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感染症との新たな戦い

[Part2]「貧者の病気」 高い創薬の壁




感染症が猛威を振るうたび、薬やワクチンが開発されれば──と私たちは思う。だが、そう簡単ではない。


「顧みられない熱帯病(NTDs)」。デング熱など創薬が進まない18の感染症を世界保健機関(WHO)はそう位置づける。こうした感染症は、途上国が舞台の、いわば「貧者の病気」。患者や地元政府に薬代を負担する余裕はなく、製薬産業にとっては薬を開発しても売り上げが見通しにくい。


英医学誌「ランセット」に2006年に発表された調査によると、1975年からの30年間にできた1556の新薬のうち、NTDsとマラリア、結核向けはわずか1.3%だった。


一方で新薬開発の費用は高騰を続けている。かつて「千に三つ」といわれた開発の成功確率は、今や「2万5000分の1」(製薬関係者)。薬事承認を得るまでの開発期間は9~16年、費用は数百億~3000億円規模とされる。特に人体に投与する臨床試験(治験)段階に入ると費用が跳ね上がる。治験前に開発が止まることが多く、業界ではこの境を「死の谷」と呼ぶ。創薬がどんどん「ハイリスク」になっていくなか、企業の視線はローリターンの感染症からおのずと遠ざかり、研究開発はがんや糖尿病といった先進国で需要の高い分野に集まる。




市場原理任せをやめて、政府系ファンドや非営利団体が感染症の薬の費用を担う仕組みづくりも試みられてきた。


感染症が初めて主要議題になった00年の九州・沖縄サミット後に「グローバルファンド」が発足。13年には、日本でも製薬企業とビル&メリンダ・ゲイツ財団、政府などの出資で世界初の官民ファンド「グローバルヘルス技術振興基金」(GHITファンド)ができた。最高経営責任者のBT・スリングスビー(41)は「死の谷を乗り越え、日本発の技術革新を途上国に届けたい」と語る。今年1月にも、日本を含む各国政府や財団などが資金を出し、感染症のワクチンの国際開発を進める機関を立ち上げた。


とはいえ、薬事承認に必要な治験の難しさも感染症にとっての壁だ。エボラ危機で注目された日本の抗インフル薬「アビガン」のケースは象徴的だ。


子会社がアビガンを開発した富士フイルムの医薬品事業部マネージャー、山田光一(58)は14年9月、WHOのエボラ対策会議の会議場でフランス代表団の人物からコーヒーに誘われ、アビガンの供給を求められた。アビガンは、抗インフル薬として日本の薬事承認は得たものの、エボラでは動物実験すら手がけていない段階だった。それでも、ウイルスの遺伝子複製を阻む独自の作用から「エボラへの切り札」になり得るのではとの期待が高まっていた。



2週間後、パリで山田がアビガンを手渡した翌朝、仏側は世界で初めて人への投与に踏み切った。それだけ切羽詰まっていた。現地での支援活動中に感染した仏人女性看護師はアビガンと他の未承認薬を併用して回復した。仏側が責任を持つ形で12月、ギニアで治験が始まり、一部の感染者群の死亡率がそれまでの3分の2に下がった。


だが、治験は本来、ニセの薬を使った場合と効果を比較するなど、厳密な手順を踏んで薬事承認をとるためのデータを積み重ねる。切迫したエボラの現場では不可能で、集めたデータは日本の当局に「ご苦労さんだが使えない、と言われた」と山田。「途上国の感染症と、先進国の薬事承認はなかなか相いれない」

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