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太平洋波高し

[Part1]中国に乗っ取られる?トンガ首相発言が波紋


存在感増す中国

中国の援助で建てられた政府合同庁舎が目立つ海岸で、地元の家族たちが遊んでいた(撮影:市川美亜子)


「我が国はこのままだと、数年以内に中国人に乗っ取られてしまう」。北京から約1万㌔。約170の島々からなるトンガで今年5月、首相の発言が波紋を広げた。


1998年に台湾と断交して国交を結んで以来、中国との絆は深い。人口10万の国で、なにが起きているのか。


首都のある島から飛行機で1時間。7月上旬、トンガのヴァヴァウ諸島は国王の誕生日を祝う祭典のさなかだった。赤と白の国旗が揺れる華やいだ空気の港町のホテルで、伝統的な黒いスカート姿のアキリシ・ポヒヴァ首相が取材に応えた。


「あくまでも仮定だが、合意を守れなければ、我々の海で彼らが漁業をするようになるとか、我々の軍隊を彼らが使うようになるとか。さまざまなことが起こりうる」


「合意」とは中国からの多額の援助の返済だ。中国からトンガへの援助は2006年から16年までで総額約1億7200万米㌦(豪・ロウィー研究所推計)に上る。無償援助もあるが、長期の低金利融資も多い。IMF(国際通貨基金)などによると、対外債務は今や国のGDPの半分近くに上るが、大半が中国からの借金だ。首相は、その元本の返済が「来年から始まる」と言った。


さらに、こう続けた。「多くの国民も恐れを感じている。商売では今や中国人が卸売りや小売りの8割以上を独占しているのだから」



不安をあおるようにも受け取れる一連の発言は、様々な臆測を呼んでいる。選挙制度改革を経てトンガで民主化が進んだのは2010年。首相のポヒヴァは民主化運動のリーダーだった。一方、いまも大きな影響力を持つ王室は中国との関係が深く、「トンガ中国友好協会」の会長を王女がつとめるほどだ。


ヴァヴァウの中心街に並ぶ日用品店をのぞくと、店を切り盛りしているのは、ほとんどが中国系の人たちだった。幼い子を連れて買い物に来たリーロイ・ファンガラヒ(27)は、以前は電気関係の職に就いていたが、いまは失業中だ。「中国の店は早朝から深夜までやっているし、品ぞろえもいい。昔はトンガ人経営の店もあったが、ここにはほとんどなくなった。首相の言葉は俺たちの実感そのものだ」。?年に首都で暴動が起き、中国系の店が焼かれた。それ以降、ぎくしゃくした空気はある、と話した。


中国系の人たちはどう感じているのか。3階建ての建物で日用品店とホテルを営む王誦云(ワン・ソンユン、38)に聞くと、「中国人はどこででも生き抜く道を見つける。トンガ人の友達もたくさんいるよ」と言う。


王が18歳で故郷・福建省からトンガにわたったのは、国交が結ばれた98年。「成績がよくなかったんだ。中国は競争相手が多すぎる。中国人があまりいない場所に行こうと思った」。まずは首都で港から商品を運ぶ仕事をした。お金がたまると小さな店を持った。ヴァヴァウに移って店を広げ、ホテルも開いた。


「子供には『生き抜く』ための人生ではなく、平和な暮らしを与えたい」。上の2人の子は中国に帰らせて、高額な授業料を払って私立校に通わせている。


王は移住して5年が過ぎた後で、商売をしやすくするため、トンガ国籍を取得した。90年代の一時期には高額でパスポートが売られていたといい、トンガ国籍を持つ中国系移民は少なくないという。トンガに暮らす「中国人」は数千人で、人口の3~5%というが、実態はつかめない。


取材後、王が「とっておきの場所がある」と、海と島を望む小高い山に連れていってくれた。先に来ていた家族連れとトンガ語で談笑した後で、声をひそめ、島の間に架かる橋を指した。「中国のお金で建てられたものだよ」と誇らしげな笑顔を見せた。



首都・ヌクアロファに戻ると、中国はまた違う次元の存在感を放っていた。海岸通りにそびえるのは、完成したばかりの政府合同庁舎。中国が無償で建設し、首相府や財務省などが入る予定だ。玄関に「チャイナ・エイド 中国援助」と記されたプレートが光っていた。


その向こうには、巨大なモニュメントが立つ「ブナ埠頭」が見える。中国が全額を低金利融資し?年に完成したこの埠頭は、大型客船とともに軍艦も入港できる大きさと深さだ。


同じ海岸の東側では、日本が?億円を無償で援助し、国内輸送船用の埠頭を新設する工事の最中だった。豪州、ニュージーランド……。島をめぐると、道路や施設のあちこちに支援した国名を書いた表示がある。「大国」の視線を集める太平洋の姿を示していた。


トンガで長年民主化運動に取り組んできたジャーナリスト、カラフィ・モアラ(66)は話す。「恐れからは何も生まれない。新しくパワフルな友達と賢く関係を築いていければ、我々にメリットはある。トンガの問題を中国のせいにせず、自分たちの問題として向き合うことから始めるしかない」


(市川美亜子)

(文中敬称略)

「テニアン島 かつての『不沈空母』に中国の影」に続く)





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