RSS

豊かさのニューノーマル

[Part1]小学生もキャッシュレス。深圳で進む現実

30数年前には人口わずか3万人ほどだった寒村、中国南部の深圳。急速な経済発展を遂げ、今や1000万人を超える大都会に変わり、「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでになりました。一攫千金を夢見る若者が世界中から集まり、新しいライフスタイルやビジネスを次々に創り出しています。深圳の「豊かさのニューノーマル」、現地からお伝えします。(朝日新聞広州支局長兼香港支局長 益満雄一郎)




ここは中国なんだろうか? 深圳にいると、よく自問する。

GPS付きの腕時計をはめる深圳の小学5年生の張依然さん=10月、母親の胡慕雯さん提供

高さ600mもの超高層の建物が並び立ち、街には電気自動車のバスが当然のように走っている。レストランでは自分のスマホで料理を注文できるため、店員がメニューを持ってこないこともある。若者たちは財布を持ち歩かず、スマホで支払いを済ませる。そんなIT化が進む街で生まれ育った、一人の少女に会った。


深圳市内の小学5年生、張依然さん(10)。身長は160cmを超え、背格好は長身のお母さんの胡慕雯さん(36)にそっくりだ。算数や理科が好きで、将来は先生になりたいという。


張さんに普段の暮らしについて聞きながら感じ入ったのは、私が知る日本の子どもたちと比べ、IT機器をかなり使いこなしていることだ。


張さんは小学2年生の頃から、GPS付きの腕時計を着けている。「安全対策」として母親の胡さんが、娘の居どころをすぐに把握できるようにするためだ。


中国では実際、子どもの誘拐も少なくないし、交通事故に遭う危険も現実にある。車の運転は日本よりもはるかに荒い。「50人いるクラスメートのうち、腕時計を着けてないのは1~2人ぐらいかな」と張さんは言う。


GPS付きの腕時計は数百元(1元は約17円)。胡さんは「仮に腕時計を紛失したとしても安いし、腕時計にあるデータは外部から消去できるので安全です」と話す。


学習塾の宿題も、スマホ上のアプリで講師とやりとりする。特に使いやすいのが英語だという。英語の会話を聞いて、その内容を書き留めるリスニングと書き取りの宿題も可能だ。月謝は、中国版LINE「微信(ウィーチャット」で支払う。


ノートなどを買う場合も、2年ほど前からタブレット端末「iPad」を活用しているという。実際に文具店に足を運ぶこともなくはないが、「ネットだと自宅まで届けてくれて便利。それに、その方が安い」と張さんは言う。

タブレット端末「iPad」で文房具の注文をしているという深圳の小学5年生、張依然さん=10月、深圳、益満雄一郎撮影

私には中学生の息子がいるが、彼はまだネットで買い物をしたことはない。ましてや小学生となると、日本でもまだ多くはないと思うが、深圳は違う。胡さんいわく、「1990年代生まれの若者はほとんど、現金なんて持ち歩かないですよ」。


取材中、最も印象的だったのが、現金の将来に対する考え方だ。張さんは毎週10元程度のお小遣いを現金でもらっているが、現金を見る機会がどんどん減っているという。「いずれきっと、現金がない世界がくるんじゃないかな」


私の場合はいつも財布を2つ持ち歩いている。中国本土で使う人民元を入れる財布と、香港で流通する香港ドル用の財布だ。外出時には財布を持つのが当たり前となっている私には、現金のない生活なんて想像もできないが、張さんの目には違った将来が映っている。それも「深圳っ子」としては自然かもしれない。


人口1千万人を超える大都市の深圳は、IT関連の企業で働く若者が多く、20~30歳代が全人口の約3分の2を占めている。


10歳の張さんは、深圳を支える中心世代のさらに「次」を担う存在だが、彼女たちが深圳から中国、世界をどう変えていくのか。ますます目が離せないと思いながら、深圳をさらに歩いた。


(続く)

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示