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太平洋波高し

[Part3]中国の海洋進出、戦略か場当たりか




中国はなぜ、太平洋に進出するのか。伝統的に陸軍が主体だった人民解放軍だが、1980年代になると、鄧小平の右腕で「中国海軍の父」と呼ばれる海軍トップの劉華清が強力な海軍を主張し、近代化を進めた。


95年から96年にかけて起きた第3次台湾海峡危機も、一つの契機になった。米軍は空母戦闘群を台湾海峡に派遣。手出しができなかった中国にとっては、苦い経験として記憶に刻まれた。


日本の防衛白書(2016年度)によると、中国の公表国防費は、89年度から毎年ほぼ一貫して2桁の伸び率で、名目上の規模は、88年度から28年間で約44倍、06年度から10年間で約3.4倍となっている。


中国は南シナ海を含む第一列島線の内側を確実に安全地帯とすることを目指しつつ、遠方の海や空での作戦遂行能力も高めているというのが、米国や日本の防衛当局者の見方だ。12年には沿岸防衛からの脱却のシンボルとなる中国初の空母「遼寧」が就役し、16年暮れに初めて第一列島線を突破した。


こうした中で中国にとっての台湾は、「一つの中国」という中国の国内政治問題から、太平洋進出、米国牽制をにらんだ安全保障上の「核心的利益」へと変質している。



戦争せずに米国を追い出す戦略

中国の太平洋進出は軍事にとどまらない。中国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」は太平洋も含む。今年5月の「一帯一路」国際会議には、島国のリーダー的存在のフィジーが出席して話題を呼んだ。南シナ海の領有権問題ではバヌアツが、「中国の立場を支持する」と表明した。


『地政学の逆襲』などの著書があり、中国の海洋進出に詳しい米国人ジャーナリストのロバート・カプランは「台湾がどのように統合されるかがこの地域の将来を占う」としたうえで、「我々が過去200年間『弱い中国』に慣れてしまっていただけで、経済大国となった中国が軍事力の拡大をめざすのは自然な流れだ」と分析する。


「中国からみると、南シナ海は中国に近接しているのに、地球を半周してやってくる米国に支配されるのはおかしいと映る。米海軍はいま西太平洋を完全には掌握しておらず、その隙間を埋めていこうとしている。中国は戦争はせずに南シナ海や東シナ海から米国を追い出すという帝国主義的な長期戦略を立てている」と話す。


一方で、中国に明確な長期戦略があるという見方には否定的な見解もある。



「100年先見据えた青写真描いていない」

同志社大学教授の浅野亮(現代中国政治)は、「一帯一路」に含まれる海洋進出について、「漠然とした枠組みで中央が経済援助や投資のプロジェクトの旗を振り、周りが右往左往しながら具体的な計画を立てている。中央の手を離れ、中国企業や地方政府がそれぞれの判断で事業を行っているのが現実だ」と話す。


スリランカのように融資返済のめどが立たなくなり、中国に港湾を長期間貸し出す事例も出ており、「インフラ投資の名のもとに中国が支配していく国家戦略」との見方が広がる。


だが浅野は、「一見すると国家戦略のように見え、失敗とは言えないので宣伝部門もこのレトリックに乗るが、投資部門からすれば、単なる焦げ付きであり、経済的には不安要素以外の何物でもない。中国はあたかも昔から計画があったかのような演技をするので信じてしまいがちだが、数十年先、100年先を見据えた具体的な青写真は描いていない」と話している。


(梶原みずほ)

(文中敬称略)



取材にあたった記者

梶原みずほ(かじわら・みずほ)

1972年生まれ。大阪社会部や政治部を経てGLOBE記者。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート客員所員。2015~16年、米国防総省アジア太平洋安全保障研究センター客員研究員。太平洋軍と海洋安全保障を研究した。

市川美亜子(いちかわ・みあこ)

1974年生まれ。西部や東京の社会部などを経て5月からGLOBE記者。トンガではタクシー運転手が間違っておつりを多くくれたり、ホテルの人がただで飲み物をくれたり。「シェアの文化」が心にしみたが、「これじゃ儲からないな」とも。ホームレスもほとんど見かけなかった。

小暮哲夫(こぐれ・てつお)

1973年生まれ。九州各県やニューデリー、経済部(東京)などの勤務を経て、シドニー支局長。日本統治時代に食べるのが習慣になったというマーシャル諸島の白いご飯が、南国の強い日差しを浴びた疲れを癒やしてくれた。





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