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「ミニマリスト」になりたいわけじゃない

[Part1]ミニマリスト発祥地アメリカ、流行の実態




3月末に単身赴任先の名古屋から、家族の暮らす東京へ戻った。引っ越しの荷造りに要した時間は30分。衣類、食器、ガスコンロ、パソコン、本……。すべてがスーツケース一つに収まった。家具付きの部屋だったとはいえ、あまりの荷物の少なさに驚く。そのとき、ふと思った。「まるでミニマリスト」。でも、なりたいわけじゃない。いつの間にか、そんな生き方を選んでいただけなのだ。それがミニマリストの本質を探る旅の出発点だった。





今になって思えば、私が名古屋でモノを減らす暮らしを実践したのは、生き方を見直したかったからだ。始まりは2012年4月。東京から名古屋に異動になり、家族と離れた。当時の上司からは「2年が目安」と言われたものの、声がかからないまま3年が経過。「自分の人生なのに住む場所すら自分で決められない」と感じた。


会社に身を任せず、自分の人生を自分で決めたい――。そんな思いで15年8月末から思い切って会社を休み、パリへ留学した。無給になるため、家族3人で1年間1DKのアパルトマンに住み、節約に励んだ。


翌16年9月、私は休職前に在籍していた名古屋本社に復帰した。単身赴任に戻ったわけだが、休む前とは違って家具付きのアパートを選んだ。東京の自宅から中華鍋やカセットコンロ、毛布を運び、ほとんど何も買い足さなかった。今回の取材で当時の持ち物を再現したら、モノが少なすぎて同僚から変人扱いされたが、私にとってはむしろ当然の選択だった。仕事がしたくて復職したが、家族との暮らしを優先して、いつでも動けるようにしていたかったからだ。


ただ、自分が「ミニマリストみたいだ」とは、今春に名古屋で引っ越しの荷物をまとめるまで思いもしなかった。


そこで興味が湧いて試しにネットを検索すると、世界中のミニマリストが現れた。中でも発祥の地とされる米国は、キャラクターが多彩だ。トランク一つで世界を旅したり、「持たない暮らし」を広めるために仕事を辞めたり……。どのミニマリストもモノを減らすことで家事や片付け、出費が減り、あまった時間やお金を自分の好きなことに使えると説く。ネットを見るかぎり、ミニマリストの人生は冒険と充実感にあふれている。


しかし、「持たない暮らし」を実践した私としては、モノを減らすことと幸せはそう簡単にイコールで結べない。人々はミニマリストの何に共感しているのか。流行の実態が知りたくて、米国に向かった。


ザ・ミニマリスツ
photo:So Kosuke

5月12日、西海岸ワシントン州シアトルの劇場で午後7時半から始まった「ザ・ミニマリスツ」のトークライブ。黒いTシャツとパンツ姿のジョシュア・フィールズ・ミルバーン(写真左、36)とライアン・ニコデマス(35)が舞台に姿を現すと、客席から大きな歓声が起きた。会場の500席は大方が埋まり、関心を持つ人の多さに驚いた。


2人は小学校以来の幼なじみ。一緒に勤めていた通信会社を退職して、6年前にユニットを組み、ウェブサイトを立ち上げた。著書は日本語にも翻訳され、サイトには世界中から200万人を超える読者がアクセスするという。今や北米40都市をツアーで回るほどの人気ぶりだ。


2人とも幼い頃に両親が離婚し、お金に困る子ども時代を過ごした。その反動のように高校卒業後は会社でがむしゃらに働き、1000万円を超える年収を得る。ぴかぴかの新車や大きな家、高級ブランドの洋服……。物欲を全開にして生きていたさなか、ジョシュアが母親の死と離婚をきっかけに人生を見つめ直し、「持たない暮らし」を始める。ライアンも親友の変わりぶりを目にして後に続く。


モノを成功や喜びの基準にしていた過去の自分を捨てたことで、自分の人生が好転する??。ライブで聞いた2人の物語は取材前に本で読んだ通りだった。それよりも私が現場で強く感じたメッセージは、モノとその所有に価値を置く消費主義への疑問だ。「問題は消費することじゃなく、消費させられることなんだ」。ジョシュアは舞台でも私とのインタビューでも口癖のようにそう繰り返した。


彼の感覚には私自身、思い当たる部分がある。愛用のスマートフォンは購入から5年ですでに7台も新しいモデルが出た。新商品としてCMが流れるたびに、まだ使える古いモデルを買い替えろと迫られているような気になる。


民間の中小企業研究所によると、日本で5年以上続いたヒット商品は1980年代には5割近くあったのに、00年代には5.6%まで減った。逆に1年未満のヒット商品は1.7%から2割近くにまで増えたという。


ライブ会場に足を運んだ人たちの中にも、モノを買うことへの疑問を口にする人たちが多かった。「隣の人が持っているからって、同じモノを買わなくてもいいと、もうみんな分かってるよ」。シアトルに住むロジャー・サリバン(47)はライブ後、そう話した。2人からサインをもらうために並んでいたマット・フォン・エレンクロック(36)は「旅行したり人に会ったりする経験の方が、モノよりも価値がある」。近いうちに米国内を車で旅して暮らすミニマリストのスタイルを試すつもりだという。



 


宋光祐(そう・こうすけ)

1977年生まれ。東京社会部、名古屋報道センターなどを経て4月からGLOBE記者。


(文中敬称略)

(次ページ「持たない暮らし」の源流と今」へ続く)



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