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薬とカネ

[Part4]奇妙な商品「薬」/モンデール・トウミ(医療経済学者)



photo:Ohta Hiroyuki

薬というのは、奇妙な商品です。


例えばあなたが車を買う場合、どんな車を買うか決めるのも、お金を支払うのも、買った車を使うのもあなた自身です。だけど薬の場合、あなたがどんな薬を飲むかを決めるのは、あなたではなく医師です。そして、薬代の大半を支払うのは国家です。貧富の差に関係なく国民の健康を維持し、国力を高めるため、米国をのぞく大半の先進国は公的医療制度を整備し、公費で

薬代を賄っている。患者の自己負担は一部です。


現代の大きな問題は、薬の技術革新による価格高騰に、国の支払い能力が追いつけないことです。公的医療の財政基盤を維持するために、どんな国家も薬剤費の抑制に取り組まざるを得ません。


英国は費用対効果の考え方を徹底することで薬代を抑えていますが、背景には個々の患者の健康よりも国家全体の利益を優先する「集団主義」がある。個々の患者を重視するフランスや日本で、そのまま受け入れられるとは思えません。


日本の薬価が高い理由は、製薬が国の有力産業であり、高い薬代を払ってもそれに見合う投資効果があったからでしょう。革新的な新薬には企業の利益を割り増しする仕組みがあるのも、その表れです。国の財政規律がゆるく、薬剤費の支出増を国債などで賄えたことも大きい。


しかし、こうした状況は変わりました。今や売れる薬の大半は米国発のバイオ薬品で、国が払う薬代は海外に流れるばかり。国の借金も永遠に続けることはできない。日本も自らに合った形で薬剤費の抑制に取り組む必要があります。


すでに薬価の見直しを2年ごとから1年ごとに短縮する方針が決まり、費用対効果の手法も一部取り入れようとしている。お金が乏しくなれば、効率的に使わざるを得ない。その方法を学ぶのに、そう時間はかからないと思います。


(聞き手・太田啓之)



Mondher Toumi

1953年仏・マルセイユ生まれ。製薬企業副社長を経て2008年、医療経済コンサルティング会社「クリエイティブ・スーティカル」設立。13年エクスマルセイユ大教授。



「『うつ病啓発』キャンペーンの功罪」に続く)







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