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感染症との新たな戦い

[Part3]人類と感染症、終わらない攻防




米アトランタにある疾病対策センター(CDC)の博物館には「最後の天然痘患者」のソマリア人の写真とともに、現地で活動していたCDCの担当者が1979年10月に本部に宛てたはがきが展示されている。


「今や天然痘と戦った老戦士たちは、次に何をしようかとうろつき回るバファローのようだよ!」。翌年5月、WHOは天然痘根絶を宣言した。はがきの主は、根絶を成し遂げた誇らしさを冗談めかして伝えてきたのだった。天然痘根絶は、人類と感染症の戦いにおける金字塔だ。


天然痘の歴史は古く、日本には仏教が伝来した6世紀ごろに入ってきたとされる。大航海時代、西欧人がインカ帝国などを征服できたのは、天然痘の免疫がない地で感染が一気に広がったのが一因だという説がある。ワクチンができたのは18世紀末。英国の医師エドワード・ジェンナーが、乳搾りをする人びとに天然痘患者が少ないことに着目し、牛の感染症である牛痘のウイルス接種を始めた。ワクチン(vaccine)は牛を意味するラテン語「vacca」から名づけられた。


20世紀に入ってワクチンや薬の開発はさらに進み、感染症は人類の敵ではなくなった、と考えられた時期もあった。天然痘根絶はその象徴的な到達点であった。


だが前後して現れたのが、76年のエボラ出血熱や、81年のAIDS(後天性免疫不全症候群)などの新興感染症だ。感染症との戦いに、新たな戦端が開かれた。


感染症の歴史に詳しい元理化学研究所の加藤茂孝は「感染症は常に人類の歴史とともにあり、油断は禁物だ」と指摘する。


内戦が続くイエメンではコレラが猛威を振るい、国連児童基金によると、疑い例を含む感染者数は20万人、死者は1300人に達する。抗生物質などが効かない耐性菌も深刻だ。WHOは、多数の抗菌薬に耐性を持つ結核の感染が年間約48万件に上ると推計し、耐性のあるAIDSのウイルスやマラリアも見つかっている。


感染症の根絶に力を注いできた人類だが、近年は、人間の健康だけを守るのではなく、動物や環境を含めた生態系を健全に維持することが新興感染症の本質的な予防となるという「One Health」の考え方も出てきた。


ただ、ウイルスや細菌が変化を止めることはなく、人間側も同様だ。この攻防に終わりはないと言われている。


(小川裕介)

(文中敬称略)

(本編3「日本・どう向き合う 「水際神話」には限界」へ続く)


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