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記録の力

[Part2]記録は復讐(ふくしゅう)する




冷戦時代に共産主義陣営で一党独裁体制をしいた国の記録についても知りたくて、ポーランドを訪ねた。首都ワルシャワにある国家記銘院は1917年から90年までに起きたナチスドイツやソ連の行為の解明や資料の管理・公開などを目的として99年に設置された政府機関だ。


本部役員のクシシュトフ・ヴィシコフスキ(70)は「社会主義時代、情報は秘密警察に集まり、記録は権力者が独占した。市民には、プロパガンダばかりで本当のことは伝わらなかった。いまの社会の要請は『真実を教えてくれ』ということだと思っている」と話した。


だが、その「真実」の公開を巡ってポーランド社会が揺れているという。


2015年に政権をとった「法と正義」(PiS)は、愛国主義的な路線を掲げ、それまでの政権の「過去の清算」が生ぬるかったために旧体制エリートが影響力を残している、と訴えて支持を集めた。そして、記録の公開によってかつてのスパイをあばき始めている。今年はじめには、東欧民主化の立役者としてノーベル平和賞を受賞した元大統領のレフ・ワレサ(73)は秘密警察の協力者だった、とする資料を公開して波紋を広げた。このスパイ疑惑は、政権交代にからんでこれまでも何度か浮上している。ワレサは一貫して否定し、記録文書による政敵攻撃とみる向きもあるが、現政権の支持者には信じている人も多いようだ。


記銘院文書部長のマジェナ・クルック(40)は「あの時代に罪を犯した者、英雄だった者を実名で示してくれるのが文書。真実を目の前に現してくれるのが記録なのです」と胸を張る。しかし、元大統領はともかく一般市民の関連記録まで公開するという記銘院の方針に対しては、強い反発も起きている。ヴィシコフスキは「猛反対しているのは旧体制の協力者たちだ」と言うが、野党勢力は、政権と記銘院による記録の政治利用ではないかと疑っている。公開された情報をもとに、かつての「被害者」が「加害者」をネット上にさらすようなことも起きていると聞いた。


社会主義時代に残された記録をどう検証し、歴史にどう位置づけて未来に生かすか。国民のなかにその合意がないと、記録もまたプロパガンダや報復の道具になって社会を分断しかねない。ポーランドの現状は、そんな危うさを感じさせる。


(文中敬称略)

(高橋友佳理)

「民主主義の神殿、記録の覇権」に続く)





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