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「ミニマリスト」になりたいわけじゃない

[Part1]生きていくためのよりどころを探す

ヨランダ・アクリー
photo:So Kosuke

ミニマリズムが話題になると、必ず出てくる疑問がある。しょせんは、お金持ちにしか実践できないのでは、ということだ。


私もネットのブログを見たり、ザ・ミニマリスツのライブを訪ねたりして、米国でミニマリズムに関心があるのは白人が多い印象を抱いた。米国国勢調査局の統計によると、15年の米国の黒人の貧困率は24.1%で、白人の貧困率の9.1%を大幅に上回るなど、経済的な格差はなお大きい。


しかし、ワシントンDCでヨランダ・アクリー(34)に会い、黒人社会にも「持たない暮らし」を選ぶ動きがあることを知った。今年5月1日、黒人による黒人のためのサイト「ブラック・ミニマリスツ」を立ち上げた女性だ。


サイト創設のきっかけは、ある白人ミニマリストのサイトに12年に投稿された読者からのコメントだった。「少数派が不平等な社会で尊敬を得る唯一の方法は、見た目で豊かさを表現すること。あなたが黒人だったら、ミニマリストとして生きられますか」。ヨランダは投稿に込められた思いを受け止めてなお、自らのブログに「ミニマリズムは誰でも実践できる普遍的な哲学だ」と書いた。





一昨年から本格的にサイト開設の準備を開始。記事の寄稿や、運営を手伝ってくれる黒人の仲間を探した。


ヨランダ自身は5年前まで、ワシントンDCの近郊で暮らしていたが、仕事や日々の忙しさで燃え尽き症候群になり、ミニマリズムに出合ったという。友人らと暮らしていた家を出て、今はメリーランド州の母親宅に移り住んでいる。

人種や肌の色による差別を禁じた公民権法の成立から半世紀以上を経てもなお、米国の人種差別は解消されていない。ここ数年は警察官による黒人殺害が引き金となり、抗議デモが過激化する事件が繰り返されている。ヨランダの暮らすメリーランド州でも似た事件が起きた。差別が悪化しているようにも見える今だからこそ、ヨランダは「黒人にとって自分のアイデンティティーを見つめ直す場が必要だ」と話す。歴史や文化を共有する黒人同士が安心してミニマリズムを語り合える場をつくり、新しい黒人のコミュニティーを育てることが目標という。


彼女の思いがどこまで実現するかは分からない。ただ、そこには「モノを最小限に減らせば幸せになれる」というシンプルなうたい文句にはない重みがあった。ミニマリズムは彼女にとってきっと、日々の暮らしで見失った自分を取り戻し、生きるためのよりどころになっている。


(宋光祐)

(文中敬称略)

(次ページ「成長なき経済を生きる方法」へ続く)



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