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未来をあきらめない

[Part3]誰も置き去りにしないために/国谷特別編集長の視点



国谷裕子さん=東京都中央区
Photo:Takehana Testuro


今年9月、衝撃的なデータが発表された。世界の飢餓人口は2005年以降、開発や支援によって減少していたが、昨年の飢餓人口は前年と比べて3800万人以上も増え、8億人を超えたのだ。長引く地域紛争と気候変動が絡み合って引き起こしているとみられている。これまでの手法が通用しなくなっていることを示す。SDGsは、こうした複合的な要因を持つ課題について、互いに関連する複数の目標に同時に挑むことで、その解決を目指す。


「誰も置き去りにしない」を掲げたSDGs。あまりにも理想主義的だとの声も聞こえてくる。しかしこの宣言は、これまでの取り組みが、終わってみれば一時的な対処策に過ぎず、多くの人々を取り残してきたという痛切な認識と反省から生まれている。


SDGsに向けた実践は、痛みを伴う。国連副事務総長のアミーナ・モハメッドは言う。「持っているものを手放せと言われたら、誰でも惜しくなるものです。それでも私たちは繁栄を分かち合うすべを見つけなくてはいけない。自分の生活が誰かに害を与えていないかを常に考えるべきなのです」


世界が共通の目標に向けて動くことに伴う痛みやあつれき。そして達成目標と現実のあまりに大きいギャップ。この困難をどう乗り越えるか。それは、このままでは地球そのものが立ちゆかなくなるとのリアルな認識をどこまで共有できるかにかかっている。


この9月、世界経済フォーラムは初めてSDGsをテーマにした会合を国連総会に合わせてニューヨークで開いた。主催者は冒頭、「これは議論のための会議ではない。SDGsにむけて一つでも多く実践可能な取り組みを探し、それを発展させていくことを目指したい」と発言した。会合に集まっていた政府首脳、グローバル企業の経営者、労働組合のリーダー、金融関係者や様々な研究分野の専門家、それに若いイノベーターたちに共通していたのは、問われているのは実行することだという責任感だったように思う。日本との温度差はあまりに大きいと感じた。


どうすれば気候変動への革新的な対策を加速できるか。人口が集中し続ける都市は持続可能か。技術革新の時代に、経済成長と「誰も置き去りにしない」をどう両立させるのか。SDGs達成に向けた官民連携の重要性、必要な資金をどう呼び込むのか、目標に向けた進捗をどう測るか──会合での話題は多岐にわたった。そして、キーワードのように繰り返し語られていた「社会的対話」「コラボレーション」「再結合」という言葉が印象に残る。


SDGsは、異なる分野の人びとがそれぞれの知恵を持ち寄って協力し合うことを促す仕掛けになっている。2030年に世界を担っている若い世代にこそ、この動きに参加してほしい。最も必要なのは、思い切った発想と挑戦的なイノベーションだからだ。そこから生まれるであろう新しい社会、持続可能な世界。SDGsのそれぞれの目標が、世界の希望としていま提示されている。未来をあきらめないために。


くにや・ひろこ

キャスター。大阪府生まれ。米ブラウン大学卒業。1987年からキャスターとしてNHK・BS「ワールドニュース」「世界を読む」などを担当。93年から2016年3月まではNHK総合「クローズアップ現代」のキャスター。16年に放送ウーマン賞、11年に日本記者クラブ賞、16年に放送批評懇談会のギャラクシー賞特別賞を受賞。?年1月から朝日新聞のキャンペーン「2030 SDGsで変える」のナビゲーターを務めている。東京芸術大学理事、国連食糧農業機関(FAO)親善大使。


取材にあたった記者

中村裕(なかむら・ゆたか)


1967年生まれ。スポーツ部、週刊朝日編集部、GLOBE編集部などを経て、11月から国際発信部。持続可能な社会と家庭を目指して行動する覚悟、新たに。



梶原みずほ(かじわら・みずほ)


1972年生まれ。GLOBE編集部を経て特別報道部記者。レジ袋を禁止する国が増えている。日本は1人当たり年300枚を使用しているとのデータも。




守真弓(もり・まゆみ)


1980年生まれ。今年4月からシンガポール支局長。冷え性。熱帯なのに強烈な冷房に震えている。環境のためにも世界の冷房温度設定が上がることを願っている。



北郷美由紀(ほくごう・みゆき)


1967年生まれ。政治部、ジャカルタ特派員などを経て、今年から朝日新聞「2030 SDGsで変える」企画に参加。SDGsのつながり効果を日々実感している。

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