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記録の力

[Part1]民主主義の神殿、記録の覇権

沖縄占領に関する天皇の見解をまとめた1947年の文書。NARAで閲覧してみた
photo:Takahashi Yukari

記録大国といえば米国だ。その総本山とも言える国立公文書館(NARA)は、ワシントンDC周辺の主要3施設だけで100億枚の文書、5000万枚の写真、30万本の映像フィルムなどを所蔵する。米国だけでなく、米国が関わった各国の記録も膨大にあり、世界の研究者らを引きつける。


本館の中心部にある円形ドームを戴くホールに展示されているのが「自由の憲章」と呼ばれる米国の最重要3文書(合衆国憲法、独立宣言書、権利章典)の原本だ。ホールは神殿をイメージして建築されたもので、厳かな雰囲気に包まれている。NARAや連邦捜査局(FBI)に長年アーキビストとして勤めたマイケル・ミラー(70)は「私たちの国は書かれた文書から始まり、文書が歴史となってきた」と言う。


文書管理を担当する現役アーキビストのジュリエット・アライ(46)は「米国民は政府が何をしているのか知る権利がある。だから最も大切なのは、人びとが記録にたどり着けること。私たちアーキビストは記録を解釈せず、あるがままに国民に伝える役割を負っている」と説明した。


過去は物語の始まりである

過去に学べ

過去の遺産は未来の実りを生む種である

絶え間ない監視は自由の代償である


本館前に並ぶ4体の大きな彫像の台座に刻まれた言葉だ。歴史を未来に生かすために記録し、その記録に誰もがアクセスできることが民主主義を支える──実に明快だ。


だが、どうやってそれを実践するかが問題だ。現実の運用はどうなっているのだろう。


NARAは正式名称を国立公文書館記録管理庁(National Archives and Records

Administration)という。後半の「記録管理庁」の機能が実は重要だ。


米国では、連邦機関によって作られたり、やりとりされたりした情報のなかで保存すべきものを「記録」と定義する。電子データも含まれる。その管理は大統領記録・連邦記録法に定められているが、特徴は、省庁などの各機関の管理下にある記録についても、処分や永久保存などを決める権限と最終責任はNARAの長である「合衆国アーキビスト」にあるという点だ。各機関は記録管理に責任を持つ上級職員を置かなければならず、NARAにも各機関を指導、監督する部署がありアーキビストらが控えている。


「絶え間ない監視は自由の代償である」と台座に彫られたNARA前の彫像
photo:Takahashi Yukari

記録をめぐる日本政府の最近の対応を念頭に、記録の保存期間や開示の恣意(しい)的な判断は米国でも起こるかと尋ねると、アライは「記録は国民のもの。漏れのないように各機関とNARAは連絡を密に取り合っている。基本的に公務員と我々の間には信頼関係がある」と自信をのぞかせた。

米国のアーキビストの堂々とした様子に感じ入った。しかし同時に、「米国の記録が全て正しいのか?」という疑問も湧いた。その連想で思い出したのが、米国取材前に日本で話を聞いた東大大学院教授(アジア政治外交史)、川島真(49)の造語「アーカイバル・ヘゲモニー」だ。「記録による覇権」とでも訳せばいいだろうか。


川島の説明はこうだ。「文書をきちんと残さない国や人は将来に形成される歴史に対する発言権を失う。米国や英国は他国の史料まで持っているので、記録のない国の国民はその史料から歴史を紡がざるを得ず、米英の視点になる」


米国アーキビスト協会の年次大会で知り合った、著名な博物館アーキビストのフランシン・スナイダー(48)は「もちろん記録が正しくないことはある」と認める。「でも、記録があるということが重要。時がたち、新しい史料の発見でそれまでの記録の意味が変わることが起こりえるから」と言う。アーキビスト協会長のナンシー・マクガバン(57)は「記録の集積がアメリカ合衆国なのです」と語った。


記録に、それを作成する人や組織の主観や都合が入り込むのは避けられない。大事なのは、ある者の記録が正しいかどうかを問うだけでなく、すべての当事者が記録を残し、それを突きあわせて複眼的に検証できるようにすることではないだろうか。記録を残そうと努力しなければ、そのスタートラインにさえ立てない。そう思い直した。

(文中敬称略)

(高橋友佳理)

「『私は誰か』記録に探す」に続く)



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