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「ミニマリスト」になりたいわけじゃない

[Part2]「持たない暮らし」の源流と今



米国では、広さ37平方メートル以下の「タイニー・ハウス」と呼ばれる小さな家に注目が集まっている。スペースが狭いため、モノを減らさざるを得ず、好んで暮らすミニマリストもいる

米国でミニマリストが現れた背景には何があるのだろうか。


ザ・ミニマリスツの2人や他のミニマリストなどの話によると、カリフォルニア州に住むレオ・バボータという人が09年、持ち物を最小限に減らす暮らしを「ミニマリズム」としてブログを立ち上げたのが、今のブームの先駆けのようだ。彼の過去のブログを見ると、もともと仏教の禅から着想を得て実践し始めた「シンプルライフ」から不要なモノをすべて処分するミニマリズムに進化したとある。


文明史をさかのぼると、ミニマリズムに類する暮らしは、過去にもあった。代表は、ミニマリストたちの著作で必ずといっていいほど引用される19世紀の米国人随筆家ヘンリー・デビッド・ソロー。1845年夏にマサチューセッツ州の池のほとりに丸太小屋を建て、自給自足の生活を送った。だが、そのずっと以前にも、古代ギリシャの哲学者ディオゲネスが欲望から解放されて自足する大切さを説いた。キリスト教の修道士も物欲を厳しく制限したし、仏教を開いた釈迦も王族の暮らしを捨てた。


しかし、いつの世も決して多くの人に受け入れられたわけではない。むしろ常に少数派だった。それが今は、先進国を中心に世界的にミニマリストを名乗る人が現れている。一つのライフスタイルが数年の間にこれだけの範囲に広がったのは、言うまでもなくインターネットがあったからだ。私が取材で会った合計7人のミニマリストに手放せないモノを尋ねたら、ほとんどがスマホとパソコンを挙げた。この二つがあれば、時計やテレビなど多くのモノがいらなくなる。写真もデータで保存できる。自分の暮らしぶりを発信するためにも必要だからだ。

タイニー・ハウスの内部



ブログを書いて評判になれば、本や講演で生計が立つ。ザ・ミニマリスツの2人は代表的だ。過去にはなかった「職業ミニマリスト」の存在が流行を引っ張っている。


ともすれば大量消費が「善」とみなされるような米国社会にミニマリズムを受け入れる素地ができたのは最近のこと。転機は08年のリーマン・ショックだった。


翌09年、レオ・バボータは自身のミニマリズムのサイトで、モノとその所有に価値を置く消費主義の拒否を定義の一つとして示した。当時は、世界金融危機による不況のまっただ中。失業率が10%前後に上昇し、クレジットカードローンの延滞率も10年には10%から14%まで増えた。その後、景気が拡大局面に入っても、10~15年の実質経済成長率は平均2.1%と、95~00年の好景気よりも約2ポイント減ったままで、より大勢の人が景気の良さを実感できる時代は戻らなかった。


三菱総合研究所の調査では、08年から14年にかけて時給8~20ドル程度の中間的な雇用が合わせて約500万人分減少した一方、時給7ドルの最低賃金付近の雇用が約400万人分増加した。イリノイ大学シカゴ校准教授でマーケティングが専門のラン・チャプリン(41)は「経済がうまく回っていない時には、ミニマリストの生活は現実的に見える。職を得るのが難しく、給料も上がりにくい若い世代には、『持たない暮らし』を選ぶ人が多くいるのでは」と見る。


(宋光祐)

(文中敬称略)

(本編2「生きていくためのよりどころを探す」へ続く)





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