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心の筋トレ

[Part3]「つながり」にしおれる



ウィズダム2.0の会場内
photo:Ohta Hiroyuki

だけど、「ウィズダム2.0」というイベントに、私はなじめなかった。600?700ドルもの会費を支払って参加した約2000人の大半は、米国や欧州から集まった裕福そうな白人たち。タンらの「マインドフルネスは宗教ではなく科学」という主張にもかかわらず、会場の装飾や流れる音楽には、どこかスピリチュアルな雰囲気が漂う。


マインドフルネスの草分け的存在で分子生物学者でもあったジョン・カバットジン(72)のワークショップにも参加したが、座禅のポーズを取りつつ「心に起こったことをすべて受け入れられるか」「思考は真実ではない。思考の囚人になってはいけない」「創造性は知識からではなく沈黙から訪れる」などと意味深な言葉を語る姿は、宗教指導者のイメージと重なった。


会場で特によく聞いたのが「コンパッション(共感)」「コネクト(つながる)」という言葉。マインドフルネスは「他人を自分と同様に大切に思う心」も育むからだそうだ。


でもね、実はオヤジはこういう言葉に一番弱いんです。塩をぶっかけられたナメクジのようにしょんぼりしてしまう。なぜなら、これまでの人生で、「共感」とか「つながり」には散々裏切られてきたから。他人が自分に心から手を差し伸べるなどあり得ない。そうあきらめ切るのが「オヤジになること」だから。


それに、トランプ政権が誕生し「分断」があらわになった米国で、「つながり」で盛り上がるエリートたちを見ていると、「あんたたち、トランプともつながれるの?」と突っ込みたくもなってしまうのだ。



「心の健康」にも格差が


そんな私の個人的な思いとは関係なく、マインドフルネスは米国で着実に浸透している。グーグル幹部で自身がヨガの教師でもあるゴーピ・カライルは「グーグルの社員6万3000人のうち、すでに約3割はヨガや瞑想を実践しているのでは」と話す。


瞑想自体はネットで独習でき、お金もかからないが、瞑想を実践する人の多くは高学歴者や富裕層だ。


「僕の地元のインドでも、無料でヨガや瞑想を教わることができるんだけど、参加しているのは、ブランドもののヨガウェアを着た金持ちばかりだね」


じゃあ、エリート層と一般の人々の間には「心の健康」でも格差が生じかねませんね。マインドフルネスは人々を「つなげる」どころか、隔たりを増してしまうのでは?


「残念ながら、現状はその通りだね」


結局、マインドフルネスへの割り切れない思いを抱えたまま、私はサンフランシスコを後にした。だけど、これしきのことで、自分を変えるのをあきらめるわけにはいかない。第一、あの毒舌後輩記者に合わせる顔がないではないか!


(太田啓之)

(文中敬称略)

「『秘伝』は手旗信号?」に続く)




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