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韓国のあした

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[Part3]奇跡は奇跡的に訪れない/崔相龍 高麗大学名誉教授




韓国には、どんな「あした」が待ち受けているのだろう? 駐日大使も務めた政治学者、高麗大学名誉教授の崔相龍(75)に聞いた。




最近、日本は内向き、韓国は外向きの傾向があると言われます。ただ歴史を振り返ると日本ほどオープンな国はなかった。明治維新では国を開いて自力で西洋に対応し、立派な近代国家をつくった。


当時の朝鮮にも開化論はありましたが、失敗した。工業技術でさえ受け入れなかった。完全な鎖国、内向きでした。開国の失敗や植民地化の苦い経験といった教訓から外に飛び出すべきだ、国を開いた方がいいと考えるようになった。


韓国は1960年代から朴正熙政権の「開発独裁」による産業化で驚異的な成長を遂げた。その後、87年に分岐点が訪れます。民主化です。アジアでは他に類をみない下からの大規模な民主化運動だった。国民の血と涙と汗で勝ち取った。高度成長「漢江の奇跡」とともに民主化も奇跡でした。


産業化と民主化の二つの奇跡はコインの両面です。民主化は産業化の中から産声を上げた。産業化を進めた開発独裁体制が自ら豊かにした国民に倒された。「産業化と民主化の逆説」です。今年は民主化30年。その間も産業化の副作用といえる政経癒着は続きましたが、韓国ではこれも圧縮的に表れました。そのクライマックスが朴槿恵大統領をめぐる事件です。



所得、教育、イデオロギーの両極化


私はソウル大学の1年生だった1960年、「4・19革命」に参加しました。李承晩独裁を倒し、民主化を求めるデモでした。私は朴槿恵大統領の下野を求めるデモにも参加しました。57年前と比べて感無量でした。当時は当局の発砲で殺される人もいた。今は非暴力です。家族連れも多かった。楽しんでいると言うと語弊はありますが、そんな雰囲気もありました。こうした平和的なデモは、産業化と民主化の中から生まれた誇るべきプラスの遺産だと思います。


今日の韓国を表す言葉といえば格差です。韓国語では「両極化」といいます。所得だけではなく、韓国で特徴的なのは教育の格差です。ピークには大学進学率が8割を超えましたが、大卒の失業者を量産している。狂った競争です。


左右のイデオロギーの両極化も特徴です。韓国ほど冷戦の被害を受けた国はない。米ソは冷戦の当事者だが、直接、戦争はしなかった。ここでは同じ民族が冷戦の結果として戦争をした。その後遺症は、産業化による後遺症よりひどい。悲劇そのものです。同じ民族が戦ったこの半島は、いまだ冷戦に縛られている。そのため韓国では北朝鮮に強硬な保守と融和的な進歩が、今もイデオロギーの葛藤を繰り広げています。


韓国は所得、教育、イデオロギーの両極化に押しつぶされそうです。さらに、それぞれが互いの影響を増幅する悪循環にあります。



中国は戦略的な協力同伴者


世界でただ一つ冷戦構造が残っているという意味では、韓国の明日を見渡すためには、外交をしっかり考えないといけません。まずは北朝鮮。韓国の外交の歴史を振り返ると、南北関係が良ければ順調に進んでいることがわかります。つまり南北関係は、あらゆる外交関係を順調に進めるための第一歩といえます。


南北関係はいま不安定です。争点は武力で解決しないという約束をお互いに守るべきです。平和的に相互に依存し、共存するためには、やはり経済が大事。経済によってお互いの結びつきが強くなれば、その分だけ武力衝突の可能性は少なくなる。その希望を捨ててはいけません。国際的な制裁はしっかりやるべきですが、それだけではいけません。冷戦時代、米国とソ連は武力で競争しながらも対話の門は閉めませんでした。そういう姿勢で北朝鮮ともやっていかなければいけない。二度と戦争があってはならないからです。


韓国にとってただ一つの同盟国は米国であり、韓国の外交安保の核心は韓米同盟です。一方、中国は戦略的な協力同伴者という位置づけです。ただ、こう言うのは簡単ですが、具体的な話になるといろんな難しさがある。外交において最も大事なのは、政治指導者による説明責任ではないでしょうか。韓国が置かれている状況を冷静に説明する。朴槿恵政権には、こういう説明が足りませんでした。


南北統一は必然


日韓関係は、歴史問題以外は大丈夫だと思います。たとえ争点があっても交渉で解決できる。しかし歴史問題となると、お互いになかなか理性的に話せない。国民感情があるからです。この問題に対応するには、1998年に金大中大統領と小渕恵三首相が未来志向の関係と和解をうたった「日韓パートナーシップ宣言」の精神があります。両国の指導層がこの精神に反する言動を慎むことで問題も解決できるのではないでしょうか。


歴史問題の争点は過去にもありましたし、今もあります。未来にもあるでしょう。これをお互いに認め合うことです。日本と韓国のすべての国民が拍手喝采を送ることができる答えはありません。そうした深く成熟した相互の認識が必要なのです。


シンガポールや北欧のように人口が少ない国を除き、5000万以上で1人あたりGDPが2万ドル超の国は世界で7カ国しかありません。米国、ドイツ、英国、フランス、日本、イタリア、7番目が韓国。南北が統一すれば人口は8000万近く、国土は英国ほどになる。冷戦で分裂したドイツとベトナムは何十年も前に統一しました。朝鮮半島でも、南北統一は必然です。


98年に金大中大統領が訪日して日本の国会で行った演説は私が仕上げたのですが、中にこんな一節があります。「奇跡は奇跡的に訪れない」。民主化の奇跡を述べたものですが、これからの韓国にも当てはまるものだと思います。


(聞き手:神谷毅)

(「新しいモノ好きが韓国を救う」に続く)


チェ・サンヨン

ソウル大学を卒業後、東京大学で博士号を取得。首相の小渕恵三と大統領の金大中が未来志向的な関係をうたった1998年の「日韓パートナーシップ宣言」の作成にかかわった。2000年から2年間、韓国初の民間出身駐日大使を務めた。

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