RSS

心の筋トレ

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加

[Part1]「秘伝」は手旗信号?

托鉢中のスカトー寺の僧侶たち
photo:Ota Hiroyuki

気を取り直した私が次に目指したのは上座部仏教が盛んな国、タイ。バンコクから車で4時間半。標高470メートルの山中にあるスカトー寺にたどり着いたのは2月末のことだった。


この寺では、タイで得度した1962年生まれの日本人僧侶、プラユキ・ナラテボーが副住職を務め、この地を訪れた迷える日本人を導いている。私もこれから丸々1週間滞在し、本格的な瞑想修行を体験するのだ。


プラユキの著書『苦しまなくて、いいんだよ。』では、この寺で数日間瞑想に取り組み、うつなどの症状が劇的に改善した人々の話が感動的につづられている。プラユキは早稲田大学教授の熊野宏昭と協力し、瞑想の治療効果について医学面からの検証も進めている。


硬い床で寒さに震えながらのごろ寝、大ヤモリやネズミとの対決?などスカトー寺のワイルドな生活について知りたい方は、ウェブオリジナルをご覧ください。色々な意味で、修行には「理想的な環境」ではありました。


さて、着いた早々、プラユキは私に、この寺に伝わる二つの瞑想法を伝授してくれた。一つは、手を順番におなかに置いたり、宙に上げたりという一連の動作を延々と繰り返す「手動瞑想」。もう一つは、普通より遅いペースで十数歩歩いては、回れ右して元に戻るということを際限なく繰り返す「歩行瞑想」。



「1週間あれば必ず変われるよ」


──プラユキ先生。これって、外見上は手旗信号みたいに手を動かしたり、単に歩いたりしているだけですよね。


「そうだよ」


──しかも、やる時には目を開けたまま。これのどこが瞑想なんですか???


「ポイントは、手動瞑想では手の動き、歩行瞑想では足の動きをしっかりと意識し続けること。つまり、手や足の動きを手がかりにして、常に『今、ここ』にいるという気づきを得るのが目的なんだ」


──それって、マインドフルネスの呼吸瞑想と似たコンセプトでは?


「そうだね。『気づき』のきっかけとして、呼吸を使うか、手や足の動きを使うか、という違いだよ。ただ、呼吸に集中しすぎたり、心の静けさだけを求めたりすると、気づきではなくなってしまう。だから、私は手動瞑想や歩行瞑想を勧めているんだ」

──本当に、それだけで自分を変えられるんですか?


「変わる、変わる。1週間あれば必ず変われるよ」


プラユキの印象は「慈愛に満ちた師」というよりは「話し好きの気のいいおっちゃん」という感じ。そのおっちゃんが安請け合いするもんだから、どうも信用しきれない(師匠、すみません)。



本当に求めてやまないのは「安心」なのだ


しかし、タイの山奥まで来て教わった「秘伝」が、ただ手を動かすことと歩くこととは……。毒舌後輩記者の「ほーっ。太田さんのタイ修行の成果は、手旗信号を覚えたことだけですか」という嫌みったらしい言葉が、頭の中でグルグルと回る。まさに「心ここにあらず」になりかけた私にプラユキが問いかけた。


「君は結局、どう変わりたいの?」

「安心して生きることです」

思わず、そう即答していた。


旅立つ直前、曹洞宗の禅僧・藤田一照を取材した。禅の世界に入り、藤田自身はどう変わったのか。私の問いかけに彼はただ、「安心できるようになった」と答えたのだ。その時、私は心底「うらやましい」と思った。そう、私が本当に求めてやまないのは「安心」なのだ。


(太田啓之)

(文中敬称略)

「地に足がついている!」に続く)


…続きを読む

この記事の続きをお読みいただくためには、購読手続きが必要です。
GLOBE総合ガイド
  • ログインする
  • ご購読申し込み

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

「朝日新聞デジタル(フルプラン)」を購読済みの方は、ご利用のログインID・パスワードでGLOBEデジタル版の全てのコンテンツをお楽しみいただけます。「ログイン」へお進みください。
朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長から