した。ファンドからお金を呼び込む環境も整い、ドローンのDJI、9億人のユーザーがいる微信を運営する騰訊(テンセント)など世界企業が輩出した。億万長者を夢見る優秀な人たちが、中国各地から集まってくる。


深圳郊外には、農村から職を求めて出てきた人々向けの、簡易宿泊施設が集まる地域もある。不衛生で犯罪も少なくなく、きらびやかな部分だけではない。


20・30歳代が全体の約3分の2占める


ただ、起業家からスマホ製造などの工場労働者まで、共通するのは若さだ。


人口は20歳代と30歳代が全体の約3分の2を占め、若者のライフスタイルが一気に広がる土壌となった。


不動産や物価の高騰に直面する市民からは「生活は楽ではない」と悲鳴もあがる。それでも減速する中国経済の中で、技術革新を生み出す「エンジン」として、中国政府の期待は高まるばかりだ。


深圳大学の訪問研究員としてベンチャー企業の研究を続ける東京大学准教授の伊藤亜聖(33)は深圳を「加速都市」と呼ぶ。「深圳だけ時の流れが速い」。日本の高度経済成長期を上回る速度で変化を続ける中国経済の最先端が、ここにある。


(益満雄一郎)


(文中敬称略)


「成長の波に乗ろうとする若者が目指すフロンティアは?」に続く)



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